インターネットサービスプロバイダに対して発信者情報開示請求や、送信防止措置を請求することが難しい場合とは

IT・情報セキュリティ

 インターネット上の偽造品販売について、インターネットサービスプロバイダ(ISP)に対して発信者情報開示請求や、送信防止措置を請求することが難しい場合とは、どのような場合ですか。

 ①商標権・著作権侵害以外の知的財産権侵害を理由とするISPに対する発信者情報開示・送信防止措置の請求の場合は、ISPによる権利侵害の有無の判断の拠り所となるプロバイダ責任制限法 商標権関係ガイドライン(プロ責法ガイドライン)による指針がなく、また、信頼性確認団体が存在しないため、ISPによる迅速な発信者情報開示・送信防止措置は期待できません。
 また、②ISPが海外に所在する場合は、プロバイダ責任制限法の適用の有無が争われる可能性があることに加えて、海外ISPにプロ責法ガイドラインに沿った対応を要求することは難しいため、海外ISPが権利者からの発信者情報開示や送信防止措置の請求に自主的に応じない場合には、海外ISPに対する迅速な発信者情報開示や送信防止措置は期待できません。
 このような場合には、仮処分、訴訟等の法的手続を通じて、インターネット上の偽造品販売による権利侵害の裁判での認定を経て、ISPに対する発信者情報開示・送信防止措置を命じる裁判所の仮処分・判決を取得することを検討する必要があります。

解説

目次

  1. 商標権・著作権侵害以外の知的財産権侵害を法的根拠とする場合は困難
    1. 商標登録が行われていない場合の権利侵害
    2. ISPの判断基準
  2. ISPが海外に所在する場合

商標権・著作権侵害以外の知的財産権侵害を法的根拠とする場合は困難

商標登録が行われていない場合の権利侵害

 偽造品が模倣する権利者のロゴ・マークについて、権利者による商標登録が行われていない場合でも、そのロゴ・マークが権利者の商品を示すロゴ・マークとして周知または著名である場合には、そのような周知・著名な商品等表示であるロゴ・マークと同一または類似のマークを表示した偽造品の販売について、不正競争防止法2条1項1号または2号の不正競争行為周知著名な商品等表示の冒用行為)が成立します。
 なお、この不正競争防止法2条1項1号または2号の不正競争行為の詳細については、「商標登録がないロゴ・マークを模倣した偽造品への対応方法」をご参照ください。

 したがって、権利者は、ISPに対し、販売業者によるインターネット上の偽造品販売は不正競争行為に該当する権利侵害であるとして、発信者である販売業者に関する発信者情報開示や、販売業者の販売ページの削除等の送信防止措置の請求を検討することになります。

ISPの判断基準

(1) プロ責法ガイドライン

 この点、「インターネットサービスプロバイダに対する送信防止措置請求はどのように行うか」でも説明した通り、ISPが、権利者から権利侵害情報の送信防止措置の請求を受けた場合、合理的な理由・根拠なく、権利侵害の存在を断定して、送信防止措置を実施した場合には、情報発信者に対し損害賠償責任を負います。

 そこで、ISPは、プロバイダ責任制限法3条2項が規定するISPの情報発信者に対する責任制限の条件である、情報発信者による当該情報の発信により「他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由」があったと認められる場合に、権利者の送信防止措置の請求に応じるのが通常です。そして、多くのISPは、その「他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由」の有無を、プロ責法ガイドラインが示す指針に従って判断します。

(2) プロ責法ガイドラインには商標権侵害と著作権侵害の判断基準しか示されていない

 しかし、プロ責法協議会は、知的財産権侵害を理由とする発信者情報開示請求・送信防止措置請求については、商標権侵害と著作権侵害についての権利侵害の有無の判断基準を示しているものの、それ以外の知的財産権侵害の場合については何ら判断基準を示していません。また、「信頼性確認団体」についても、本日現在、商標権と著作権に関する信頼性確認団体のみがプロ責法協議会に認定されており、それ以外の知的財産権に関する信頼性確認団体は存在しません。
 このように、不正競争行為による権利侵害については、その権利侵害の有無の判断の拠り所となるプロ責法ガイドラインの指針がなく、また、信頼性確認団体による権利侵害の事前確認を経ることもできないため、「他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由」があるか否かをISP自らの責任で判断することを強いられることになります。

(3) 客観的な証拠

 そのため、ISPは、権利者に対し、情報発信者である販売業者によるインターネット上の商品販売が不正競争行為に該当することを証明する客観的な証拠を提示するよう要求するのが通常です。
 販売業者による偽造品販売が不正競争行為に該当する旨を認定した裁判所の判決書が、最も端的な客観的な証拠といえますが、裁判所の判決を経るには相当な時間・費用・労力がかかります。

 したがって、権利者が、不正競争行為による権利侵害を理由とするISPに対する発信者情報開示・送信防止措置の請求を行っても、ISPによる迅速な発信者情報開示や送信防止措置は困難な場合が多いといえます。

ISPが海外に所在する場合

 インターネット上で偽造品を販売する偽造品業者が、海外のISPからサーバーのレンタルやドメインネームの提供等を受けて、かつ、自身の正確な名称・住所等を表示せずに、偽造品販売サイトを運営している場合も少なくありません。

 しかし、海外ISPに対しては、準拠法の関係でプロバイダ責任制限法の適用の有無が争われる可能性があり、また、プロ責法ガイドラインは、プロバイダ責任制限法の適用を当然に受ける国内の主要ISP等により構成されるプロ責法協議会による自主ルールであるため、このプロ責法協議会に参加していない海外ISPに対し、プロ責法ガイドラインに沿った、権利者による発信者情報開示・送信防止措置の請求への対応を要求することは困難です。

 したがって、海外ISPが、権利者からの発信者情報開示や送信防止措置の請求に自主的に応じない場合には、海外ISPに対する迅速な発信者情報開示や送信防止措置は期待できません。

 このような場合は、時間・費用・労力がかかりますが、インターネット上の偽造品販売について、「不法行為に関する訴え」の日本の裁判所の国際裁判管轄(民事訴訟法第3条の3第8号)を根拠に、海外ISPに対し、プロバイダ責任制限法第4条に基づく発信者情報開示請求、日本における商標権侵害又は不正競争行為を理由とする送信防止措置請求(差止請求)を理由とする仮処分申立てまたは訴訟提起を日本の裁判所に行うことを検討する必要があります。

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