防衛的カルテルであれば違法とならないのか

競争法・独占禁止法

 交渉力の大きい購買者からの値下げ攻勢に対抗するため、また、過当競争による共倒れを防ぐために、中小企業の同業者の間で価格などの足並みを揃えることは、問題がありますか。
 業界では、昨今の過当競争の状況を受け、適正料金の収受が課題となっています。顧客の理解を求めるべく積極的な働きかけを行うように、との行政指導も行われました。これをきっかけとして、同業者間での相談や事業者団体を通じ、価格情報や値上げ方針などを検討しようと考えていますが、問題はないでしょうか。

 いずれも独占禁止法違反となります。ただし、一定の条件を満たす場合には、関係省庁への届出など、必要な手続をすれば、例外的に認められる場合があります。

解説

目次

  1. 防衛目的であってもカルテルは認められない
    1. 独占禁止法で違法とされるカルテルとは
    2. 防衛的カルテル
    3. どのような目的でもカルテルは違法となる
    4. 実際の摘発事例
  2. 事業者保護を目的とした行政指導への対応もカルテルとなり得る
    1. 日常的に行われる行政指導
    2. 行政指導への対応でも違法となる可能性がある
    3. 違法と評価されないために
  3. 事業者団体における活動の注意点
    1. 事業者団体の活動の場ではカルテルに注意
    2. 事業者団体そのものが違反となる行為
  4. 適用除外制度
    1. カルテルが認められる制度
    2. あらゆるカルテルが認められるわけではない
  5. 防衛的カルテルに巻き込まれるのを防ぐためには
    1. 防衛的カルテルは違法である、と周知する
    2. 適用除外制度の範囲を点検する
    3. 納得感の得られるコンプライアンス活動を

防衛目的であってもカルテルは認められない

独占禁止法で違法とされるカルテルとは

 独占禁止法3条により禁止される「不当な取引制限」の一つに、「カルテル」があります。

 「カルテル」は、事業者または業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い、本来、各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為です。

防衛的カルテル

 カルテルの中でも、顧客から厳しい値下げ要請があり、過当競争によってサービスの質の低下が危惧されたり、業者間の共倒れによって消費者の利便性が損なわれる可能性がある場合に、同業者同士が、手を結んで価格を維持したり、大企業に対抗する行為は、特に「防衛的カルテル」などと呼ばれることがあります。

どのような目的でもカルテルは違法となる

 しかし、独占禁止法は、仮に、不正な利益を得るためではなく、業界の適正化や自己防衛を目的とする場合であっても、カルテルという手段で自ら実現することは認めておらず、防衛的カルテルも違法となります。
 価格交渉の局面で、仮に購買者からの値下げ圧力の結果としてサプライヤーが赤字を強いられる状況になったとしても、カルテルが正当化されることはないといってよいでしょう。

実際の摘発事例

 実務上も、業者間の共倒れを防ぐ目的のために行われるカルテルも多数摘発されています。現実に行われているカルテルは、多かれ少なかれ防衛的な目的を有しているともいえます。

事業者保護を目的とした行政指導への対応もカルテルとなり得る

日常的に行われる行政指導

 競争が激化している業界では、過当競争による品質や安全の低下から事業者や消費者を守る目的などで、監督官庁から事業者に対し、価格、数量、生産設備、営業方針などに関して、様々な内容の行政指導が行われることがあります。
 こうした行政指導への対応について、同業者間で相談したり、事業者団体で検討したりすることは、日常的に行われていることです。

行政指導への対応でも違法となる可能性がある

 しかし、行政指導への対応であるから何をしても許されるというわけではありません。 独占禁止法の下では、行政指導への対応のためであっても、同業者間での相談や事業者団体を通じ、重要な競争手段である価格や数量などの取引条件について検討し、周知や調整などを行うと、違法と評価される可能性があります
 行政指導があったからといって、違法な行為が正当化されることは基本的にはありません。しかも、この場合に直接に法的責任を負わされるのは、行政指導に従った事業者・事業者団体です。

違法と評価されないために

 たとえば、「適正価格を収受するように」という行政指導へ対応するためであっても、同業者同士で「来年度から値上げをしよう」と合意をすることは、違法となる可能性があります。 業界団体などで行政指導への対応を話し合ったとしても、最終的に行政指導に従うか否かは、あくまで各社で判断する必要があるのです。

事業者団体における活動の注意点

 独占禁止法の世界では、いわゆる業界団体のことを事業者団体と呼びますが、事業者団体の活動については、独占禁止法上のリスクと隣り合わせにあるという認識が必要です。

事業者団体の活動の場ではカルテルに注意

 事業者団体の活動の場で、同業者間で価格や数量などの情報交換を行うことは、それ自体が同業者間のカルテルとして、独占禁止法違反となる可能性が高い行為です。

事業者団体そのものが違反となる行為

 事業者団体が中心となって、価格や数量、顧客や販路などを制限すれば、事業者団体による独占禁止法違反となります(例:構成事業者の販売価格や料金の維持や適正化などのため、最低販売価格や値上げ率を設定する場合など)。
 市況などの調査を目的とした事業者団体による情報活動も、内容によっては、違反となるおそれがあります。

適用除外制度

カルテルが認められる制度

 独占禁止法は、一定の場合に、関係省庁への届出などの必要な手続を経ることによってカルテルを認めるという制度を設けています(適用除外制度)。日本では、中小企業事業協同組合などが代表的な適用除外制度です。
 また、消費税率の引上げに際し、大規模小売事業者などによる消費税の転嫁拒否などの行為に対抗するため、消費税転嫁やその表示の方法について、公正取引委員会への届出により、カルテルが例外的に認められる場合もありました。

あらゆるカルテルが認められるわけではない

 ただ、仮に適用除外制度の手続をしたとしても、あらゆるカルテルが認められるわけではありません。
 たとえば、中小企業事業協同組合を設立して、ある一定の取引について組合員が相互に供給量の調整をすることが認められたとしても、認められた取引以外の取引について数量や価格の調整をすることは認められません。

防衛的カルテルに巻き込まれるのを防ぐためには

防衛的カルテルは違法である、と周知する

 コンプライアンスの観点からは、 防衛的カルテルは違法である ということを周知する必要があります。防衛的カルテルの参加者は、正しいことをしているという誤解に陥っている場合が多いためです。その上で、防衛的カルテルが起こりやすい場面を洗い出し、場面ごとに問題となる会話内容を洗い出すとよいでしょう。

適用除外制度の範囲を点検する

 適用除外制度を利用している会社では、当該制度によって許容されているのはどのような行為であるかを点検し、許容の範囲外の行為が行われないように留意する必要があります。

納得感の得られるコンプライアンス活動を

 単に違法であると告げるだけでは、防衛的カルテルの根絶は難しいかもしれません。適切な方法で過当競争などから会社を守る方法を併せて検討するなど、納得感の得られるコンプライアンス活動を推進することが求められます。

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する