反社会的勢力が関与する任意売却に応じてもよいか
危機管理・内部統制当社は、X社に対して1億円の貸付債権を有しており、これを被担保債権として、X社所有不動産に抵当権を設定しています。今般、X社より、仲介業者Y、買主Zとして、任意売却の申出がありました。仮に、3者のいずれかが反社会的勢力の場合に、任意売却に応じることはできるでしょうか。
仲介業者Yが反社会的勢力である場合には、利益供与に該当する恐れがあるため応じるべきではありません。買主Zが反社会的勢力である場合にも、全額弁済となる等の特別の事情がない限りは応じるべきではありません。
もっとも、売主Xが反社会的勢力である場合、YとZが反社会的勢力でない場合には、応諾することが許容される場合があると考えます。
解説
反社会的勢力と取引をするリスク
こちらについては、 「なぜ反社会的勢力を排除しなければならないのか」をご覧ください。
仲介業者が反社会的勢力である場合
仲介業者が介在する任意売却の場合、成立するとなれば、仲介業者に対し、仲介手数料が支払われることになります。
そして、仲介業者が反社会的勢力である場合には、まさに仲介業者に対して利益を供与したこととなり、そのことについて正当な理由も見いだし難いため、暴排条例違反や、監督官庁からの指摘、レピュテーションリスクが生じる可能性があります。
したがって、 仲介業者が反社会的勢力である限りは、この任意売却には応じるべきではありません。 任意売却を進めたい場合には、仲介業者の交代を示唆する等の工夫を要することになります。
買主が反社会的勢力である場合
買主が反社会的勢力である場合には、仮に価格が公正であるとしても、反社会的勢力が欲しい物件を取得する取引を助長するという点で、それ自体が利益供与と捉えられ、監督官庁からの指摘や、レピュテーションリスクが生じる可能性があります。
また、売却後、反社会的勢力に資する形、例えば暴力団の組事務所や、幹部の自宅として利用される可能性も否定できず、任意売却後すぐにこのような使用がされると判明した場合には、レピュテーションリスクが発生する可能性があります。
以上から、 買主が反社会的勢力の場合には、任意売却に応じることは避けるべきと考えます。
もっとも、この任意売却の売却代金によって、債務全額が弁済されるという場合には、抵当権抹消に応じざるをえないため、このようなケースでは、任意売却に応じることはやむをえないと考えます(あえて担保解除に同意せず、抹消請求を受ける必要まではないと考えます)。
売主が反社会的勢力である場合
例えば、対象物件の売却代金が負債総額を下回るような状態、いわゆるオーバーローンの場合には、任意売却が成立したとしても、売却代金が売主に流れることはなく、原則として反社会的勢力に利益を供与したとは評価されないと考えます。
もっとも、 対象物件が、組事務所や幹部宅に利用されていて暴力団関係者が頻繁に出入りしているような場合には、任意売却では使用状況が変わらない可能性があり、この場合には、担保不動産競売を行わなかったことについてレピュテーションリスクが生じる可能性があります ので、任意売却に応諾することには慎重になる必要があります。
また、売主が反社会的勢力の場合には、仲介業者や買主も、売主と一定の関係を有する可能性がありますので、反社会的勢力該当性のチェックはより慎重に行うことが望ましいといえます。
まとめ
以上のとおり、仲介業者や買主が反社会的勢力である場合には、原則として任意売却には応諾せず、売主が反社会的勢力である場合には、事案に応じて、応諾の可否を検討するということになります。もっとも、個々の事情を踏まえた個別事案ごとの判断となるため、任意売却に応諾する方針を採用する場合には、弁護士の意見を求めるなど慎重を期すことが望ましいでしょう。
なお、任意売却の関係者のいずれかが反社会的勢力である場合には、事案にかかわらず、一律に任意売却には応じないという判断をする金融機関もあると聞きます。
この点、事案によっては、任意売却に応諾するという選択がありうるとしても、個別事案ごとにその判断を行うことは煩雑であり、反社会的勢力が関与する取引である以上、他の関係者とも一定の関係がないとはいえません。
また、売却後にこの物件が反社会的勢力に資する形で使用されるリスクも0ではないこと等を考えると、関係者の一部でも反社会的勢力である場合には、一律に任意売却に応じないという判断もありうるところであり、このような判断も合理性を有すると考えます。
