小売店から安売り行為に対する損失補てんを求められた場合どう対応するか

競争法・独占禁止法

 当社はメーカーで、製造した商品を複数の小売店を通じて販売しています。最近はデフレの影響もあって、小売店間の値下げ合戦が続いています。
 小売店も値下げによって粗利の幅が少なくなっているようであり、メーカーである当社に対し、値下げによって減少した粗利分の補てんを求めてくることがあります。
 また、大規模小売店により大幅な値下げ販売が行われた場合には、周辺の中小の小売店から、「大規模小売店の値下げ販売により無理な値下げをせざるを得なかった」として損失分の補てんを当社に求めてくる場合があります。 このような小売店の要求を拒むにはどうしたらよいのでしょうか。

 メーカーとしては、小売店からの補てん要求に応じる必要はありません。小売店の規模や商品販路の重要性によっては、小売店からの補てん要求は、「優越的地位の濫用」として違法になる可能性もあります。
 一方で、問題解決のため、小売店に対して安売りの自粛要請をしたり、希望小売価格で販売した小売店にリベートを支払ったりすると、貴社が独占禁止法違反を問われる可能性が高まります。したがって、値上げのお願いやリベートの支払いによってではなく、小売店からの補てん要求自体を止めさせる方法を模索するとよいでしょう。

解説

目次

  1. 安売りの自粛要請や希望小売価格での販売に対するリベート提供
    1. 再販売価格の拘束は違法
  2. どのような目的でも違法と判断されかねない
  3. 小売店からの補てん要求を拒絶できないのか
    1. 小売店からの補てん要求に関する法的問題
    2. 優越的地位の濫用とは
    3. 設例の場合
  4. 実務ではどのように対応するか
    1. 取引先への直接の要請は難しい?
    2. 公正取引委員会に相談する
  5. おわりに

安売りの自粛要請や希望小売価格での販売に対するリベート提供

再販売価格の拘束は違法

 メーカーとしては、小売店からの補てん要求に応じたくないのはもちろんですが、そもそも問題の所在は、小売店間の値下げ合戦にあるともいえるので、小売店の販売価格の下落を防止するために、度を越した安売りをしないようお願いしたり、希望小売価格で販売した小売店にリベートを支払ったりするなどの対応をしたいと考えるかもしれません。
 しかし、 独占禁止法は、メーカーが小売店の販売価格について何らかの拘束をすることを「再販売価格の拘束」として違法としています (独占禁止法2条9項4号)。

どのような目的でも違法と判断されかねない

 そのため、小売店からの損失補てん要求に対抗する目的であったとしても、小売店が自由に決定すべき再販価格について、メーカーから小売店に対して値上げを要請したり、安売りを防ぐために希望小売価格で販売した小売店にリベートを支払ったりする行為は、「再販売価格の拘束」として違法と判断される可能性を高めます。
 単に、安売りを行っている小売店に対し、周辺の中小の小売店からの苦情を取り次ぐ行為であっても、値上げの要請と評価される可能性があります。これらの行為は避けるべきでしょう。

 なお、再販売価格の拘束については「メーカーが安売り価格を広告に載せないよう要請することができるか」に詳しい記載があるため、そちらも併せてご参照ください。

小売店からの補てん要求を拒絶できないのか

小売店からの補てん要求に関する法的問題

 値下げによって粗利の減少分や損失分の補てんを小売店から求められ、メーカーとして応じざるを得ない状況というのは、小売店の方が強い交渉力を有するような場合に生じやすいものです。
 もし、その小売店が、メーカーにとって重要な取引先であり、メーカーに対して優越した地位にある、といえる場合には、小売店からの補てん要求は、「優越的地位の濫用」として違法とされる可能性があります(独占禁止法2条9項5号)。

優越的地位の濫用とは

優越的地位の濫用が問題となるケース

 優越的地位の濫用は、端的にいうと、取引の一方当事者(A)と他方当事者(B)との間に、AがBに著しく不利益な要請を行ったとしても、BにとってAとの取引が事業継続上重要であるため、これを受け入れざるを得ない、という関係がある場合に問題となります。

優越的地位の判断基準

 優越的な地位に立つか否かは、以下4点を総合して客観的に判断されます。

  • BのAに対する取引依存度
  • Aの市場における地位
  • Bの取引先変更の可能性
  • その他Aと取引することの必要性

違反となる行為

 このような優越的地位にある事業者が、その優越性を利用し、継続して取引する相手方に対し、正常な商慣習に照らして不当に、金銭などを提供させたり、取引の対価の額を減じたりすることなどは、優越的地位の濫用として違法となります。

設例の場合

 設例の場合、メーカーから見て小売店が優越的地位を有しているように見える、というだけでは、すぐに補てんの要請が違法になるわけではありません。
 しかし、仮に、小売店がメーカーとの関係で優越的地位にあるといえれば、値下げによって発生した粗利の減少分や損失分の補てんの要求は、不当な金銭の提供あるいは対価の減額になりえます。この場合は、少なくとも法律的には、小売店に対し「独占禁止法に違反する要請であり、受け入れられない」と主張できるでしょう。

実務ではどのように対応するか

取引先への直接の要請は難しい?

 ビジネスの現場を考えると、取引先に対して「優越的地位の濫用であるため、そのような行為を中止してほしい」と要請するのは、実際には難しいかもしれません。法律上は、優越的地位の濫用との主張をした事業者に対し、それを理由に不利益を課すこともまた優越的地位の濫用として違法とされていますが、事業者としては、大切な取引先の機嫌を損ねるくらいであれば、むしろ波風を立てず、多少の不利益は受忍した方がよいと考えがちです。

公正取引委員会に相談する

 一つの解決方法としては、 公正取引委員会に相談し、公正取引委員会から優越的地位にある事業者に対して指導などを行ってもらうよう要請する という方法があります。公正取引委員会は誰から相談を受けたかを明らかにしませんので、同一の事業者による優越的地位の濫用の被害を受けている事業者が複数いる場合には、有効な手段といえるでしょう。
 他にも、監督官庁や業界団体に相談するなどの方法もあります。

おわりに

 いずれにせよ、取引先との関係性を害することなく、事態を打開するには、相当の配慮が求められます。まずは社内の法務部や実務に精通した弁護士などに相談し、実情にあった方法を模索するのがよいでしょう。

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する