最低賃金制度を守るために知っておきたいポイント
人事労務最低賃金制度を守らないといけないと聞きますが、最低賃金にはどのような種類があり、どの範囲の労働者に適用されるのでしょうか。また、最低賃金額以上か否かはどのように確認するのでしょうか。仮に遵守しなかった場合にはどのようなペナルティが科されるのでしょうか。
最低賃金には地域別最低賃金と特定最低賃金があります。最低賃金は、特定の労働者で特例を受けた場合を除き、産業や職種にかかわりなくすべての労働者に適用されます。最低賃金は毎月支払われる基本的な賃金額を時間あたりの金額に換算して比較します。最低賃金未満の賃金とする合意は無効とされ、最低賃金と同様の定めをしたものとされますし、最低賃金未満の賃金しか支払わない場合は罰金が科されるおそれがあります。
解説
最低賃金とは
最低賃金とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。
最低賃金の種類
最低賃金には地域別最低賃金(最低賃金法9条)および特定最低賃金(最低賃金法15条)の2種類があります。
地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金として、都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められています。たとえば、平成28年度でいうと、地域別最低賃金が最も高いのは、東京都で1時間あたり932円、一番低いのが宮崎県と沖縄県で714円とされており、全国平均は823円となっています。
特定最低賃金とは、特定の産業について設定されている最低賃金です。全国で235件(平成28年3月31日時点)の最低賃金が定められています。この235件のうち、234件は各都道府県内の特定の産業について決定されており、1件は全国単位で決められています(全国非金属鉱業最低賃金)。
なお、地域別最低賃金および特定最低賃金の両方が同時に適用される場合には、使用者は高い方の最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないこととされています。
最低賃金が適用される労働者の範囲
地域別最低賃金は、産業や職種に関係なく都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用されます。注意を要するのは、パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託などの雇用形態や呼称を問わず、すべての労働者に適用されることです。
特定最低賃金は、特定地域内の特定の産業の基幹的労働者とその使用者に対して適用されます(18歳未満または65歳以上の方、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません)。
なお、一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、次の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として個別に最低賃金の減額の特例が認められています(最低賃金法7条、最低賃金法施行規則3条)。
- 精神または身体の障害により著しく労働能力の低い方
- 試の使用期間中の方
- 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方(一定の場合に限る)
- 軽易な業務に従事する方
- 断続的労働に従事する方
派遣労働者への適用
派遣労働者には、派遣先の最低賃金が適用されますので、派遣労働者または派遣元の使用者は、派遣先の事業場に適用される最低賃金を把握しておく必要があります(最低賃金法13条・18条)。
最低賃金の対象となる賃金
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。
具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を控除したものが最低賃金の対象となります(最低賃金法4条3項、最低賃金法施行規則1条)。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当等)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金等)
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- 精皆勤手当、通勤手当および家族手当
最低賃金額以上であることの確認方法
支払われる賃金が最低賃金額以上となっているかどうかは、上記5の賃金部分を以下の方法で比較します。
(1)時間給の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
(2)日給制の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定最低賃金の場合には、
日給≧最低賃金額(日額)
(3)月給制の場合
月給÷1か月の平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
(4)出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
出来高払制その他請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間で除して時間あたりの金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。
□□県のタクシー会社で働く労働者Cさんは、あるM月の総支給額が143,650円であり、そのうち歩合給が136,000円、時間外割増賃金が5,100円、深夜割増賃金が2,550円となっていました。なお、Cさんの会社の1年間における1か月平均所定労働時間は月170時間、M月の時間外労働は30時間、深夜労働が15時間でした。□□県の最低賃金は、時間額713円です。
⇒この事例では、下記のとおり最低賃金額を下回ることとなります。
(厚生労働省ウェブサイト「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」の事例より抜粋)
(1) | 歩合給 | 136,000円 | Cさんに支給された賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を控除する。除外される賃金は時間外割増賃金、深夜割増賃金であり、136,000円となる。 143,650円-(5,100円+2,550円)=136,000円 |
時間外割増賃金 | 5,100円 (136,000÷200時間×0.25×30時間) |
||
深夜割増賃金 | 2,550円 (136,000÷200時間×0.25×15時間) |
||
総支給額 | 143,650円 | ||
(2) | 月間総労働時間 |
200時間 | この金額を月間総労働時間数で除して時間あたりの金額に換算し、最低賃金額と比較すると、 136,000円÷200時間=680円<713円 |
所定労働時間 | 170時間 | ||
時間外労働時間 | 30時間 | ||
深夜労働時間 | 15時間 |
(5)上記(1)(2)(3)(4)の組み合わせの場合
たとえば、基本給が日給制で、各手当(職務手当など)が月給制の場合は、それぞれ上記(2)(3)の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金(時間額)を比較します。
最低賃金法違反のペナルティ
仮に最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意のうえで定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとみなされます(最低賃金法4条2項)。したがって、最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。
また、地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わなければならない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められています(最低賃金法40条)。特定最低賃金額以上の賃金額を支払わなかった場合には、賃金の一部が未払いとされ、労働基準法24条第1項(賃金全額払い原則)違反となり、罰則(30万円以下の罰金)が定められています(労働基準法120条第1号)。
まとめ
以上のとおり、最低賃金の概要を説明しましたが、特に以下の点に留意してください。
- 原則として全労働者に対して適用となること
- 仮に最低賃金を下回る合意をしても無効であり、最低賃金額の支払をする旨の合意をしたことと同じ効力が発生すること
- 罰則の適用があること
また、労働者の基本となる賃金に照らして、最低賃金額を下回ることが無いか、計算式に当てはめてチェックしてみてください。

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