公正処理基準と法人税の課税所得

税務

 法人税法22条4項では、法人の所得の金額の計算において収益の額および原価、費用等の額は、公正妥当と認められる会計処理の基準にしたがって計算される旨規定されていますが、その規定の意味するところを教えてください。

 法人税法22条4項は、法人税の課税所得の計算は、原則として、企業会計に準拠する旨を定めたものです。言い換えれば、法人税法は、課税所得の計算方法を網羅的には規定せずに、それが「公正妥当」である限り、企業利益を算定する企業会計に準拠するということです。ただし、ここでいう「公正妥当」が何を意味するのかは必ずしも明確ではありません。

解説

目次

  1. 会計処理基準と法人税の課税所得の関係
  2. 企業会計に準拠する範囲
  3. 法人税基本通達の位置付け
  4. 国際会計基準の位置付け

会計処理基準と法人税の課税所得の関係

 法人税法22条4項は、法人の所得の金額の計算において収益の額および原価、費用等の額は、公正妥当と認められる会計処理の基準にしたがって計算されると規定しています。

 この規定の趣旨は、法人税における課税所得が原則として企業会計上の利益を前提として算定されることを是認するところにあります。言い換えれば、法人税法は、課税所得の計算方法を網羅的には規定せずに、原則として、企業利益を算定する企業会計に準拠するということです。ただし、課税上の理由から、法人税法が別段の定めを置いて、企業会計と異なる計算方法を規定する場合があります

 たとえば、受取配当は、企業会計上は収益を構成しますが、課税上は重複課税を回避する必要があることから法人税法23条1項で益金の額に「算入しない」として、課税所得の計算において企業会計と異なる取扱いをすることを明らかにしています。

企業会計に準拠する範囲

 このように法人税法の大枠自体は明快ですが、細部に関しては、必ずしも取扱いが明確ではありません。
 まず、企業会計に準拠する範囲です。法人税法22条4項でいう「公正妥当と認められる会計処理の基準」の内容をどのように捉えるかという問題です。

 この点に関しては、最高裁が、「法の企図する公平な所得計算という要請」という観点から、「公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当するか否かを検証する旨を示唆しており(最高裁平成5年11月25日判決・民集47巻9号5278頁)、その後の下級審裁判例等でも、「公正妥当と認められる会計処理の基準」とは、企業会計の基準として妥当か否かまたは広く受容されているか否かという観点ではなく、適正な課税および納税義務の履行の確保という法人税法独自の観点から「公正妥当」であるか否かの検証が必要だということが強調されることがあります。

 たとえば、公認会計士協会の「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」(会計制度委員会報告第15号)は、法人税法の公平な所得計算とは別の観点から定められたものであるとして、「公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当しないと判示した裁判例があります(東京高裁平成25年7月19日判決・月報60巻5号1138頁)。

法人税基本通達の位置付け

 また、法人税基本通達の定めをどのように位置づけるか、という問題もあります。たとえば、法人税基本通達の第2章「収益ならびに費用及び損失の計算」の第1節「収益等の計上に係る通則」において、様々な取引について収益を認識する基準を定めており、課税実務上はこの定めに準拠して収益認識を行なっています。この法人税基本通達の定めはどのように位置付けるべきでしょうか。

 法人税基本通達の定めそのものが「公正妥当と認められる会計処理の基準」に含まれるとの解釈も示されることもありますが、法人税法22条4項を課税当局に「公正妥当と認められる会計処理の基準」を定める権限を付与した規定と解することは困難ですから、法人税基本通達は公正妥当な会計処理の基準を一応確認した定めと解すべきように思われます。

国際会計基準の位置付け

 国際会計基準審議会(IASB)および米国財務会計基準審議会(FASB)は、平成26年5月に「顧客との契約に関する収益」(IFRS第15号)を公表し、これを受けて、企業会計基準委員会は、平成29年7月20日に、「収益認識に関する会計基準(案)」(企業会計基準公開草案第61号。以下「公開草案」)を公開しました。

 この公開草案は、IFRS第15号の基本的な原則を取り入れたもので、アプローチの仕方(①契約の識別、②履行義務の識別、③取引価格の算定、④履行義務に対する取引価格の配分、⑤履行義務の充足)が従前と異なるだけではなく、結果としても、従前の収益認識の基準が許容されない場合がありそうです。たとえば、公開草案では、いわゆる長期割賦販売等でも、譲渡の時点で履行義務が充足することになるので(公開草案36項)、その日の属する事業年度にその収益の全額を計上しなければなりません。

 しかし、法人税法上は、長期割賦販売等で収益の計上を繰り延べるためには、延払基準の方法によって経理することが要件とされているため(法人税法63条1項)、公開草案のとおりの会計基準が適用された場合には、この要件を充足することは困難となります。そこで、平成30年度の税制改正において、企業会計と法人税法の調整が図られる予定です。

 収益認識の基準を定めている法人税基本通達の定めについても、企業会計における新たな収益認識基準が「公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当するか否かが容易に判定できるように、改正が行われると思われます。なお、棚卸資産の販売による収益認識について、IFRS第15号では出荷基準は許容されないこととされていますが、公開草案では出荷基準も許容されています(公開草案97項)。

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