金融ライセンスの必要性と種類

ファイナンス

 銀行業などの金融業を行うにはライセンスが必要と聞きましたが、なぜライセンスが必要なのですか。また、金融ライセンスにはどのような種類がありますか。金融ライセンスの要否を判断するにあたり実務上よく問題となる点はありますか。

 金融業を行うには、預金者や投資家の保護、信用秩序の維持、市場の健全性確保といった観点からライセンスが必要となる場合が多いです。金融ライセンスには、許可、免許または承認、認可、登録など各種のものが存在します。金融ライセンスの要否を判断するにあたっては、実務上は、(その要件である)「業として」行うかどうかや「勧誘」該当性がよく問題となります。

解説

目次

  1. 金融業と金融ライセンス
    1. 金融業とは
    2. 金融ライセンスの必要性
  2. 金融ライセンスの種類
  3. 実務上の問題点
    1. 「業として」の該当性
    2. 「勧誘」の該当性

金融業と金融ライセンス

金融業とは

 金融業を一般的かつ厳密に定義することは難しいのですが、本稿では、各種ファイナンス取引(参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第1回 ファイナンス法とは?」)に関連して提供される金融サービスを「業として」行うことであると定義します。各種金融業を専門とする金融機関(参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第5回 金融規制法」)は、ファイナンスまたは金融システムの中心的な役割を担う当事者となります。

金融ライセンスの必要性

(1)金融機関と金融規制

 金融業を営む金融機関の多くは金融規制(参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第5回 金融規制法」)の適用を受けます。
 その理由のひとつは、ファイナンス取引や金融商品は信用リスク市場リスクなどの各種リスクを伴いますが(参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第1回 ファイナンス法とは?」)、金融機関とその利用者の間には情報の非対称性に起因する逆選択モラルハザードの可能性が存在することから、預金者や投資家保護の必要性が特に強いためです。
 ふたつめの理由は、間接金融の場合においては金融機関の経営・財務の健全性確保を通じた信用秩序の維持や、直接金融の場合においては市場の健全性確保など、金融システムが安定的に機能するためには一定の規制を及ぼす必要があるためです(直接金融・間接金融につき、【連載】ファイナンス法の基礎「第1回 ファイナンス法とは?」参照)。

(2)金融ライセンスの定義

 このような金融規制の中で、最も基本となるものが金融ライセンスです。金融ライセンスとは、金融サービスを「業として」行う場合、当該金融サービス業(金融業)に対する参入規制または開業規制として必要とされる資格または手続をいいます。

金融ライセンスの種類

 金融ライセンスには様々なものがありますが、その種類には以下のようなものが存在します。金融機関の業種などに応じ、必要とされる金融ライセンスが異なります(参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第5回 金融規制法」)。

(1)許可、免許または承認

 許可とは、ある種の国民の活動を一般的に禁止したうえで、国民からの申請に基づき審査を行い、一定の要件に合致する場合、禁止を個別具体的に解除する法的仕組みをいいます。免許承認も基本的に許可と同義であるとされます。許可は最も厳しい参入規制となります。

(2)認可

 認可とは、第三者の法律上の行為の効力を完成させるために公の機関が補充的に与える同意をいいます。認可は、許可に次いで厳しい参入規制となります。

(3)登録

 登録とは、私人の一定の行動につき行政機関がその法的要件適合性を確認し、あるいはそれを公簿に登録する等々の手続を要求する仕組みをいいます。

(4)届出

 届出とは、国民がある行為をとる前または後に、行政機関への届出を義務づける仕組みをいいます。

金融ライセンスの種類

実務上の問題点

「業として」の該当性

 一般論として、金融ライセンスを含む業規制(参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第5回 金融規制法」)は、金融サービスをビジネス(業務または営業)として行う場合に適用されます。法令上の用語としては、「業として」という表現がしばしば使用されます。

 「業として」の意味は、個別の法令により解釈が異なりますが、最低限の要件としては①反復継続性のある行為であることが挙げられます。金融商品取引法(参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第5回 金融規制法」)においては、反復継続性に加えて②対公衆性(一般的には、(不特定)多数を相手方とすることであると議論されています)のある行為を行うことであると解釈されています。なお、上記①②に加え、③営利を目的とすること(営利性を要件とする場合も存在します。

 このため、(i)金融サービスに該当する行為を一回きりしか行わない場合や、(ii)営利性を要件とする業規制において、金融サービスの対価(手数料)を受領しない場合には、理論的には「業として」に該当せず、当該金融規制の適用を受けないことになります。もっとも、反復継続性や営利性の認定はかなり微妙な場合も多い点に十分留意する必要があります。

「勧誘」の該当性

 金融商品取引法上、勧誘という概念は、金融ライセンスの要否を含む各種金融規制の適用の有無を左右する重要概念です。たとえば以下のような金融規制があげられます。

(1)開示規制との関係

 発行者による有価証券の取得勧誘公募または売出しに該当する場合には開示規制の適用があります。

 参照:「金融商品取引法における発行開示規制とは

(2)業規制との関係

  1. 金融商品取引業者など一定の者以外は、金融商品取引契約の締結について勧誘を行うことができません(金融商品取引法31条の3の2第2号)。

  2. 狭義の集団投資スキーム持分(参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第3回 ストラクチャード・ファイナンス / アセット・ファイナンスとは?」)などを発行者自らが自己募集勧誘)する場合は、第二種金融商品取引業の登録が必要となります(参照:【連載】ファイナンス法の基礎「第4回 アセット・マネジメントとは?」)。

  3. 発行者のため有価証券の募集・私募の取扱い勧誘)を行うには、第一種金融商品取引業または第二種金融商品取引業の登録が必要となります。

(3)行為規制との関係

 適合性原則勧誘を行う場合に適用されます(金融商品取引法40条1号)。

 以上全体につき、【連載】ファイナンス法の基礎「第5回 金融規制法」を参照ください。

【勧誘が要件とされる各種金融規制】

規制の種類 規制内容(例)
開示規制 発行者による有価証券の取得勧誘が公募または売出しに該当する場合には開示規制の適用がある
業規制
  1. 金融商品取引業者など一定の者以外は、金融商品取引契約の締結について勧誘を行うことができない(金融商品取引法31条の3の2第2号)
  2. 狭義の集団投資スキーム持分などを発行者自らが自己募集(勧誘)する場合は、第二種金融商品取引業の登録が必要となる
  3. 発行者のため有価証券の募集・私募の取扱い(勧誘)を行うには、第一種金融商品取引業または第二種金融商品取引業の登録が必要となる
行為規制 適合性原則は勧誘を行う場合に適用される(金融商品取引法40条1号)

 金融商品取引法上「勧誘」の定義はありませんが、一般的には、金融取引への誘引を目的として特定の利用者を対象に行われる行為などと定義されます。この点、①金融商品に関する単なる情報提供、②多数の者を相手方として行う広告、③単なる顧客の紹介は、勧誘に該当しない限り禁止されていないと解されていますが、勧誘と上記①②③の区別は実務上判断が非常に困難である場合も多いです。

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