反社会的勢力該当性に関する情報収集の重要性およびその方法について
危機管理・内部統制反社会的勢力との取引を排除する体制を整備したいと考え、契約書に「暴排条項」を追加しました。そもそも反社会的勢力とは取引をしない事が大切とは思っていますが、万が一、反社会的勢力と取引をしている事が発覚した場合、取引を解消するために重要なことを教えてください。
反社会的勢力との取引が生じる可能性を少なくし、取引が生じた後に反社会的勢力であると判明した場合、契約書のいわゆる「暴排条項」によって取引を解消できるようにするためには、反社会的勢力該当性に関する情報の収集が重要です。情報収集の方法には、警察からの情報提供、新聞・雑誌やインターネット等の各種媒体から取得する方法がありますが、具体的な場面に応じて情報収集に努めることになります。
解説
目次
反社会的勢力と取引をするリスク
こちらについては、「なぜ反社会的勢力を排除しなければならないのか」をご覧ください。
情報収集の重要性
契約締結検討段階における情報の重要性
一旦取引を開始してから反社会的勢力に属することが判明したとして取引を解消するには相応の費用と時間を要することから、そもそも反社会的勢力との取引を行わないことが重要です。
そのためには、日々反社会的勢力該当性に関する情報を広く収集し、常にその情報に接することが重要です。契約締結の段階では契約締結自由の原則が働くので、契約締結を拒絶する場合に拒絶理由を示す必要はありません。
そのため、この段階で必要となる情報は、警察からの情報だけにとどまらず、広く収集した情報を利用することが可能です。
具体的な収集方法は、本稿の「3 証拠収集の方法」を参考ください。
取引解消段階における情報収集の重要性
取引を開始した先が反社会的勢力であることが判明し、暴排条項によって取引の解消を図る場合には、暴排条項に基づいて取引を解消することになり、相手方が争う場合には暴排条項に該当することの証明を要することになります。
仮に訴訟において証明に失敗して敗訴した場合には、相手方から、損害賠償請求を受ける可能性もあります。
したがって、取引解消段階においては、警察からの情報提供を受けることが原則であり、警察からの情報提供を得られず、その他の情報による場合には、確実に証明可能な情報(例えば行為要件に該当することが明らかにできる録音、録画が存在する等)に基づく必要があります。
その他重要なこと
なお、情報が正確であるべきことはもちろんですが、日々変わり得るものであることから、常に新しい情報の入手を心がけることが必要です。
また、反社会的勢力該当性の判断に結びつく情報には濃淡があって、一つ一つの情報だけでは該当性の判断への結びつきが希薄であり、総合的に判断を行うという場合も多くあり、その場合には、判断のプロセスも重要になります。
どこから入手した、いつの時点の情報かを明らかにした上で、判断のプロセスを検証できるような体制を整備しておくことも重要です。
証拠収集の方法
警察からの情報提供
警察から正式に提供を受けた情報は、最も正確性が担保されていると考えることができ、訴訟で争いとなった場合の有力な立証方法だといえます。警察庁では通達(「暴力団情報の部外への情報提供について」(平成25年12月19日に最新の改正)を出しているので、この通達を前提とする必要があります。
この通達以外に警察から情報提供を受ける方法として、弁護士に依頼し、弁護士法23条の2に基づく照会を行う方法もあります。
この点、警察情報では暴力団員と認定されていたものの、所属していた組に脱退届が提出されていたことを重視し、暴力団員であることを基礎づける事情を認めるに足りる証拠はないとした裁判例もあります(宮崎地裁平成23年10月3日判決。控訴審である福岡高裁宮崎支部平成24年4月27日判決では、暴力団組織やその関係者と強く結びついていたものと推認されると判断されています)。
そのため、警察情報だけで判断することはリスクが残り、融資の期限の利益喪失など債務者への影響が大きい局面では、警察情報の根拠となる事情や、その他の資料(新聞、雑誌等)も可能な限り確認する対応が望まれます。
警察への相談先
- 最寄りの警察署
- 組織犯罪対策第三課
- (公財)暴力団追放運動推進都民センター
他の情報
新聞・雑誌やインターネットの情報の他、次のようなものが考えられます。
入札参加資格停止情報
国土交通省や地方公共団体では、入札参加資格の停止措置がなされ業者名やその理由を公表しており、その理由中で反社会的勢力との関係について言及されていることがあります。
興信所の調査報告書
興信所を利用して身辺調査を行うというケースもあります。例えば、札幌高裁平成22年6月25日判決は、日本中央競馬会が個人馬主登録の申請に対し、申請者には暴力団関係者との交際が認められ、競馬の公正を害すると認めるに足りる相当な理由があるとして申請を拒否し、当該処分の違法性が争点となった事案ですが、興信所の調査を一資料として判断がなされています。
行為要件に関する情報の収集
反社会的勢力に属することを理由とする取引の解消に関する条項では、属性要件の他、属性にかかわらず一定の行為を行ったという行為要件を定める場合があります。このような行為要件については、まさに行為を証明する必要があり、録音や録画の他、担当者の詳細な報告書が有効です。
