訂正の再抗弁とは
知的財産権・エンタメ訂正の再抗弁とは何ですか。
訂正の再抗弁とは、特許権侵害訴訟において無効の抗弁が出された場合に、訂正審判または訂正の請求を行うことで、特許が無効と判断されることを回避し、無効の抗弁が認められることを防ぐ主張です。事実審の口頭弁論終結時までに主張しなければ上告審で訂正審決の確定を主張することは困難ですので、その主張の要否は迅速に判断する必要があります。
解説
訂正の再抗弁
訂正の再抗弁とは、特許権侵害訴訟において無効の抗弁が出された場合に、訂正審判または訂正の請求を行うことで、特許が無効と判断されることを回避し、無効の抗弁が認められることを防ぐ主張です(無効の抗弁については、「特許無効の抗弁とは」参照)。
訂正の再抗弁が認められている理由
特許法104条の3第1項は、「当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められる」ときに特許無効の抗弁を主張可能としていますので、無条件に特許無効の抗弁の主張が許されているわけではありません。
これは、行政処分としての特許の公定力に配慮した要件であると共に、最高裁平成12年4月11日判決・民集54巻4号1368頁(キルビー事件最高裁判決)において、最高裁が「訂正審判の請求がなされているなど特段の事情」がある場合には、特許に無効理由があることが明らかであっても、その権利行使は権利濫用とならないと判示したことを念頭においた規定であると考えられています。
そして、訂正については、特許に無効理由が存在している場合であっても、適切な訂正を行った訂正審決が確定等した場合には、特許査定時に遡って訂正され(特許法128条)、無効理由が存在しないことになります。このような場合にまで、特許無効の抗弁の主張を許すことが、必ずしも適切でないことは明らかであることから、訂正の再抗弁が認められているのです。
訂正の再抗弁の要件
一般的には、訂正の再抗弁を主張するためには、次の各事由のすべてを満たすことが必要と考えられています。
- 特許庁に対し適法な訂正審判の請求または訂正の請求を行っていること
- 当該訂正が訂正要件を充たしていること
- 当該訂正によって被告が主張している無効理由が解消されること
- 被告各製品が訂正後の特許発明の技術的範囲に属すること
ただし、①については、裁判例上、「特許権者による訂正請求等が法律上困難である場合には、公平の観点から、その事情を個別に考察し、適法な訂正請求等を行っているとの要件を不要とすべき特段の事情が認められるときには、当該要件を欠く訂正の再抗弁の主張も許される」(知財高裁平成26年9月17日判決・判時2247号103頁)と考えられています。
実務上の考慮
具体的にどのタイミングで、訂正の再抗弁を提出するかは難しい問題です。特許権者は、その前提として、訂正審判請求等を行い特許請求の範囲を減縮することは、当該訴訟にとどまらず、その権利行使全体に影響を与えうることから、可能な限り避けたいと考えることもあると思われます。
もっとも、他方において、事実審の口頭弁論終結時までに、訂正の再抗弁を主張しない場合、特許無効の抗弁が受け入れられた後に、訂正審決の成立を理由として上告をしても、訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り特許法104条の3および104条の4の趣旨に照らして、上告が棄却されます(最高裁平成29年7月10日判決・民集71巻6号861頁)。
そのため、実務上は、特許権侵害訴訟の係属中に無効審判請求があった場合には、迅速に訂正請求の要否を判断し、訂正請求の時期的制限と特許権侵害訴訟の進行を見据えつつ、適切な時期に訂正の対応をすることが必要といえるでしょう。

西村あさひ法律事務所
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