ジュネーブ改正協定に基づく国際意匠出願の流れと留意点
知的財産権・エンタメ特許のPCT出願や商標のマドリッドプロトコル出願のように、意匠にも国際出願はあるのでしょうか。
ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく国際出願制度があります。
解説
国際出願の方法
外国で意匠登録を受けるための方法としては、以下の方法があります。
(2)ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく国際出願を行う
(1)は、国ごとに別々の意匠登録出願を行わなければならず、煩雑であるのに対し、(2)は、一つの出願により、指定国で出願されたのと同一の効果を得ることができます。
(2)のジュネーブ改正協定は、平成15年12月に発効し、我が国についても平成27年5月13日に正式発効しました。
以下では、(2)のジュネーブ改正協定に基づく国際出願について解説します。
ジュネーブ改正協定に基づく国際出願の流れ
ジュネーブ改正協定に基づく国際出願の流れは、以下のとおりです。
(1)国際出願
出願人は、WIPO国際事務局に対し、直接出願を行うか、または、日本国特許庁(もしくは他の締約国官庁)を経由して間接出願を行うことができます。
後者の場合も、出願を受理するのはあくまでWIPO国際事務局ですので、特許のPCT出願や商標のマドリッドプロトコル出願と異なり、日本国特許庁では方式審査は行われません。
出願人は、出願時に、意匠権を取得したい締約国を指定します。
出願書類は、英語、フランス語、スペイン語のいずれかの言語で作成します。日本語で作成することはできませんが、一つの言語での出願が可能ですので、翻訳コストを低減することが可能です。
(2)出願受理・方式審査・国際登録
WIPO国際事務局は、出願を受理したら、方針的な不備がないかの審査を行います(WIPO国際事務局は、実体審査は行いません)。
不備があれば、出願に対して、3か月以内に補正するよう通知します。
不備がないか、不備が解消された場合には、国際登録簿に記録(国際登録)されます。
(3)国際公表
WIPO国際事務局は、国際登録から6か月後に、国際登録の内容をWIPOウェブサイト上で公表します。
出願人は、即時公表の請求をすることや、逆に公表の延期を請求することができます(なお、米国等の数カ国は、公表延期の禁止を宣言しています)。
(4)各国での審査・権利発生
国際公表後、所定の期間(原則6か月、12か月とする宣言国(米国等)は12か月)内に指定国から拒絶の通報が送付されなければ、指定国で意匠権が発生します。
意匠登録については、実体審査がない国もありますし、実体審査がある国でも、拒絶理由通知等がなされなければ、自動的に権利を取得できることになります。
(5)国際登録の一元管理
国際登録は、WIPO国際事務局において一元管理されますので、5年ごとの権利更新や、国際登録の変更(名義人の変更、放棄、名称変更等)はWIPO国際事務局に対する1つの手続で済ませることができます。
ジュネーブ改正協定に基づく国際出願の留意点
(1)締約国
平成29年7月現在、イギリス、中国、台湾、ロシア、カナダ、インド、東アジア各国(シンガポール、ブルネイ、カンボジアを除く)等はジュネーブ改正協定の締約国となっておらず、これらの国を指定国としてジュネーブ改正協定に基づく国際出願を行うことはできません。
(2)意匠権取得前の公表
国内の意匠登録出願は、意匠登録がなされて意匠権が発生した後で意匠公報により公開されるのに対し、ジュネーブ改正協定に基づく国際出願の場合は、各国での意匠権が発生する前に国際公表されることになります。
公表の時期をコントロールしたい場合には、国際公表までの期間を考慮して国際出願を行う必要があります。
(3)秘密意匠制度の適用除外
上記のとおり、意匠権発生前に国際公表されることから、国際意匠登録出願の出願人については、我が国における秘密意匠の規定(意匠法14条)は適用されません(意匠法60条の9)。
(4)拒絶の通報の公表
国内の意匠登録出願は、意匠登録がなされた場合にのみ意匠公報により公開されるため、拒絶理由通知を受けて最終的に拒絶査定となった意匠登録出願は公開されません。
他方、ジュネーブ改正協定に基づく国際出願の場合、上記のとおり国際公表により公表されるうえに、拒絶の通報についても国際登録簿に記載され、公表されることになります。

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