反社会的勢力から不当要求がなされた場合の民事上の対応手段について
危機管理・内部統制当社は地方の信用金庫ですが、あるお客様に対して、スタッフの対応ミスがありました。運が悪いことに、その相手は反社会的勢力の一員であり、それ以後頻繁に店舗へ電話をかけてきて、脅迫めいた事を言われています。どのように対処したらよいのでしょうか。
不当要求には、執拗な電話や文書の送付、支店への頻繁または長時間の来店、街宣車で街宣行為を行うこと等があります。このような場合、要求内容の整理を行った上で毅然として謝絶をすべきですが、不当要求行為が継続する場合もあります。その場合には、警察に相談をするほか、仮処分手続の活用、差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟を行う対応を検討することになります。
解説
目次
反社会的勢力と取引をするリスク
こちらについては、 「なぜ反社会的勢力を排除しなければならないのか」をご覧ください。
監督指針の内容
金融庁の平成26年6月付の「 中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(Ⅱ-3-1-4「反社会的勢力による被害の防止」、Ⅱ-3-1-4-2「主な着眼点」、(3) 適切な事前審査の実施)には、以下のとおり記載されています。
反社会的勢力から不当要求がなされた場合には、担当者や担当部署だけに任せることなく取締役等の経営陣が適切に関与し、組織として対応することとしているか。また、その際の対応は、以下の点に留意したものとなっているか。 中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針
そのうえで、「(6)反社会的勢力による不当要求への対処」には以下のとおり記載されています。
③ あらゆる民事上の法的対抗手段を講ずるとともに、積極的に被害届を提出するなど、刑事事件化も躊躇しない対応を行うこと。 中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針
実際には、不当な要求なのかどうかで争いになるケースもあります。不当要求について明確な基準はありませんが、要求内容自体が社会的相当性を欠くという場合と、要求態様が社会的相当性を欠くという場合がありえ、後者の場合に問題になるケースが多いように思います。
そのため、実務において不当要求が発生したような場合は、経営陣が関与したうえで、次の「3. 不当要求に対する初動対応」にしたがって対策を取ることが望ましいと思われます。
不当要求に対する初動対応
事実関係の整理、証拠の収集
まず、現時点での情報に基づき現状の整理を行う必要があります。すなわち、以下を把握します。
- 要求者に関する情報(氏名、住所、取引の有無、反社会的勢力の属性)
- 要求内容に関する情報(具体的な要求があるか、害悪の告知があるのか)
- 要求経緯に関する情報(当方に非があることから発生しているものか)
相手方とのやり取りに際しては、記録化が重要で、録音録画も一つの方法ですが、面前で具体的な言動についてメモをとることは重要です。詳細なメモが不穏当な言動を抑止する効果があるということもできます。
警察等との連携
要求者が反社会的勢力である場合や、生命・身体・財産等に何らかの危険性がある場合には、直ちに警察に相談をし、場合によっては警備要請を行います。
謝絶の意思を表明する
不当要求行為に対しては、毅然として謝絶の意思を表明することが重要です。仮に、従前の経緯において当方側に何らかの非があるという場合、非がある部分について謝罪すべきだと考えるとしても、その先にどういう要求が続くのかが見えないところがあります。
謝罪する部分は明確にして謝罪し、それ以外は具体的な場面ごとに毅然と対応していくべきです。対応に際しては、弁護士に依頼し、弁護士名での内容証明郵便による通知を送ることは望ましい方法の一つです。
仮処分手続の利用
仮処分手続の留意点
不当要求行為が継続し業務に支障が出るような場合、民事保全法上の仮処分手続を利用することが有効です。
仮処分手続では比較的早期に裁判所の決定を得られますが、このような仮処分手続では、相手方は仮処分手続が申し立てられていること自体を知ってしまうことになることに留意が必要です。
それでいて、仮処分の決定が出ないということになりますと、相手方の行為にガイドラインを与えてしまう結果になりますので、必ず決定が得られるというだけの事実関係を押さえる必要があります。
不当要求に対する仮処分の類型
不当要求に対する仮処分の類型として、主なものとしては以下のようなものが挙げられますので、 類型ごとに事実関係を押さえるために必要となる情報の一例を記載します。
街宣活動禁止の仮処分
街宣車のナンバーを記録し、弁護士に依頼の上、弁護士が弁護士法23条の2に基づく照会を行って、相手方を特定する必要があるでしょう。また、街宣行為の写真撮影、録音等を行うことも必要となります。
架電禁止の仮処分
支店や担当者に執拗に電話を行うケースがあります。相手方の電話番号が把握できているのであれば、弁護士に依頼の上、弁護士法23条の2に基づく照会によって当該電話の所有者から相手方を特定することが考えられます。また、通話記録を取得し、架電がなされる度に、開始日時、終了日時、通話者、通話内容等を記録化しておく必要があります。
面談要求禁止の仮処分
担当者等に対し、強硬に面談を求めるケースがあります。面談要求がなされる度に、その要求日時、要求態様等を記録化しておく必要があります。
立入禁止の仮処分
何度も来店して、退店を求めても退店しないケースがあります。ビデオ撮影、録音等を記録化しておく必要があります。
本案訴訟
仮処分手続は「仮の」手続ですので、最終的な権利義務の関係は訴訟で決することになります。
不当要求行為によって、損害が発生した場合(例えば、備品を損壊された、連日の街宣行為によって営業が困難になった等)には、別途不当要求者に対して損害賠償請求訴訟を提起することも考えられます。
