特許審判の種類と手続
知的財産権・エンタメ特許審判について教えてください。どのような種類があり、また、その手続はどのようなものでしょうか。
特許審判とは、特許法が定める行政審判手続の総称で、拒絶査定不服審判、特許無効審判、延長登録無効審判、訂正審判の4つの種類があります。査定系審判と呼ばれる拒絶査定不服審判と訂正審判では審判請求人と特許庁との間で審理がなされます。当事者系審判と呼ばれる特許無効審判と延長登録無効審判では、審判請求人と特許権者の間で攻防がなされ、特許庁が判断を下す、当事者対立構造の審理がなされます。
解説
特許審判とその種類
特許審判とは、特許法が定める行政審判手続の総称で、その審決には訴訟における判決と同様の客観性が求められるため、準司法的な手続が用意されています。審理は、特許庁の審判官が構成する合議体によって行われます。
審判の種類は時代とともに変化してきましたが、現行法のもとでは、拒絶査定不服審判(特許法121条)、特許無効審判(特許法123条)、延長登録無効審判(特許法125条の2)、訂正審判(特許法126条)の4つの種類があります。
拒絶査定不服審判と訂正審判は、審判の請求人の申立てに対し、特許庁が審理を行い、審決をするもので、原則としてその手続に第三者が関与することはありません。これらの審判は、特許庁と請求人との間だけで審理がなされる点に着目し、「査定系審判」と呼ばれます。
他方、特許無効審判や、延長登録無効審判は、特許や延長登録を無効にしようとする者が請求人になり、特許権者との間で攻撃防御を尽くした上で特許庁が審決を下すという訴訟類似の審理構造を採用しています。これらの審判は、対立当事者構造のもとで審理がなされる点に着目し、「当事者系審判」と呼ばれます。
各審判の概要
各審判手続の概要は以下のとおりです。
拒絶査定不服審判
拒絶査定不服審判とは、特許の出願審査において審査官から拒絶査定を受けた者が不服を申し立てる審判手続をいいます(特許法121条1項)。拒絶査定に対する不服申立手続ではあるものの、審理対象は、拒絶査定の当否ではなく、出願にかかる発明について特許をすべきか否かであり、審判官は、拒絶査定を取り消し、または維持するのみならず、自ら新たな拒絶理由に基づいて拒絶査定をし、または、拒絶理由がないときは特許査定をすることもできます(特許法159条3項)。
拒絶査定不服審判の詳細については、「拒絶査定不服審判とは」を参照ください。
特許無効審判
特許無効審判とは、特許を無効にすることを目的とする審判手続をいいます(特許法123条1項)。特許無効審判が請求される背景には、特許権侵害を巡る紛争があることが多く、しばしば被疑侵害者の防御手段として利用されます。
特許無効審判の詳細については、「特許無効審判の概要と無効理由」「特許無効審判の請求人適格」「特許無効審判の審理と審決」を参照ください。
延長登録無効審判
延長登録無効審判とは、特許権の存続期間の延長登録を無効にすることを目的とする審判手続をいいます(特許法125条の2第1項)。延長登録は、許認可の取得に時間を要することから特許の存続期間内における実施が制約される医薬品と農薬に認められている制度で、これにより、最大5年間にわたって特許の延命が認められています。
延長登録無効審判も、特許権者と技術を利用しようとする第三者との利害対決を背景とすることが多く、しばしば後発医薬品(ジェネリック医薬品)メーカーによって利用されます。
延長登録無効審判の詳細については、「延長登録無効審判とは」を参照ください。
訂正審判
訂正審判とは、特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面(以下「明細書等」といいます)の訂正をすることを目的とする審判をいいます(特許法126条1項)。明細書等の変更は、特許登録前であれば「補正」という手続で行われますが、特許登録後は、要件が厳格化され、訂正審判または特許無効審判の中で行われる訂正請求によることとなります。
特許の訂正を巡る手続については「特許法における訂正とその手続」を、訂正審判の詳細については「訂正審判とは」を参照ください。
特許審判の種類 | 手続の内容 | |
---|---|---|
査定系審判 | 拒絶査定不服審判 | 特許の出願審査において審査官から拒絶査定を受けた者が不服を申し立てる審判手続(特許法121条1項) |
訂正審判 | 特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面の訂正をすることを目的とする審判(特許法126条1項) | |
当事者系審判 | 特許無効審判 | 特許を無効にすることを目的とする審判手続(特許法123条1項) |
延長登録無効審判 | 特許権の存続期間の延長登録を無効にすることを目的とする審判手続(特許法125条の2第1項) |
特許審判の請求
特許審判の請求は、所定の事項を記載した審判請求書を提出して行う必要があります(特許法131条1項)。審判を請求することができるのは、当事者系の審判では利害関係人(冒認または共同出願違反を理由とする特許無効審判の請求については、特許を受ける権利を有する者)で、査定系審判では特許権者ないし特許を受ける権利を有する者です。
特許権または特許を受ける権利を複数人が共有している場合において、当事者系審判を請求するときは、その全員を被請求人とする必要があり(特許法132条2項)、査定系の審判を請求するときは、共有者全員が共同して審判請求する必要があります(同条3項)。
審判官
特許審判は、3名または5名の審判合議体によって審理され(特許法136条1項)、合議は過半数によって決せられます(同条2項)。特許審判は準司法的性質を有するため、審判官については、裁判官と同様、除斥(特許法139条)や忌避(特許法141条)といった制度が規定されています。
特許審判の審理
特許審判の審理は、書面のやりとりのみによって進める書面審理と、関係者が一同に会して審理を行う口頭審理とがあります。当事者系審判は原則として口頭審理により、査定系審判は原則として書面審理によって進められます。具体的な審理については、前述の各審判手続の解説を参照ください。
特許審判の手続と民事訴訟との相違
特許法には、審判に関して、民事訴訟法類似の規定が多く置かれているほか、民事訴訟法の規定が数多く準用されています。
他方、特許審判は、特許権という対世効を有する権利の消長を決する制度であって、公益性が高いため、職権主義が原則となっています。具体的には、当事者が手続に応じなくとも審理を進めることができ(特許法152条)、また、証拠を職権探知することも認められています(特許法153条1項)。
審決と不服申立て
特許審判の審理が審決をするのに熟したときは、審判長は、審理の終結を当事者に通知し(特許法156条1項)、20日以内に審決をします(同条4項)。特許審判の審決に対しては、知的財産高等裁判所において、審決取消訴訟を提起することができます(特許法178条)。取消訴訟の概要については、「特許法上の審決等取消訴訟の概要と法的性質」を参照ください。

弁護士法人イノベンティア 東京事務所
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