市販の音楽CDを配信する場合の注意点
知的財産権・エンタメ自社のウェブサイトで音楽が流れるようにしたいと考えています。市販の音楽CDを利用することを考えていますが、その場合誰から許諾を得る必要があるでしょうか。
市販の音楽CDを配信する場合、楽曲の著作権と、実演家およびレコード製作者の権利を考える必要があります。楽曲の著作権については、通常JASRAC等の著作権管理団体を通じた権利処理で利用できます。実演家の権利は通常レコード製作者に譲渡されていますので、著作権に加えてレコード製作者の承諾を得れば足りる場合が多いでしょう。
解説
「レコード製作者」とは
著作権法は、著作物の創作者ではないものの、著作物の伝達に重要な役割を果たすものとして、「実演家」「レコード製作者」「放送事業者」「有線放送事業者」に著作権に準じた権利(著作隣接権)を与えて、その保護を図っています。
参照:
著作権法上の「レコード製作者」とは、「音を最初にレコードに固定した者」です。ここでいう「レコード」とは店頭に並ぶ音楽CDなどではなく、いわゆる「原盤(マスターレコーディング)」を意味します。このことから、レコード製作者の権利は、一般的に「原盤権」と呼ばれています。なお、「原盤権」という場合、レコード製作者が譲渡を受けている実演家の権利も含めた意味で使われることも多いので(3.参照)注意してください。
「音を最初にレコードに固定した者」とは、物理的なレコーディング作業を実施した個人を意味する訳ではありません。原盤を作る場合、実演家に歌唱や演奏などしてもらい、この音を録音したマルチテープからミキシングを経てマスターテープ(原盤)を作る、という工程をたどる場合が一般的です。通常は、この一連の工程について資金を負担して原盤を作成した者がレコード製作者になります。
なお、近年では作曲等にコンピュータが多く利用されていますが、コンピュータを利用して機械的に電子音をつくりだすデジタルデータを作成し、ハードディスクや記録媒体に蓄積することも、「音の固定」にあたります。
レコード製作者の著作隣接権
レコード製作者に与えられている権利の概要は以下のとおりです。
(1)複製権(著作権法96条)
自分が録音した原盤やその原盤から複製した音楽CDなどに収録されている音(レコード)を無許諾で複製されない権利です。原盤の複製とは録音のことなので、録音権といっても良いでしょう。
複製権の例外として、「私的使用のための複製」や「学校その他の教育機関における複製」などにあたる場合は、レコード製作者の許可を得ずに複製することができるという制限規定が設けられています。
原盤自体の複製物を作成する場合に限らず、原盤に記録されている音を再生し、再生した音を別のテープなどに固定する場合も「原盤の複製」にあたります。
(2)送信可能化権(著作権法96条の2)
原盤やその原盤から複製した音楽CDなどに収録されている音(レコード)を無許諾でアップロードされない権利です。
送信可能化権については私的利用目的による例外規定はありませんので、音楽CDなどに収録されている音を、レコード製作者の許可なく個人のホームページにアップロードすることはできません。
(3)商業用レコードの二次使用料を受ける権利(著作権法97条)
商業用レコードとは、市販されている音楽CDなどを意味します。
放送局・有線放送局が商業用レコードを放送・有線放送に使用する場合、レコード製作者の許諾を得る必要はありませんが、商業用レコードを使った放送局・有線放送局は、レコード製作者と実演家にそれぞれ二次使用料を支払う必要があります(実演家については「チャリティコンサートの映像を利用する際の注意点(実演家人格権・著作隣接権)」もご覧ください)。
レコード製作者については、一般社団法人日本レコード協会が指定団体として、レコード製作者のための二次使用料の徴収と分配を行っています。
参照:「テレビ番組の映像や歌をCMに利用するときの権利処理」
(4)譲渡権(著作権法97条の2)
原盤から作成された音楽CDなどのレコードの複製物を無許諾で有償または無償で公衆に譲渡されない権利です。
なお、譲渡権は最初の譲渡の時に行使されると以後は行使できないので、たとえば、購入したCDを転売する場合には譲渡権は問題にならず、レコード製作者の許諾を得る必要はありません。
(5)商業用レコードの貸与権(著作権法97条の3)
レコード製作者は、原盤から複製された音楽CDなどの商業用レコードを無許諾で貸与されないという権利を持っています。この権利は商業用レコードの発売後1年が経過すると消滅し、その後、貸レコード業者に対する報酬請求権に変わります。
レコード製作者の権利と実演家の権利の関係
歌手や演奏家の実演を収録したレコードには、レコード製作者の複製権・譲渡権に加えて、実演家の録音権・譲渡権も及びます。しかし通常、実演家の著作隣接権は、契約によってレコード製作者に譲渡されています。レコード製作者はその対価として、レコードの収益のうちの一定の割合をアーティスト印税として実演家に支払うケースが一般的です。
したがって、楽曲が録音されたレコードを第三者が利用する場合、通常は、楽曲の著作権者とレコード製作者から許諾を得れば足りることになります。

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