提供統計作成等用個人情報等とは?定義や具体例、企業に求められる対応など

IT・情報セキュリティ

 令和8年改正個人情報保護法で新設される「提供統計作成等用個人情報等」とは何ですか。統計作成等特例(法30条の2)との関係や、個人情報の提供を受けた企業に求められる対応について教えてください。

 提供統計作成等用個人情報等とは、統計作成等特例(法30条の2第5項)に基づき、本人の同意を得ずに第三者提供された個人情報を、提供を受けた事業者(特例個人情報受領者)が保有・取り扱う場合における、その個人情報(複製・加工したものを含む)をいいます(同条6項)。

 統計作成等特例は、本人同意原則の例外ですが、「規律の緩和」ではありません。提供元・提供先の名称や統計作成等の内容の公表、統計作成等目的への限定、再提供の制限、書面合意等を要件とする、いわば「高透明・高拘束型」の利活用ルートの追加として理解すべきものです。統計作成等特例で流通する個人情報は、要配慮個人情報を含み得ます。

 統計作成等特例のルートで個人情報の提供を受けた企業(特例個人情報受領者)には、継続公表義務、目的外利用の禁止、再提供の制限、安全管理措置等の義務が課されます。

解説

目次

  1. 提供統計作成等用個人情報等とは
    1. 法律上の定義と新設の背景
    2. 「要配慮個人情報」との関係
  2. 提供統計作成等用個人情報等の具体例
  3. 提供統計作成等用個人情報等に関する規定
    1. 現行法の規定の振り返り
    2. 改正法の規定(受領者に課される義務)
  4. 企業に求められる対応
    1. 改正法の施行に向けたタイムライン
    2. 施行までに求められる実務対応
    3. その他の留意点
    4. 衆議院・参議院の附帯決議で示された方向性
  5. 違反した場合のペナルティ
    1. 提供統計作成等用個人情報等の規律に違反した場合
    2. 課徴金制度

 本稿は、令和8年改正個人情報保護法の成立・公布後の2026年8月時点で公表されている情報に基づく一般的な解説です。公表方法や「統計作成等」の範囲を含め、提供統計作成等用個人情報等の具体的な取扱いについては、今後、政令 1、個人情報の保護に関する法律施行規則(以下「委員会規則」といいます)、ガイドライン等の整備状況により変わり得ます。施行日を含め、最新の情報をご確認ください 2


 なお、本稿における「」とは個人情報保護法を指し、また、特に断りのない場合、同法の条文は改正後のものを示します。

提供統計作成等用個人情報等とは

法律上の定義と新設の背景

(1)前提となる「統計作成等特例」とは

 提供統計作成等用個人情報等は、統計作成等特例(法30条の2)の中で新設される概念です。そのため、まずは統計作成等特例の基本構造を押さえる必要があります。

統計作成等特例
個人情報取扱事業者は、一定の第三者が個人情報を統計作成等目的で取り扱う必要がある場合(目的の全部が統計作成等目的である場合に限る)に、①提供元・提供先の氏名・名称や行おうとする統計作成等の内容等を公表し、②第三者との書面(電磁的記録を含む)による合意をしているときは、法18条、27条1項にかかわらず、本人の同意を得ないで当該個人情報を提供できる(法30条の2第5項)。

出所:個人情報保護委員会事務局「個人情報保護法等の一部を改正する法律について」(令和8年7月31日)6頁

出所:個人情報保護委員会事務局「個人情報保護法等の一部を改正する法律について」(令和8年7月31日)6頁

 ここでいう「統計作成等」とは、法2条13項において次のとおり定義されています。

法2条13項(統計作成等)
この法律において「統計作成等」とは、統計の作成その他の大量の情報から当該情報を構成する要素に係る情報を抽出して分類、比較その他の解析を行うことにより、当該大量の情報の傾向又は性質に係る情報(個人に関する情報であるものを除く。)を作成する行為のうち、個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして個人情報保護委員会規則で定めるものをいう。

 ポイントは、作成される情報が「個人に関する情報であるものを除く」とされている点です。つまり、出力が特定の個人に戻らない(個人ごとのスコアリングや個人向け広告・営業に転用しない)ことが本質です。取組みの名称や社内での呼称が「統計」「AI学習」であっても、出力が個人に戻る処理は、そもそも「統計作成等」に当たらず、特例の枠外となります。

(2)提供統計作成等用個人情報等の定義

 以上を踏まえて整理すると、提供統計作成等用個人情報等は、統計作成等特例のルートで受領者の手元に来た個人情報を指します。

提供統計作成等用個人情報等
統計作成等特例により提供を受けた第三者(特例個人情報受領者。個人情報取扱事業者に限る)が保有する、当該個人情報またはその全部・一部を複製・加工した生存する個人に関する情報(法30条の2第6項)。

 提供統計作成等用個人情報等は、「提供を受けた側」で発生する概念です。データの流れは、次のように整理できます。

(3)新設された背景

 統計作成等特例の新設の背景には、AI開発・統計作成等を含むデータ利活用の促進と、権利利益の保護との両立という課題があります。本改正では、本人同意なく第三者提供できる新たなルートを設ける一方、公表・目的限定・再提供制限といった強い拘束をかけることで、利活用と保護の均衡を図っています。

「要配慮個人情報」との関係

 統計作成等特例で流通する個人情報は、要配慮個人情報を含み得ます。
 法30条の2第1項により、本人同意なく取得された要配慮個人情報(統計作成等用要配慮個人情報等)も、統計作成等目的での取扱いに限って、この枠組みで提供され得るからです。政府も、統計作成等の目的での利用に限り、要配慮個人情報であっても本人同意なく取得・第三者提供の対象となり得ると答弁しています 3
 この点が、実務上とりわけ慎重な取扱いを要する部分です。

提供統計作成等用個人情報等の具体例

 提供統計作成等用個人情報等に該当するもの/しないものとして、たとえば次のようなものが挙げられます。

該当する 該当しない
  • 統計作成等特例(法30条の2第5項)に基づき、本人同意なく提供を受けた顧客データ等の個人情報
  • 医療・ヘルスケア等の分野で、統計作成等目的で提供を受けた、要配慮個人情報を含む個人情報(統計作成等用要配慮個人情報等)
  • 上記を複製し、または加工した生存する個人に関する情報(加工途中の情報を含む)
  • 本人の同意を得て提供された個人情報(通常の第三者提供によるもの)
  • 委託・事業承継・共同利用(法27条5項)に基づいて取り扱う個人データ
  • 匿名加工情報や統計情報そのもの(特定の個人との対応関係が排斥され、個人に関する情報でないもの)
  • 個人ごとのスコアリングや、個人向け広告・営業への転用を伴う処理

    ※これらは「統計作成等」の定義に含まれず、そもそも特例の枠外

提供統計作成等用個人情報等に関する規定

現行法の規定の振り返り

 現行法には、統計作成等を目的とする包括的な同意不要の第三者提供ルートはありません。本人同意なく個人データを第三者に提供できるのは、法令に基づく場合や、委託・事業承継・共同利用(現行法27条5項)といった限定的な場面に限られています。
 統計作成やAI学習を目的とする場合であっても、原則として本人の同意を得るか、匿名加工情報等に加工する必要があります。

改正法の規定(受領者に課される義務)

 改正法は、提供統計作成等用個人情報等を取り扱う受領者(特例個人情報受領者)に、次の義務を課します(法30条の2第6項〜14項)。

提供統計作成等用個人情報等を取り扱う受領者の主な義務

義務 内容 根拠
継続公表義務 公表事項(提供元・提供先の名称、統計作成等の内容等)を、取り扱っている期間、継続して公表しなければならない。
変更時は原則として事前の公表が必要。
6項〜8項
目的外利用の禁止 公表された統計作成等を行うために必要な範囲を超えて、提供統計作成等用個人情報等を取り扱ってはならない(法18条にかかわらず)。 9項
再提供の制限 原則として第三者提供禁止(同じ統計作成等特例ルート・法定例外を除く)。 10項・11項
安全管理措置等の準用 安全管理措置等(法23条〜25条)や、個人関連情報提供時の規律(法29条)が準用される。
外国にある第三者に提供する場合の措置も定められている。
13項・14項

企業に求められる対応

改正法の施行に向けたタイムライン

 改正法(個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律)は、2026(令和8)年7月10日に参議院本会議で可決・成立し、同月17日に公布されました。施行日は、一部を除き、公布日から2年以内の政令で定める日とされています。

 統計作成等特例は国会審議で最大の争点となった部分であり、公表方法・要件の細目や「統計作成等」の範囲などが、委員会規則・ガイドラインで具体化される見込みです。事業者としては、これら下位法令の整備状況やパブリックコメントの動向を注視しながら、段階的に準備を進めることが現実的です。

成立から施行までのタイムライン(イメージ)

時点 事項
2026年7月10日 参議院本会議で可決・成立
2026年7月17日 公布(令和8年法律第56号)
2026年8月26日 個人情報保護委員会事務局が「政令・規則等で定める事項の全体像(案)」を公表
(施行までの間) 個人情報保護委員会でテーマごとに基本的な考え方を議論 → 団体との意見交換・ヒアリング → 具体的内容の議論 →政令・委員会規則・ガイドラインの整備の条文案提示・パブリックコメント
⇒この間に企業は準備
公布から2年以内の政令指定日 施行(一部を除く)

出所:個人情報保護委員会事務局「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律の成立を受けた 個人情報保護委員会の今後の取組(案)について」(令和8年7月31日)7頁

出所:個人情報保護委員会事務局「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律の成立を受けた 個人情報保護委員会の今後の取組(案)について」(令和8年7月31日)7頁

施行までに求められる実務対応

 改正法が施行されるまでの間に、統計作成等特例に関して事業者として対応すべき項目としては、次のようなものが挙げられます。

(1)公表体制の整備

 提供元である個人情報取扱事業者は、提供元・提供先の名称や統計作成等の内容等を、取扱期間中継続して公表できる仕組みを整えます。変更時の事前公表フローも設計します。

(2)目的の限定管理

 提供統計作成等用個人情報等を取り扱う特例個人情報受領者は、提供を受けた個人情報を、公表した統計作成等の範囲を超えて利用しないよう、利用目的・アクセス範囲を限定して管理します。個人に戻る処理(スコアリング・個人向け営業等)への転用を技術的・組織的に遮断します。

(3)再提供の遮断・書面合意

 特例個人情報受領者は、原則禁止される再提供が誤って行われないよう、提供フローを遮断し、例外に当たる場合の手続を明確化します。提供元との書面合意(特例による提供である旨の明記)を整備します。

(4)要配慮個人情報の削除・仮名化・PETs

 統計作成等特例で流通する個人情報に要配慮個人情報が含まれる場合は、統計作成等の内容に照らして明らかに不要な項目を提供・学習の前に削除し、または仮名化・匿名化・PETs(差分プライバシー、秘密計算、連合学習等)により非識別化する設計を前提とすることが望ましいといえます。特例個人情報受領者としては、生データのまま取り扱わない運用とすることが安全です。

(5)安全管理・越境対応

 特例個人情報受領者は、安全管理措置(法23条〜25条準用)を講じ、外国にある第三者に提供する場合の措置・公表体制も整備する必要があります。

その他の留意点

 上述1-1(1)のとおり、統計作成等特例の利用可否は、統計作成等による出力が「個人に戻るか否か」で線引きされます。取組みの名称や社内での呼称が「統計」「AI学習」であっても、個人向け営業・与信・選別への転用は統計作成等特例の枠外であり、課徴金の対象ともなり得ます(課徴金制度の詳細は5-2をご参照ください)。

 要配慮個人情報を統計作成等特例で扱う場面は、個人情報保護委員会の重点的な監督・罰則の対象とされる方向です(監督等の詳細は5-1をご参照ください)。特に病歴等の医療情報については、医療分野ガイドライン 4 の改正や、医師等の守秘義務・研究倫理指針 5 との関係の整理が今後の重要論点となります。

衆議院・参議院の附帯決議で示された方向性

 改正法の成立に際し、衆議院・参議院の各特別委員会は、それぞれ附帯決議(各14項目)を付しました。附帯決議は法的拘束力を持つものではありませんが、今後整備される委員会規則・ガイドラインの内容を方向づける「予告」として実務上重要です。
 統計作成等特例(提供統計作成等用個人情報等)に関係する主な項目は、次のとおりです。

統計作成等特例に関する衆参附帯決議の主な項目

項目 衆議院 参議院(追加・強化点)
統計作成等の解釈
(第2項)
GDPR等との整合性に留意し、AI開発等の研究・事業活動が過度に萎縮しないよう配慮 統計作成等の概念が適正に解釈されるよう留意(狭く解して適用範囲を狭めない)
再識別防止・監督
(第3項)
他の情報と照合して特定個人を識別できないようにする措置を確実に実施。公表の状況把握・情報公表 AIモデル等による特定個人の識別・要配慮個人情報の推知リスクの勘案を明記。外国企業を含む事業者のモニタリング・報告徴収
要配慮個人情報
(第4項)
統計作成等目的の要配慮個人情報の取扱いにつき、十分な安全管理措置・委託先監督を徹底 個情委の重点監督の対象化。病歴等につき医療分野ガイドライン改正、守秘義務・生命科学/医学系研究倫理指針との関係の明確化、他法令の尊重
課徴金
(第12項)
課徴金の運用の透明性確保、悪質事業者への実効的な抑止 将来の課徴金額の見直し・対象要件の継続的検討を明記

 これらの附帯決議は、統計作成等特例が「規律の緩和」ではなく、再識別防止・要配慮個人情報の重点監督・課徴金による執行という強い拘束を伴うルートであることを裏づけています。
 特に、AIモデルからの再識別・推知リスクの検証、要配慮個人情報を扱う場合の削除・仮名化・PETsの実装、医療分野ガイドラインの改正動向の注視が、実務対応の要となります。

違反した場合のペナルティ

提供統計作成等用個人情報等の規律に違反した場合

 提供統計作成等用個人情報等に関する規律に違反した場合、個人情報保護委員会による監督・罰則の対象となります。

  • 個人情報保護委員会は、報告徴収・立入検査、指導・助言、勧告を行うことができ、必要に応じて措置命令を発出する。
  • 措置命令に違反した場合には、行為者に対して1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科され得る。法人に対しては、両罰規定により1億円以下の罰金が科され得る。

課徴金制度

 さらに、これらの違反のうち一定のものは、改正法で初めて導入される課徴金制度(法148条の3以下)の対象とされている点に注意が必要です。具体的には、目的外利用(法30条の2第9項違反)や、違法な再提供(法30条の2第10項・11項違反)が、課徴金対象行為として明示されています(法148条の3第1項4号・5号)。
 なお、課徴金は、違反行為の対価として金銭等を得た場合等の要件の下で課され、本人の数が一定数を超えない場合等は除かれます。

 この点は、周知義務や利用停止義務が課徴金の直接対象とされていない他の新設類型とは異なり、統計作成等特例の目的外利用・違法再提供が正面から課徴金の対象とされていることを意味します。統計作成等特例の利用は、経営リスクとして管理し、公表・目的限定・再提供制限・安全管理の各要件を確実に満たす内部統制を整えることが求められます。


  1. 正式名称は「個人情報の保護に関する法律施行令」。 ↩︎

  2. 個人情報保護委員会のウェブサイトなどをご参照ください。 ↩︎

  3. 第221回国会 衆議院 地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会 第6号(令和8年5月12日) ↩︎

  4. 正式名称は、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」。詳細は厚生労働省のウェブサイトをご参照ください。 ↩︎

  5. 詳細は厚生労働省のウェブサイトの「医学研究に関する指針一覧」などをご参照ください。 ↩︎

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