反社会的勢力に対する債権の回収方法について(預金保険機構による特定回収困難債権買取制度の活用)

危機管理・内部統制
本行 克哉弁護士 弁護士法人中央総合法律事務所

 当行は、Y社に対して、貸付債権5,000万円を有しているところ、同債権についてはすでに期限の利益を喪失しています。Y社は、暴力団員Aが代表取締役を務めていますが、すでに営業は行っておらず、めぼしい資産もないため、同債権については回収見込みがない状況です。当行はサービサーに対して、同債権の債権譲渡を申し入れましたが、サービサーからは反社会的勢力を債務者とする債権は買い取りしないとして拒絶されました。
 当行としては、今後、上記債権についてどのような回収方針をとるべきでしょうか。

 預金保険機構による特定回収困難債権の買取制度を活用することが考えられます。

解説

目次

  1. 特定回収困難債権買取制度の概要
  2. 手続の流れ
  3. 質問の事案について

特定回収困難債権買取制度の概要

 平成23年5月13日に成立した預金保険法の一部を改正する法律により、特定回収困難債権制度が創設され、同年10月29日に預金保険機構により、同制度のガイドライン(「特定回収困難債権の買取りに係るガイドライン」。以下、「ガイドライン」といいます)が公表されました。その結果、翌年には、実際に買取りがスタートしています。
 同制度は、金融機関から反社会的勢力等に対する債権を含む特定回収困難債権を買い取ることにより、「金融機関の財務内容の健全性等を図り、信用秩序の維持に資すること」を目的としたものであるとされています。

 そして、買取りの対象となる債権としては、金融機関が回収のために通常行うべき必要な措置をとることが困難となるおそれがある特段の事情があるものとされ、その例示として、以下の2つが挙げられています(預金保険法101条の2第1項)。   

  1. 属性要件
    当該貸付債権の債務者又は保証人が暴力団員(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律 (平成3年法律第77号)第2条第6号 に規定する暴力団員をいう)であって当該貸付債権に係る契約が遵守されないおそれがあること。

  2. 行為要件
    当該貸付債権に係る担保不動産につきその競売への参加を阻害する要因となる行為が行われることが見込まれること。

 買取対象となるためには、属性要件または行為要件のいずれかを満たす必要がありますが、各要件の詳細と各要件についての考え方はガイドラインにおいて定められています。

手続の流れ

 本制度の買取手続の流れとしては、まずは、金融機関から仮の申込みが行われ、預金保険機構において警察へ属性照会を行い、追加の必要資料があればその依頼等を行います。
 その結果、買取りの要件を満たすというものについては、正式な申込を受け付け、その後、買取審査委員会で買取りの可否および買取価格を審議し、意見を述べ、当該意見を踏まえて預金保険機構運営委員会で買取りを決定することになります。
 買取りが決定されると、整理回収機構へ特定回収困難債権の買取りが委託され、整理回収機構で買取りの上、回収が行われることになります。
 当該債権の回収にあたっては、罰則付きの財産調査も可能となっており、強力な債権回収を図ることが可能となっています。

 なお、債務者からは、買取理由の開示請求や、特定回収困難債権の該当性について異議の申出を行うことが可能であり、異議が出された場合には、買取審査委員会で再検討し、申出が認められた場合、買取契約を解除することになりますが、平成25年8月12日時点では、開示請求や異議の申出がなされた例はないということです。

特定回収困難債権買取手続の流れ

出典:「特定回収困難債権の買取りに係るガイドライン」Ⅱ 買取手続 記載の図を編集のうえ引用

質問の事案について

 本件のようなケースでは、Y社にめぼしい資産がない以上、実効性のある回収をはかることが困難です。他方で、反社会的勢力に対する債権が時効によって消滅すると利益供与と評価される危険性もありますので、時効中断措置は行う必要があり、債権管理にも一定のコストを要することが想定されます。

 したがって、このような事例であれば、特定回収困難債権買取制度の利用を検討すべく、まずは、属性要件等を満たすか否か等について預金保険機構への相談を行うことが望ましいと考えます。

 その上で、買取りとなれば、仮に備忘価格であるとしても、半永久的な管理から逃れることができるため、相応のメリットがあるといえます。

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