派遣労働者が不正行為を行った場合、派遣元会社は派遣先会社に対してどのような責任を負うか

人事労務
赤木 貴哉弁護士 祝田法律事務所

 派遣元会社である当社は、派遣先会社に対し、当社の労働者を派遣しています。派遣労働者が、派遣先会社において従事している業務に関し不正行為を行った場合、当社は派遣元会社として、派遣先会社に対してどのような責任を負うのでしょうか。

 派遣元会社は、債務不履行責任または不法行為責任(使用者責任)に基づき、派遣先会社に生じた損害を賠償する責任を負う可能性があります。
 もっとも、不正行為が行われたことについて、派遣先会社にも落ち度がある場合には、過失相殺が認められる可能性があります。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 債務不履行責任(民法415条)
  3. 不法行為責任(使用者責任)(民法715条)

はじめに

 労働者派遣は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)2条1号において、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないもの」と定義されています。

 派遣労働者が、派遣先会社において従事している業務に関し不正行為を行ったことにより、派遣先会社に損害が生じた場合、以下に述べるとおり、派遣元会社は、派遣先会社に対し、債務不履行責任(民法415条)や不法行為責任(使用者責任)(民法715条)を負う可能性があります。

派遣労働者が、派遣先会社において従事している業務に関し不正行為を行ったことにより、派遣先会社に損害が生じた場合、以下に述べるとおり、派遣元会社は、派遣先会社に対し、債務不履行責任(民法415条)や不法行為責任(使用者責任)(民法715条)を負う可能性があります

債務不履行責任(民法415条)

 まず、一般論としては、派遣元会社は、業務適性を備えた者、すなわち、派遣先会社において従事する当該具体的業務の特殊性に応じた知識、知能、経験等を有することのほかに、より一般的な適性ともいうべき勤勉、誠実に業務を遂行することができる派遣労働者を派遣する債務を負っていると考えられます(テンブロス・ベルシステム24事件(東京地裁平成15年10月22日判決・判時1850号70頁)等)1

 また、エフエム・アイ事件(東京地裁平成9年12月26日判決・判タ1011号178頁)は、「労働者の派遣を受ける企業にとっては、派遣される労働者が、その私生活に乱れがあり、これがゆえに頻繁に職場放棄をするような責任感を欠如しているような労働者でないことは、その知識・経験・技術といった事柄以前の問題であり、最低限の条件である。特に、派遣を受ける企業は、当該労働者を短期間に即戦力として使用するため、自社の業務の内部に即時に入らせ、その執行を相当程度委ねる以上、信頼が大切であり、人間性・責任感に問題がないことは絶対的に必要な要件であるというべきである」と判示しているため、「業務適性」には、私生活に乱れがない、頻繁に職場放棄をしない等、派遣労働者の人間性・責任感に問題がないこと等も含まれると考えられます2

 以上からすれば、派遣元会社は、一般論として、業務適性を備えた派遣労働者を派遣する債務を負っているといえます。
 そのため、派遣労働者が、派遣先会社において従事している業務に関し不正行為を行った場合には、不正行為を行うような派遣労働者が業務適性を備えた派遣労働者といえるのかが問題となり、当該事案における個別事情にもよりますが、派遣元会社は債務不履行責任(民法415条)を負う可能性があります。

 また、実務的には、労働者派遣契約書において、「派遣労働者が、故意又は過失により、派遣先会社又は第三者に損害を生じさせた場合には、派遣元会社はその損害を賠償する責任を負う。」といった損害賠償条項が定められていることも想定されます。このような損害賠償条項が定められている場合には、その条項を解釈したうえで、当該事案における個別事情を当てはめて判断することになります。

 なお、仮に、派遣元会社が債務不履行責任を負う場合であっても、不正行為が行われたことについて、派遣先会社にも落ち度がある場合には、過失相殺(民法418条)が認められる可能性があります。

不法行為責任(使用者責任)(民法715条)

 民法715条1項本文は、使用者責任について、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と定めています。派遣元会社が「ある事業のために他人を使用する者」にあたり、また、派遣労働者が派遣元会社の「事業の執行について」、派遣先会社に損害を加えたと認められた場合には、派遣元会社は、派遣先会社に対し、不法行為責任(使用者責任)を負うこととなります

 この点、派遣元会社が民法715条1項本文に定める使用者にあたると判示した裁判例として、テンブロス・ベルシステム24事件(東京地裁平成15年10月22日判決・判時1850号70頁)があります。この裁判例は、

  • 派遣労働者が、派遣元会社との間で雇用契約を締結して、派遣元会社の指揮監督を受ける労働者となったうえでその雇用関係を維持しつつ、派遣元会社の命令によって一時的に派遣先会社の下に派遣され、その指揮監督下で労働することになったこと
  • 派遣元会社が派遣先会社から派遣料の支払を受けて派遣労働者の労働により利益を得ていたという関係にあること

などから、派遣元会社が民法715条1項本文に定める使用者にあたると判示しています。

 また、派遣労働者が派遣先会社において従事している業務に関し、不法行為を行った場合には、当該不法行為は派遣元会社の「事業の執行について」行われたものといえることが多いであろうとの指摘もなされています3

 そのため、派遣元会社は、派遣労働者が派遣先会社において従事している業務に関し不正行為を行った場合、不法行為責任(使用者責任)に基づき、派遣先会社に生じた損害を賠償する責任を負う可能性があります。たとえば、パソナ事件(東京地裁平成8年6月24日判決・判時1601号125頁)では、派遣労働者の派遣先会社での横領行為について、派遣元会社が派遣先会社に対し不法行為責任(使用者責任)を負うと判示しています。

 なお、民法715条1項ただし書は、使用者が被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでないと定めているため、派遣元会社がこうした要件を満たすと認められる場合には責任を負いません。もっとも、同条項ただし書の免責事由の存在は容易に認められるものではないと考えられています。

 また、仮に、派遣元会社が不法行為責任(使用者責任)を負う場合であっても、不正行為が行われたことについて、派遣先会社にも落ち度がある場合には、過失相殺(民法722条2項)が認められる可能性があります。


  1. 和田肇ほか編『労働者派遣と法』248頁(濱畑芳和)(日本評論社、2013)、鎌田耕一=諏訪康雄編『労働者派遣法』123頁(橋本陽子)(三省堂、2017)等参照 ↩︎

  2. 前掲注1和田ほか編・248頁〔濱畑〕参照 ↩︎

  3. 前掲注1鎌田=諏訪編・235頁(山川隆一)、島田陽一「派遣労働者の不正行為についての労働者派遣事業者の損害賠償責任」判時1876号(判例評論552号)191頁等参照 ↩︎

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