自己破産の取締役会決議ができない場合はどうすればよいか(準自己破産の申立て)

事業再生・倒産
宮本 聡弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所 小林 俊介弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 私は友人Aが代表取締役をしているB社の取締役を長年務めています。B社は取締役会設置会社で、私、A、およびC(Aの妻)の3名が取締役になっています。B社の資金繰りはすでに破綻しており運転資金は枯渇しています。取引先への支払はおろか、税金の支払も滞納している状況であり、債権者からは資産の差押えも受けています。

 私は取締役として、一日も早くB社が自己破産を申し立てるべきと考えているのですが、AやCはB社の存続に固執しており、私がAやCに自己破産の申立てを提案してもことごとく拒否されます。このような場合に、B社の取締役会決議を経ずに破産申立てを行う方法はあるのでしょうか。

 取締役会を設置している株式会社の破産申立ては、取締役会の決議を得て会社自ら行う(自己破産の申立て)のが通常ですが、個々の取締役にも破産を申し立てる権限が認められています(準自己破産の申立て。破産法19条1項2号)。そのため、質問のケースのように、取締役会設置会社において、何らかの事情で破産申立てについての取締役会決議を得ることが難しい場合には、個々の取締役が破産申立てを行うことが考えられます。

 参照:「会社(法人)の破産申請の概要

解説

目次

  1. 準自己破産の申立てとは
    1. 自己破産の申立て
    2. 準自己破産の申立て
  2. 自己破産の申立てと準自己破産の申立ての比較
    1. 申立ての要件が厳しいこと
    2. 申立てを行う取締役個人の負担が大きいこと
  3. おわりに

準自己破産の申立てとは

自己破産の申立て

 会社が弁済期にある債務を一般的かつ継続的に債務を弁済できない状態(これを「支払不能」といいます)にあるとき、または会社の債務額が会社の財産額を上回る状態にあるとき(これを「債務超過」といいます)には、裁判所が破産手続を開始する原因があるとされます(破産法2条11項、15条および16条)。

 設例では、B社は資金繰りが破綻して取引先や税金の支払を滞納しており、支払不能と考えられますので、破産の申立てがあり破産手続開始原因の存在が証明されれば破産手続を開始できる状況にあります。

 株式会社の破産は、会社が取締役会決議を行って自ら裁判所に破産を申し立てる、いわゆる「自己破産の申立て」により行われるのが一般的です。取締役会設置会社が「自己破産の申立て」を行うためには、意思決定機関である取締役会の決議を得る必要があるのが原則です。

準自己破産の申立て

 これに対し、設例のように、破産手続が望ましい状態にもかかわらず、取締役の過半数が破産申立てに反対している1 、あるいは一部の取締役の所在が不明であるなどの理由で破産申立てについて取締役会決議が得られず、自己破産の申立てができない場合がありえます。もっとも、こうした場合であっても、個々の取締役自らが申立人となって株式会社の破産申立てを行うことができます。これを「準自己破産の申立て」といいます。

自己破産の申立てと準自己破産の申立ての比較

 準自己破産の申立てには取締役会決議を得ずに破産手続を利用できるというメリットがありますが、準自己破産の申立てによる破産事件の件数は、少数にとどまっているのが現状です。その理由は以下のとおりです。

【自己破産申立てと準自己破産申立ての比較】

自己破産の申立て 準自己破産の申立て
取締役会決議 あり なし
申立時の破産原因の疎明 不要 必要
予納金等の負担 会社負担 (会社の協力を得られない場合)
取締役が負担(財団債権として優先弁済)
会社の協力 得られる 得られない可能性

申立ての要件が厳しいこと

 自己破産の申立ての場合、申立てを行うに際して支払不能や債務超過といった破産手続開始原因の存在を疎明(裁判官に「一応確からしい」との心証を持たせることを意味します)する必要はありません。

 これに対し、準自己破産の申立ては各取締役の一存で行えるため、嫌がらせ等の不当な目的で申立てがなされることを防ぐ必要があります。そのため、取締役が準自己破産の申立てを行うに際しては、証拠に基づいて説明し裁判官に破産手続開始原因の存在を疎明する必要があります。この疎明ができない場合には、破産申立ては不適法として認められないことになります。

 このように、準自己破産の申立ては自己破産の申立てと比べ、申立てを行う際の法律上のハードルが高くなっています。

申立てを行う取締役個人の負担が大きいこと

 会社の破産申立てを行う場合には、会社の資産負債に関する資料や債権者一覧表等の必要書類を揃えたり、破産手続に必要な費用をあらかじめ裁判所に納める「予納金」を準備する必要があります(破産法20条、破産法22条、破産規則13条など)。さらに、会社の破産申立てを円滑に行うにあたっては、専門の弁護士に依頼をするケースが多く、その弁護士費用も必要となります。

 自己破産の申立てを前提としている場合には、破産申立ての準備に支障が生じることは通常ありませんし、申立てに必要な費用も会社資金から拠出することが可能となります。

 これに対し、取締役個人が行う準自己破産の申立ての場合には、上記のような必要書類を自ら準備する必要があります。特に設例のように、代表取締役をはじめ取締役の過半数が破産手続に否定的な場合には、破産申立ての準備について会社の協力が得られないことも想定されます。また、会社の協力を得られない場合には破産申立ての予納金や弁護士費用等を取締役自ら用意する必要が出てくることもあります。予納金など破産手続に必要な費用を負担した取締役は、破産手続の中で財団債権として優先的に弁済を受けることができますが、それ以上に取締役個人が何らかの経済的な利益を得ることはできません。

おわりに

 準自己破産の申立ては、自己破産の申立てと比べて、想定される状況が一般的とはいえないこと、申立てのハードルが高くなっていること、申立てを行う取締役個人の負担が大きいことなどから、実務上用いられることが少ないのが現状です。しかしながら、破産申立てについて取締役会決議を得ることが難しい場合には、準自己破産の申立ては取締役が主体的に破産を申し立てる有力な手段となりえますので、準自己破産の申立てという制度の存在意義を理解しておくことが重要と考えます。


  1. 地域によっては取締役の過半数の同意があっても、取締役が一人でも破産申立てに同意していない場合、自己破産申立てではなく「準自己破産申立て」として取り扱われることがありますので、具体的に破産申立てを検討するにあたっては管轄の裁判所の運用を確認する必要があります。 ↩︎

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