送金サービスへ参入する場合に留意するべき資金決済に関する規制

ファイナンス

 最近、個人間の送金を目的とするサービスが増えてきているようですが、当社がこのようなサービスへの参入を検討する場合に資金決済に関する規制に関して留意すべき事項はありますか。

 送金を目的とするサービスについては、資金決済法に基づき資金移動業者としての登録の手続を実施する必要があります。また、一定の場合には、犯罪収益移転防止法に基づく本人確認(取引時確認)も実施することが求められます。その他に、資金移動業として送金サービスを提供する場合、資産保全義務や委託先管理を中心とした各種規制に対応することも必要です。

解説

目次

  1. 資金移動業とは
  2. 資金移動業者のライセンス
  3. 資金移動業の規制のポイント① - 取引時確認
  4. 資金移動業者の規制のポイント② - 資産保全義務と委託先管理
    1. 資産保全義務
    2. 委託先管理
  5. まとめ

資金移動業とは

 事業者が利用者に送金サービスを提供する場合、送金サービスの特性を考慮して、資金決済法に基づく資金移動業としての規制の適用を受けることになります。
 この資金移動業については、「銀行等以外の者が為替取引(少額の取引として政令で定めるものに限る。)を業として営むことをいう」と定義されています(資金決済法2条2項)。「少額の取引として政令で定めるもの」とは、100万円以下の取引とされていますので(資金決済法施行令2条)、銀行免許を取得せずに送金サービスを実施する場合には、100万円以下の送金にサービスの仕様を限定したうえで資金移動業のライセンスを取得することが必要となります。

資金移動業(インターネット・モバイル型)のイメージ

 

資金移動業者のライセンス

 1で述べた資金移動業に関するサービスを提供する主体は、資金決済法上の資金移動業者としての登録が必要となります(資金決済法37条)
 ここで、資金移動業者の登録の要否のポイントとなるのは「為替取引」の概念となります。この点に関しては、従前の最高裁判例において、「銀行法2条2項2号にいう『為替取引を行うこと』とは、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいう」との判断が示されています(最高裁平成13年3月12日決定・刑集55巻2号97頁)。そのため、実務上、資金移動業の登録を要するかどうかは、利用者との法律関係や利用者保護の実態等を踏まえ、上記の定義に照らして個別具体的に検討することが求められます。
 なお、換金(払戻し)可能な前払式の電子マネーなどのサービスを提供する場合、前払式支払手段発行者としての登録だけでは足りず、資金移動業の登録が求められることになりますので、併せて留意が必要です(金融庁事務ガイドライン(前払式支払手段発行者関係)Ⅰ-1-1(2))。  

資金移動業の規制のポイント① - 取引時確認

 資金移動業者は、犯罪収益移転防止法に基づき、本人確認(取引時確認)が求められる事業者に該当することから(犯罪収益移転防止法2条2項30号)、本人確認(取引時確認)を行う義務疑わしい取引の届出を行う義務を負うことになります。この点が類似のサービスである前払式支払手段発行者との実務上の取扱いの大きな違いとなります。
 具体的には、①現金の受払いをする取引であって、当該取引の金額が10万円を超えるもの(犯罪収益移転防止法施行令7条1項1号ツ)、②預金または貯金の受入れを内容とする契約の締結に係る取引を行うことなく為替取引または自己宛小切手の振出しを継続的にまたは反復して行うことを内容とする契約の締結(犯罪収益移転防止法施行令7条1項1号ナ)を行う場合には、本人確認(取引時確認)が必要となります
 特に、②については、アカウント型のようにIDやパスワードを付与することを前提とした会員登録を行うケースなどについて基本的には該当することになりますので、多くのサービスで本人確認(取引時確認)が必要となり、この点が実務上の参入に向けた一つのハードルになります。

資金移動業者の規制のポイント② - 資産保全義務と委託先管理

資産保全義務

 資金移動業者については、送金サービスという特性を踏まえ、利用者保護のための各種の規制が設けられています。そのうち、実務上重要な行為規制としては、①資産保全義務、②委託先管理があります。
 資産保全義務として、資金移動業者は、自らが倒産した場合の利用者保護を実現する観点から、受領した金銭を保全するために、いわゆる100%の資産保全措置を講じることが求められます(前払式支払手段においては、受領した金銭の2分の1の資産保全措置であったことと異なります)。
 具体的な保全方法としては、①供託、②履行保証金保全契約、③履行保証金信託契約の3種類の方法があります。

 ①供託は、送金サービスのために受領した金額と法定の手続費用以上の履行保証金を資金移動業者が主たる営業所または事務所の最寄りの供託所に供託する方法です(資金決済法43条2項および3項)
 次に、②履行保証金保全契約は、資金移動業者が、一定の健全性基準を満たす銀行等との間で所定の事由が生じた場合において履行保証金を供託する旨の契約を締結する方法です(資金決済法44条)。銀行等との契約によって資産保全を実行することができ、平時におけるキャッシュアウトを回避することができます。
 ③履行保証金信託契約は、資金移動業者が、信託会社等との間で、信託財産を履行保証金の供託に充てることを信託の目的として当該信託財産の管理その他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の信託契約を締結する方法です(資金決済法45条)。信託した金銭の取扱いについて個別具体的にその内容を定めることが可能ですので、柔軟な形での資産保全を達成することができます。  

委託先管理

 また、資金移動業者は、委託先管理の一環として、委託契約の提出などを登録申請の際に求められることになりますので(資金移動業者に関する内閣府令6条15号)、この点に関し、委託先となる者を早期に把握したうえで当局との調整を行うことも有益です。

まとめ

 送金サービスにおいては、事業者は、決済の安定性の一翼を担う者として所定のルールに対応することが必要となります。特に、取引時確認が必要となる点は、サービスの実行可能性に大きく影響しますので、あらかじめその対応を検討しておくことが重要でしょう。

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