2019年の消費増税に伴う経過措置が適用される取引は
税務2019年10月から消費税の税率が8%から10%に引き上げられます。前回の引上げ時には経過措置がありましたが、今回も同様の経過措置がありますか。もしあるとすれば、どのような取引について適用されるのか、その内容や留意点について教えてください。
2019年10月に予定されている消費税率の引上げに伴い、旅客運賃、電気料金、請負工事など一定の契約については、前回の引上げ時と同様の経過措置が設けられています。ただし、今回初めて設けられた経過措置や、軽減税率の導入に伴い経過措置の内容が一部修正されているものもありますので留意が必要です。
解説
目次
※本QAの凡例は注のとおりです 1。
1989年4月に3%でスタートし、1997年4月に5%、2014年4月に8%とすでに2回の税率引上げを行っている消費税ですが、3回目となる10%への引上げが2019年10月に予定されています。
消費税は、資産の譲渡や貸付け、役務の提供に対して課されますが、これらの行為が行われた時に有効な税率が適用されるのが基本です。つまり、2019年10月1日(以下、施行日)以後に行われる資産の譲渡や貸付け、役務の提供について新税率である10%が適用され、施行日前に行われるこれらの取引については旧税率である8%が適用されます(改正法附則15条)。ただし、一定の取引については施行日以後も引き続き旧税率である8%が適用される経過措置があります。本稿では主な経過措置についてその内容や留意点について解説します。
旅客運賃等、電気料金等に関する経過措置の概要
旅客運賃等
施行日以後に行われる電車や航空機等に係る旅客運賃、映画館、競馬場・競輪場、美術館・遊園地等への入場料金のうち、2014年4月1日から2019年9月30日までの間に領収されているものについては、旧税率が適用されます(改正法附則5条1項、16条1項)。
適用関係
電気料金等
継続供給契約に基づき施行日前から継続して供給されている電気、ガス、水道、電話、灯油に係る料金等で、施行日から2019年10月31日までの間に、一定期間における使用料を把握し、これに基づき料金が確定するものについては、旧税率が適用されます(改正法附則5条2項、16条1項)。なお、灯油については、前回の消費税率引上げ時には明示されていませんでしたが、今回の引上げに伴い追加されています。
適用関係
請負工事等に関する経過措置の概要
2013年10月1日(26年指定日)から2019年3月31日(31年指定日の前日)までの間に締結した工事や製造に係る請負契約に基づき、施行日以後に行われる建物や完成品の引渡しについては、旧税率が適用されます(改正法附則5条3項、16条1項)。工事や製造の他に、測量、地質調査、ソフトウエアの開発など請負や委任に係る契約で、仕事が完成するまで長期間を要するのが通例であり、かつ、目的物の引渡しが一括して行われるもののうち仕事の内容につき相手方の注文が付されているものも対象となります(改正令附則4条5項)。
「目的物の引渡しが一括して行われるもの」とありますが、目的物の引渡しを要しない請負等の契約であっても、たとえば、運送、設計、測量などで、その約した役務の全部の完了が一括して行われることとされているものは、この要件を満たします。これに対し、月極めの警備保障やメンテナンス契約のように期間極めの契約の場合には、その約した役務の全部の完了が一括して行われるものではありませんので、この要件を満たしません。
適用関係
資産の貸付けに関する経過措置の概要
2013年10月1日(26年指定日)から2019年3月31日(31年指定日の前日)までの間に締結した資産の貸付けに係る契約に基づき、施行日前から引き続き貸付けを行っている場合(次の①および②または①および③に掲げる要件に該当するものに限ります)、施行日以後に行う資産の貸付けは旧税率が適用されます(改正法附則5条4項、16条1項、改正令附則4条6項)。
- 資産の貸付けの期間および期間中の対価の額が定められていること
- 事情の変更その他の理由により対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと
- 契約期間中の当事者の一方または双方がいつでも解約の申入れをすることができる旨の定めがないこと、かつ、次に掲げることが契約において定められていること
適用関係
この経過措置が適用されるのは、資産の貸付けに係るものですから、法人税法上、資産の譲渡として取り扱われるファイナンスリースについてはこの経過措置の適用はありません。消費税法の適用にあたって、事業者が行うリース取引が、当該リース取引の目的となる資産の譲渡もしくは貸付けまたは金銭の貸付けのいずれに該当するかは、所得税または法人税の課税所得金額の計算における取扱いの例により判定されます(消費税法基本通達5−1−9)。
また、この経過措置の要件を満たす建物賃貸借契約に自動継続条項(いずれか一方の解約の申し出がない限り、当初の条件で自動的に契約が継続する条項)が定められている場合、施行日を含む当初の貸付期間については経過措置の適用はありますが、その後自動継続する期間については経過措置の適用はありません。
予約販売に係る書籍等、特定新聞、通信販売の税率等に関する経過措置の概要
予約販売に係る書籍等
2019年4月1日(31年指定日)前に締結した不特定多数の者に対する定期継続供給契約に基づき譲渡する書籍その他の物品に係る対価の全部または一部を2014年4月1日から施行日前に領収している場合、施行日以後に行われる書籍その他の物品の譲渡については、旧税率が適用されます(改正令附則5条1項)。
適用関係
特定新聞
不特定多数の者に週、月その他の一定の期間を周期として定期的に発行される新聞で、発行者が指定する発売日が施行日前であるもの(特定新聞)を施行日以後に譲渡した場合については、旧税率が適用されます(改正令附則5条2項)。
適用関係
通信販売
通信販売の方法により商品を販売する事業者が、2019年4月1日(31年指定日)の前に販売価格等の条件を提示した場合において、施行日前に申込みを受けて提示した条件に従って施行日以後に商品を販売した場合については、旧税率が適用されます(改正令附則5条3項)。
適用関係
軽減税率が適用される取引の場合
上記経過措置は、前回の消費税率引上げ時にもありましたが、今回の引上げ時には、軽減税率が導入される予定ですので、上記の取引のうち、軽減税率が適用される取引については、経過措置の適用はありません。
軽減税率制度は低所得者への配慮の観点から、「酒類・外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」を対象に実施されます。
つまり、軽減税率が適用される取引については、旧税率としての8%ではなく、新税率としての8%が適用されるということです。なお、旧税率と新税率では、国税である消費税と地方税である地方消費税の内訳が異なります。
適用時期 | ||||
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旧税率 | 新税率 | |||
軽減税率 | 標準税率 | |||
区分 | 消費税率 | 6.3% | 6.24% | 7.8% |
地方消費税率 | 1.7% (消費税額の17/63) |
1.76% (消費税額の22/78) |
2.2% (消費税額の22/78) |
|
合計 | 8.0% | 8.0% | 10.0% |
家電リサイクル法に規定する再商品化等
今回の改正に伴い新設されたもので、家電リサイクル法に規定する製造業者等が、特定家庭用機器廃棄物の再商品化等に係る対価(リサイクル料)を施行日前に領収している場合に、再商品化等が施行日以後に行われる場合(廃棄家電を施行日以後に引き渡す場合)、旧税率が適用されます(改正令附則5条5項)。
適用関係
まとめ
消費税率引上げに伴う経過措置は基本的には前回改正時と同様ですが、リサイクル料に関するものが新設されていること、予約販売・特定新聞・通信販売については、軽減税率適用対象取引に対して経過措置の適用がない点に留意が必要となります。
上記以外にも、冠婚葬祭のための施設の提供等の指定役務の提供に係るもの、有料老人ホームに係る終身入居契約に基づく役務の提供に係るもの、リース資産に係る資産の譲渡等の時期の特例の適用に係るものなどについて経過措置が設けられています。
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・改正法:社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(平成24年法律第68号)
・改正令:消費税法施行令の一部を改正する政令(平成26年政令第317号)
・31年指定日:改正法附則16条1項(第3条の規定による消費税法の一部改正に
伴う税率等に関する経過措置)において読み替えて準用する改正法附則5条3項(工事の請負等の税率等に関する経過措置)に規定する31年指定日(平成31年4月1日)
・26年指定日:改正法附則5条3項(工事の請負等の税率等に関する経過措置)に規定する指定日(平成25年10月1日) ↩︎

辻・本郷 税理士法人