メザニン・ファイナンスにおけるメザニン(劣後)ローンのポイント

ファイナンス

 メザニン・ファイナンスとは何ですか。メザニンローンはどのように組成するのですか。

 優先劣後構造上、上位層のシニア債務には劣後するものの、下位層の普通株式には優先するものをメザニンといい、メザニンを利用したファイナンスをメザニン・ファイナンスといいます。メザニン(劣後)ローンは、シニア(優先)ローンに劣後する旨の優先劣後特約が付されることにより組成されます。

解説

目次

  1. メザニン・ファイナンスとは
    1. メザニン・ファイナンスの定義
    2. メザニン・ファイナンスとハイブリッド証券
  2. メザニン(劣後)ローンの法的特徴
    1. メザニン(劣後)ローンと優先劣後特約
    2. 劣後特約の法的構成

メザニン・ファイナンスとは

メザニン・ファイナンスの定義

 ファイナンスにおいて、優先劣後構造上、上位層のシニア債務には劣後するものの、下位層の普通株式には優先するものメザニンといい、メザニンを利用したファイナンスメザニン・ファイナンスといいます。メザニンは、デットエクイティの複合的な性質を有するものであり、その代表例としては、優先株式劣後社債劣後ローンなどがあります。本稿では主として劣後ローンを取り上げます。

 参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第2回 コーポレート・ファイナンスとは?

メザニン・ファイナンスとハイブリッド証券

 ハイブリッド証券とは、さまざまなデット(負債)の特徴とエクイティ(資本)の特徴を併せ持った中間的な性質を有している証券をいいます。ハイブリッド証券には以下のようなものがあります。

(a)エクイティから派生したもの

 狭義のエクイティ(資本)でありながら、キャッシュフローに対する権利につき通常のエクイティ(普通株式など)よりも優先するものや(例:優先株式)、コントロールに関する権利を有していないもの(例:無議決権株式など)

(b)デットから派生したもの

 デット(負債)でありながら、キャッシュフローに対する権利につき通常のデット(普通株式など)よりも劣後するもの(例:劣後社債など)

(c)オプション型

 本体の属性はデット(負債)であるが、そのオプションとして、狭義のエクイティを取得したり、または狭義のエクイティと転換したりできる権利が付与されているもの(例:新株引受権付社債など)


 ハイブリッド証券とメザニンは共通する部分が多いですが、たとえば劣後ローンは、メザニンには含まれますが、有価証券のみを対象とするハイブリッド証券には含まれないと整理されています。

 参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第2回 コーポレート・ファイナンスとは?

メザニン(劣後)ローンの法的特徴

メザニン(劣後)ローンと優先劣後特約

 メザニン(劣後)ローンは、法的には、シニア(優先)ローンに劣後する旨の優先劣後特約が付されているローンとなります。契約自由の原則から、法律上は同順位である債権(複数のローン債権)であっても、当事者間の合意により属人的な優先劣後構造を作出することが可能です。

 たとえば、複数の貸付人(ローン債権者)として貸付人Aと貸付人Bが存在し、①貸付人Aの借入人に対する債権(ローン債権A)が貸付人Bの借入人に対するローン債権(債権B)よりも優先するという合意または②ローン債権Bがローン債権Aよりも劣後するという合意(優先劣後合意または優先劣後特約といい、優先する債権を優先債権、劣後する債権を劣後債権といいます)を行った場合、ローン債権Aはシニア(優先)ローン、ローン債権Bはメザニン(劣後)ローンとなります。

 なお、特別の法令が存在する例外的な場合(倒産手続における約定劣後倒産債権など)を除いては、劣後特約の効力は、合意の効力が及ぶ関係者間でのみが生じる点に注意する必要があります。

 参照:「劣後特約の倒産手続における有効性と約定劣後倒産債権との関係

劣後特約の法的構成

 優先劣後特約は、合意の当事者の組み合わせにより、理論的には下記の4通りが考えられます。

(a)借入人、貸付人Aおよび貸付人Bの全員で合意する場合

 貸付人Aとしては、ローン債権Aが優先ローン債権であること(反対から見れば、ローン債権Bは劣後ローン債権であること。以下同様とします)を、借入人に対しても貸付人Bに対しても主張できます。

(b)貸付人Aと貸付人Bとの間で合意し、借入人は当事者とはならない場合(債権者間合意方式)

 貸付人Aとしては、ローン債権Aが優先ローン債権であることを、貸付人Bに対しては主張できますが、借入人に対しては主張できません(債権の相対性)。

(c)借入人と貸付人Aとの間で合意し、貸付人Bは当事者とはならない場合

 貸付人Aとしては、ローン債権Aが優先ローン債権であることを、借入人に対しては主張できますが、貸付人Bに対しては主張できません(債権の相対性)。

(d)借入人と貸付人Bとの間で合意し、貸付人Aは当事者とはならない場合

 この場合、貸付人Aは優先劣後合意の当事者ではないので、ローン債権Aが優先ローン債権であることを、借入人に対しても貸付人Bに対しても主張できないようにも思われます(債権の相対性)。しかしながら、実務的には、借入人と貸付人Bとの間でローン債権Bを停止条件付債権とする合意を行うこと(停止条件方式)により、貸付人Aとの間の合意がない場合であっても、貸付人Aは、借入人と貸付人Bの両方に対し、ローン債権Aが優先ローン債権であることを主張できるという法律構成が採られています。このような停止条件の内容としては様々なものが考えられますが、代表的な例としては、「借入人が倒産することを停止条件としてローン債権Bはローン債権Aに劣後する」といった合意や、「ローン債権Aに対する弁済が完了することを停止条件としてローン債権Bへの弁済を行う」といった合意が挙げられます。

劣後特約の法的構成

 以上のことから、貸付人Aとしては、借入人と貸付人Bの両方に対して優先劣後合意の効力を主張できる上記(a)または(d)の方式が最も有利です。しかしながら、実務的には、貸付人Bからは合意を取得できるが借入人からは合意を取得できない場合も存在するため、そのような場合には上記(b)の方式が採られています。ファイナンス取引実務における優先劣後合意としては、①上記(a)、②上記(d)または③上記(d)と上記(b)の組み合わせが利用されており、上記(c)の方式はほとんど利用されていません。

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