再雇用制度と定年引上げにはどのような違いがあるか

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 当社では定年制度について再検討したいと考えています。再雇用制度と定年引上げにはどのような違いがあるのでしょうか。

 再雇用制度の場合、定年を迎えた時点で一度労働者との雇用契約が終了することから、雇用先をグループ会社に変更することや、雇用形態および労働条件について高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえつつ労働契約法20条に反しないものであれば変更が可能であるなどの点で、定年引上げと相違があります。

解説

目次

  1. 高年齢者雇用安定法と雇用確保措置
  2. 再雇用制度と定年引上げの相違
    1. 対象者
    2. 雇用先変更の可否
    3. 雇用形態および労働条件変更の可否
    4. 社会保険料
  3. 再雇用制度と定年引上げの相違(まとめ)

高年齢者雇用安定法と雇用確保措置

 高年齢者が年齢にかかわりなく働き続けることができる生涯現役社会の実現に向け、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下、「高年齢者雇用安定法」といいます)は、企業に対して「定年の引上げ」「継続雇用制度」「定年の定めの廃止」のいずれかの高年齢者雇用確保措置を講じることを事業主に義務付けています(高年齢者雇用安定法9条1項)。

 このうち、「継続雇用制度」とは、現に雇用している高年齢者が希望するときは当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度であり、再雇用制度と勤務延長制度(定年の経過後も雇用契約を終了させずに雇用を継続する制度)に分かれます。以下、本稿では前者について取り上げます。

 厚生労働省が公表している「平成29年『高年齢者の雇用状況』集計結果」によれば、高年齢者雇用確保措置を講じている企業の内訳としては、「定年の引上げ」が17.1%、「継続雇用制度」の導入が80.3%、「定年制の廃止」が2.6%となっています。

雇用確保措置の内訳
出典:厚生労働省「平成29年『高年齢者の雇用状況』集計結果」より「雇用確保措置の内訳」表を引用

再雇用制度と定年引上げの相違

 それでは、再雇用制度と定年引上げには、具体的な場面においてどのような違いがあるのか、以下で順に確認していきます。

対象者

(1)再雇用制度の場合

 再雇用制度の場合、平成25年3月31日まで(改正高年齢者雇用安定法の施行前)に労使協定を締結していた場合には、継続雇用制度の対象者を限定することが可能です。対象者を限定する基準については、具体性(意欲、能力等をできる限り具体的に測るものであること)と、客観性(必要とされる能力等が客観的に示されており、該当可能性を予見することができるものであること)を有している限りは原則として労使に委ねられていますが、恣意的な継続雇用の排除や他の労働関連法規等に反するものは認められません(参照:厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」Q4-1)。

 かかる労使協定を締結していない場合には、希望する高年齢者全員が再雇用制度の対象となります。なお、「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」(平成24年11月9日厚生労働省告示第560号。以下「運用指針」といいます)によれば、心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由または退職事由(年齢に係るものを除きます)に該当する場合には、継続雇用しないことができるとされています。

(2)定年引上げの場合

 定年引上げの場合、変更された就業規則が全員に適用される結果、(積極的に希望しない者も含めて)現に雇用している高年齢者すべてが対象となります。もっとも、上記運用指針で継続雇用の対象から除外されるような従業員については、別途解雇することを検討することになります。

雇用先変更の可否

(1)再雇用制度の場合

 再雇用制度の場合、定年を迎えた時点で一度労働者との雇用契約が終了することから、必ずしも同じ事業主の下で雇用する必要はありません。事業主は、グループ会社(特殊関係事業主:子法人等、親法人等、親法人等の子法人等、関連法人等、親法人等の関連法人等。詳細な要件については、厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」Q5-1参照)との間で契約を締結することで、当該特殊関係事業主が引き続いて雇用することが認められています(高年齢者雇用安定法9条2項)。

 参照:「グループ会社を継続雇用先として拡大したいが、どのような契約を締結すればよいか

(2)定年引上げの場合

 定年引上げの場合、旧定年(延長前の定年)を超えた場合でも、出向等によることは別段、雇用先自体を変更することはできません

雇用形態および労働条件変更の可否

(1)再雇用制度の場合

 再雇用制度の場合、定年を迎えた時点で一度労働者との雇用契約が終了することから、従前の無期雇用契約(いわゆる正社員)から嘱託やパートなどの有期雇用契約に変更することが可能です。もっとも、1年ごとなど一定の期間ごとに雇用契約を更新する形態については、高年齢者の安定した雇用を確保するという高年齢者雇用安定法の趣旨に鑑みれば、65歳までは、高年齢者が希望すれば原則として契約が更新されることが必要です。

 次に、具体的な労働条件については、上述の高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえたものであれば、最低賃金などの雇用に関するルールの範囲内で、フルタイム、パートタイムなどの労働時間、賃金、待遇などに関して、事業主と労働者の間で決めることができます(参照:厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」Q1-4)。

 もっとも、長澤運輸事件の最高裁判決(最高裁平成30年6月1日判決・労判1179号34頁)は、定年後再雇用時に給与の引き下げを行うことについて、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁止する労働契約法20条の適用があると判断しました。

労働契約法
(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 そして、本判決は、労働条件の相違が不合理と認められるかの判断に当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきとしています。その上で、労働条件の相違が不合理であると評価される場合には、会社側は不法行為に基づく損害賠償責任を負うとしています。

 そのため、再雇用制度に基づいて労働条件を変更する(引き下げる)場合には、各賃金項目(基本給、各種手当、退職金)等の相違が不合理であるといえないかを検討する必要があります。仮に、現在の制度における相違が不合理であると判断される場合には、再雇用の前後で「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲」を変更して相違の不合理性を解消するか、賃金項目の相違を解消(縮小)する等の対応が求められます。

 なお、労働契約法20条は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)の成立に伴う法改正により削除され、同趣旨の規定が「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の第8条に新設されることとなっています(施行日は2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日))。

(2)定年引上げの場合

 定年引上げの場合、旧定年を超えたことをもって、雇用形態および労働条件を変更することはできません

社会保険料

(1)再雇用制度の場合

 再雇用制度の場合、社会保険料については、一般的には、給与の大幅な減額があった場合、標準報酬月額が改定されるのは減額後4か月目からとなります(随時改定)(参照:日本年金機構「随時改定」)。この点、事業主が被保険者資格喪失届と被保険者資格取得届を同時に年金事務所に提出することにより、再雇用された月から再雇用後の給与に応じた標準報酬月額となります(同日得喪)

(2)定年引上げの場合

 定年引上げの場合、旧定年を超えて給与が減額となった場合でも、標準報酬月額が改定されるのは、原則どおり減額後4か月目からとなります。

出典:日本年金機構「退職後継続再雇用された方の標準報酬月額の決定方法が適用される範囲の見直し」をもとに作成

再雇用制度と定年引上げの相違(まとめ)

 上記2の再雇用制度と定年引上げの相違をまとめると、以下の表のとおりとなります。  

項目 再雇用制度 定年引上げ
対象者 解雇事由または退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合には、継続雇用しないことができる 現に雇用している高年齢者すべてが対象
雇用先変更 特殊関係事業主が引き続いて雇用することが認められている 雇用先自体を変更することはできない
雇用形態および労働条件変更の可否
  • 従前の無期雇用契約(いわゆる正社員)から嘱託やパートなどの有期雇用契約に変更することが可能
  • フルタイム、パートタイムなどの労働時間、賃金、待遇などに関して、事業主と労働者の間で決めることができる(ただし、労働契約法20条に反しないことが必要)
雇用形態および労働条件を変更することはできない
社会保険料(給与が減額となった場合)
  • 一般的には、標準報酬月額が改定されるのは減額後4か月目から(随時改定)
  • 事業主が被保険者資格喪失届と被保険者資格取得届を同時に年金事務所に提出することにより、再雇用された月から再雇用後の給与に応じた標準報酬月額となる(同日得喪)
標準報酬月額が改定されるのは、原則どおり減額後4か月目から

 このように、事業主からみた場合には、再雇用制度の方が柔軟な運用が可能であるなどのメリットが多いのですが、他方で、再雇用制度により労働条件等を引き下げた場合には、従業員のモチベーションの低下を招き、ひいては人材の流出につながるおそれもありますので、その点もふまえて制度の比較・検討を行うことが望ましいといえます。

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