令和8年改正個人情報保護法の金融機関等における実務対応 元・立案担当者による下位法令等の方向性を踏まえた解説

IT・情報セキュリティ
藤田 侑也弁護士 弁護士法人片岡総合法律事務所

目次

  1. 令和8年改正個人情報保護法の今後の見通し
    1. 施行までのスケジュール
    2. 金融機関等における早期整理の重要性
  2. 金融機関等の実務における主要な改正点
    1. 統計作成等の特例
    2. 同意取得に係る例外事由の拡大
    3. 子どもの個人情報等に関する規律
    4. 委託に関する規律
    5. 課徴金制度の創設

 令和8年7月10日に「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」が成立し、同月17日に公布されました(令和8年法律第56号)。

 本改正は、課徴金制度の創設というエンフォースメントの強化に加え、子どもの個人情報等に対する規律や、統計作成等の特例に関する新たなルール等、企業のビジネスモデルやシステム設計の根幹に影響し得る重要なアップデートが含まれています。特に、金融機関や各種ファイナンス事業者(以下「金融機関等」といいます)の展開するバンキング、クレジット、前払式支払手段、貸金等の与信・決済領域は、日々膨大なトランザクションデータが行き交うデータ利活用の最前線であるところ、本改正によってデータ利活用の選択肢が広がる一方で、違反時のペナルティも重くなるため、これまで以上にデータビジネスの推進とコンプライアンスの高度な両立が求められます。

 改正点のうち、金融機関等の実務において特に重要であると考えられるのは、①統計作成等の特例、②同意取得に係る例外事由の拡大、③子どもの個人情報等に関する規律、④委託に関する規律、⑤課徴金制度の創設、の5つです。本稿では、これらの改正内容を概説 1 した上で、個人情報保護委員会の元・立案担当者としての視点から、今後制定される政令・規則・ガイドライン等(以下「下位法令等」といいます)において明確となる方向性を見立て、金融機関等における実務運用やそのポイントを検討します。

 なお、個人情報保護法は、あらゆる分野における個人情報の取扱い等を規律する一般法であるため、本稿の内容については、金融機関等以外の企業においても参考となれば幸いです。

(本稿における略記)

略記 正式名称・参照情報
個人情報保護法または 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)
令和8年改正個人情報保護法
または改正法
個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律(令和8年法律第56号)
個情委 個人情報保護委員会
政令 個人情報の保護に関する法律施行令(平成15年政令第507号)
規則 個人情報の保護に関する法律施行規則(平成28年個人情報保護委員会規則第3号)
金融分野ガイドライン 個人情報保護委員会・金融庁「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」(令和6年3月)
信用分野ガイドライン 個人情報保護委員会・経済産業省「信用分野における個人情報保護に関するガイドライン」(令和6年5月)
通則ガイドライン 個人情報保護員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(平成28年11月30日、令和8年6月一部改正)
ガイドラインQ&A 個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A」(平成29年2月16日、令和7年7月1日更新)

令和8年改正個人情報保護法の今後の見通し

施行までのスケジュール

 令和8年改正個人情報保護法は、一部の規定を除き、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます(改正法附則1条本文)。

 過去の法改正のスケジュールを紐解くと、公布から約6か月~9か月後に政令・規則が、公布から約1年~1年半後にガイドラインが改正され、そのさらに約半年後に施行というプロセスが一般的です。また、ガイドラインQ&Aは、主にガイドライン改正後に改正されることが想定されます。
 このプロセスの中で、「金融分野ガイドライン」や「信用分野ガイドライン」等の特定分野ガイドラインは、施行準備期間の終盤に改正される可能性が高いことから、金融機関等における実務の運用ルールが確定してから施行されるまでには、通常半年も猶予がないのが実態です。

改正法の円滑な施行に向けたロードマップ(案)

出所:個人情報保護委員会事務局「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律の成立を受けた個人情報保護委員会の今後の取組(案)について」(令和8年7月31日)7頁

金融機関等における早期整理の重要性

 今般の改正法は、単なるプライバシーポリシーの修正や社内規程の改訂等にとどまらず、UI/UXの改修や企業におけるデータ利活用の在り方の再整理をダイレクトに要求するものであるといえます。
 改正法は、施行までに約2年間の施行準備期間が想定されているものの、企業として対応すべき内容が広範囲にわたることや、特に金融機関等においては上記のとおり実務の運用ルール確定から施行までの猶予期間が短いことを踏まえると、可能な限り早期に改正法の対応を社内で整理しておくことが肝要であると考えられます。

金融機関等の実務における主要な改正点

統計作成等の特例

(1)現行法のルール

 現行法では、要配慮個人情報の取得(法20条2項)、個人データの第三者提供(法27条1項)等については、原則として本人の同意が必要とされています。
 たとえば、クレジットカード会社が保有する膨大な決済データ(顧客の属性情報や詳細な購買データ)を他の事業者に提供する場合や、他の事業者が保有する購買データやECサイトにおける閲覧履歴・行動履歴に係るデータをクレジットカード会社に提供する場合等は、それが提供先において統計情報等の作成のみに利用されるものであったとしても、原則として本人の同意が必要とされています。

 そのため、提供元では、本人から同意を得ることなくデータを提供するための方策として、以下のような工夫が行われてきました。しかしながら、これらの方策は、データ自体の持つ有用性や提供先における取扱いに限界があることがネックとなるために、依然として課題が残るものとなっています。

提供元における方策の例
  • 提供対象のデータをもとに匿名加工情報を作成した上で第三者へ提供する
  • (個人情報保護法の適用対象外である)統計情報に加工して第三者へ提供する
  • 個人データの取扱いの委託として整理する 等

(2)改正の内容

 改正法では、公開されている要配慮個人情報の取得および個人データ等の第三者提供について、統計情報等の作成(統計作成等であると整理できるAI開発等を含む)にのみ利用されること等を条件に、本人の同意を不要とする特例が新設されました(改正法30条の2、31条の3)。

 個人情報の第三者提供に関する当該条件は、主に以下の3点です 2

条件① 第三者が個人情報を統計作成等目的で取り扱う必要がある場合であること(改正法30条の2第5項本文)

条件② 当該個人情報取扱事業者および当該第三者が、インターネットの利用その他の個人情報保護委員会規則で定める方法により、当該個人情報取扱事業者および当該第三者の氏名または名称、行おうとする統計作成等の内容その他個人情報保護委員会規則で定める事項を公表していること(同項1号)

条件③ 当該第三者との間の書面(電磁的記録を含む)による合意により、当該提供が改正法30条の2第5項本文の規定によるものである旨が明確に定められていること(同項2号)

 これにより、クレジットカード会社や他の事業者等が生の決済データ等を提供した上で、提供先において精緻な統計情報を作成したり、AI開発を行うといったスキームが本人の同意なくして構築しやすくなりました。

(3)下位法令等の方向性

 改正法の国会審議における答弁等(以下「答弁等」といいます)を踏まえると、上記の条件①「必要がある場合」の要件との関係で、提供元は、統計作成等目的に照らして明らかに不要であり、かつ容易に削除できるデータが提供対象に含まれている場合は、当該データを削除する等の措置が求められる旨の解釈がガイドライン等において示されることが考えられます 3

 また、本特例では、条件②の公表の方法・内容等が規則に委任されています。
 公表の方法については、本人が容易に公表事項を把握して利用停止等請求(法35条)を行うことや、個情委がモニタリングした上で厳正な法執行を行うことを可能ならしめるために、検索性の高い方法での公表が求められることが想定されていますが 4、具体的にどのような方法であれば高い検索性を有する公表であるといえるのか、現時点では明らかではありません。

 さらに、本特例では、前提となる「統計作成等」の範囲についても規則に委任されています。

改正法2条13項
この法律において「統計作成等」とは、統計の作成その他の大量の情報から当該情報を構成する要素に係る情報を抽出して分類、比較その他の解析を行うことにより、当該大量の情報の傾向又は性質に係る情報(個人に関する情報であるものを除く。)を作成する行為のうち、個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして個人情報保護委員会規則で定めるものをいう。

※下線は筆者

 この規則については、答弁等を踏まえると、たとえば以下のような措置を講じた上で行われるものが規定されることが考えられます 5。これらの措置は、統計作成等を行う提供先が遵守すべき義務です。

  • 目的外利用および第三者提供を防止するための必要かつ適切な措置
  • 漏えい等を防止するための必要かつ適切な措置
  • 不要なデータ項目を随時削除するための必要かつ適切な措置
  • 個人情報等が復元されることを防止するための必要かつ適切な措置

(4)金融機関等における実務運用

 生データを提供して(あるいは提供を受けて)統計情報の作成やAI開発を行う場合、現行法の下では、「委託」(法27条5項1号)に依拠されることが多いと思われます。しかしながら、この委託構成においては、委託された業務以外に個人データを取り扱うことはできない 6、複数の委託元から提供を受けた個人データを本人ごとに突合することはできない(いわゆる「混ぜるな危険」)7 等のハードルがありました。
 本特例は、これらのハードルを適法に乗り越えられるという点でメリットのある改正であると評価することができるため、統計情報の作成やAI開発を伴うデータ連携スキームにおいて積極的に検討されることが期待されます。

 一方で、本特例に基づいて取得・提供されたデータは、あくまで統計作成等目的に限定して利用されなければなりません。万が一、本特例に基づいて取得したデータがそのままマーケティング等の別目的に流用されれば、目的外利用であるとして、2-5で後述する課徴金納付命令の対象となるおそれがあるものと考えられます。

 したがって、社内のデータレイクやデータウェアハウス内において、通常の与信判断や広告宣伝に用いるデータと本特例に基づいて処理される統計作成等用のデータとを明確にタグ付けする等、厳格な分別管理やアクセス制御を行うことのできる設計が必要となります。

同意取得に係る例外事由の拡大

(1)現行法のルール

 現行法では、目的外利用(法18条)、要配慮個人情報の取得(法20条2項)および個人データの第三者提供(法27条)等については、原則として本人の同意が必要とされています。

 しかしながら、実務上は、ユーザー自身がサービスを利用する一連の流れにおいて、自らのデータが提供・利用されることを当然に想定・許容していると評価できる場面が多々存在します。
 このように、データの提供先や利用目的がユーザーの合理的意思の範囲内であり、あえて形式的な同意取得プロセスを挟む意義が実質的に乏しい(むしろユーザーの利便性を損なう)ケースであっても、現行法では一律に同意取得が要求されることから、金融機関等の重い実務負担となっていました。

(2)改正の内容

 改正法では、本人との間の契約の履行のために必要やむを得ないことが明らかである場合その他取得の状況からみて本人の意思に反しないため本人の権利利益を害しないことが明らかである場合として個人情報保護委員会規則で定める場合は、本人の同意を不要とする例外事由が新設されました(改正法18条3項7号、20条2項7号、27条1項8号等)8

(3)下位法令等の方向性

 「本人との間の契約の履行のために必要やむを得ないことが明らかである場合」については、答弁等を踏まえると、本人が契約を通じたサービスを利用する際に、当然にその情報が提供されないとサービスが享受できないと信じるに足りる十分な理由があること等の一定程度厳格な解釈がガイドライン等において示されることが考えられます 9
 また、「取得の状況からみて本人の意思に反しないため本人の権利利益を害しないことが明らかである場合として個人情報保護委員会規則で定める場合」については、諸外国の法令が参考にされる公算が大きいと思われます。
 たとえば、EUの一般データ保護規則(GDPR)においては、個人データ処理の適法化根拠として、「契約の履行」に並んで「契約締結の前に、データ主体の要求に際して手段を講ずるために取扱いが必要となる場合」が規定されています 10 11
 この点を踏まえると、規則においても、契約締結に向けた準備段階において本人の要求に応じるために必然的に生じるデータの提供といったケースが含まれるような規定がなされることが考えられます。

(4)金融機関等における実務運用

 本例外事由は、これまでしばしば依拠されてきた法令例外(法27条1項1号等)や生命・身体・財産例外(同項2号等)に並んで位置付けられるものであり、統計作成等の特例のように、公表・書面合意等の追加的要件が要求されるものではないと考えられます。
 法令遵守に対して慎重な姿勢であるが故に同意取得を負担に感じていた金融機関等にとっては、本人同意なくデータを提供するに当たっての法的な整理の選択肢が増えることになるため、負担の軽減になるとともに、より柔軟な運用が可能となるものと思われます。

 たとえば、以下のようなケースについて本人の同意を得ることが実務上の負担となっている実情があることから、本例外事由によって整理可能となることが期待されます。

  • 利用者がクレジットカード会員本人であることを確認する仕組みであるEMV 3-Dセキュアにおける、加盟店からイシュアに対する個人データ(カード情報、属性情報および購買情報等)の第三者提供
  • 銀行が海外送金を行う場合における、送金元銀行から送金先銀行に対する個人データ(送金者に係る氏名等の情報)の第三者提供 12

「EMV 3-D セキュア」の仕組みにおける情報連携フロー

「EMV 3-D セキュア」の仕組みにおける情報連携フロー

出所:クレジット取引セキュリティ対策協議会「EMV 3-Dセキュア導入ガイド(2.1版)」(2026年3月)41頁

 本例外事由については、外国第三者提供規制(法28条)との関係で特段の対応が不要となる点も重要です。
 たとえば、上記の海外送金の例でいえば、これまで送金人に対して法28条2項に基づく外国制度等に関する情報提供を行う必要があったところ、本例外事由に依拠することができれば、そのような情報提供も必ずしも必要ないこととなります。
 なお、本例外事由によって整理することができなくとも、改正法では、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合」(法27条1項2号)等の例外事由について、「本人の同意を得ることが困難であるとき」のみならず「その他本人の同意を得ないことについて相当の理由があるとき」も依拠できることとされていることから(改正法27条1項2号等)、当該例外事由によって別途整理可能となるケースも相当程度あるものと考えられます。

子どもの個人情報等に関する規律

(1)現行法のルール

 現行法では、子どもの個人情報の取扱い等に関する明文の規定は存在せず、通則ガイドラインやガイドラインQ&Aにおける解釈を通じた運用が行われています。
 すなわち、「本人の同意」を得ることが求められている場面について、個人情報の取扱いに関して同意したことによって生ずる結果について、未成年者が判断できる能力を有していないなどの場合は、親権者や法定代理人等から同意を得る必要があり(通則ガイドライン2-16)、個別具体的に判断されるべきであるが、一般的には、12歳から15歳までの年齢以下の子どもの場合には、法定代理人等から同意を得る必要があるとされています(ガイドラインQ&A1-62)。

 そのため、実務上は、ガイドラインQ&A等を踏まえて12〜15歳程度を1つの目安としつつも、金融機関等ごとに対応がバラバラであり、特に若年層ユーザーを多く抱える前払式支払手段(プリペイドカードやプリペイド型の電子マネー)等を提供する金融機関等にとって、法的な予測可能性が低い状態が続いていました。

(2)改正の内容

 改正法では、子どもの個人情報の取扱い等について、以下のとおり改正が行われました。
 年齢基準については、現行の運用の基礎となっている上記ガイドラインQ&Aの記載やGDPRの規定 13 等を踏まえ、「16歳未満」と定められています。

  • 16歳未満の者が本人である場合、同意取得や通知等について当該本人の法定代理人を対象とすることを明文化する(改正法40条の2) 14
  • 16歳未満の者が本人である場合、当該本人の保有個人データの利用停止等請求の要件を緩和する(改正法35条9項・10項)15
  • 未成年者の個人情報等の取扱い等について、本人の最善の利益を優先して考慮すべき旨の責務規定を設ける(改正法58条の3)

(3)下位法令等の方向性

 子どもの個人情報等に関する規律については、一部の例外事由が政令や規則に委任されていますが、基本的には、ガイドラインやガイドラインQ&Aにおける記載が実務運用のベースになることが想定されます。

 特に、法定代理人の同意取得等の例外事由の1つである「当該個人情報が16歳未満の者であることを知らないことについて正当な理由がある場合」(改正法40条の2第1項1号)の該当性判断における年齢確認の要否やその方法、また、法定代理人の同意の取得方法等については、実務上の関心が高いポイントであると思われます。
 これらについては、GDPR等の諸外国の法令や現行法における本人同意の解釈等を踏まえると、最終的には、リスクベースに則った合理的な水準が示されるものと考えられます(たとえば、事業の性質や個人情報の取扱状況によっては、書面徴求等の厳格な方式ではなく、自己申告等による簡易な方式での年齢確認や法定代理人の同意取得が認められる可能性も十分にあると思われます)。

 また、未成年者を対象とした責務規定も設けられますが、現時点では、具体的にどのような措置が努力義務として求められるのか判然としません。この点については、たとえば、未成年者の個人データについてより高い水準の安全管理措置を求める、プライバシーポリシー等において未成年者にもわかりやすい表現を用いた説明を求める等の措置があり得るように思われます。

(4)金融機関等における実務運用

 金融機関等においては、そのサービスの提供に年齢制限を設けている場合が多いと思われるため、16歳未満の者の個人情報を取り扱うケースは多くないのが実情です 16。仮に年齢制限を遵守しないユーザーが存在することにより16歳未満の者の個人情報が含まれてしまったとしても、上記「正当な理由」が認められる可能性が相当程度あるのではないかと考えられます。

 一方で、特に若年層ユーザーを多く抱える前払式支払手段等を提供する金融機関等については、本改正がダイレクトに影響するため留意すべきです。
 まず、法定代理人の同意取得等の関係では、たとえばUI/UXの設計について、自社のアプリやWebサイトの新規会員登録フローに生年月日の入力画面を追加し、16歳未満と判定された場合に法定代理人向けの同意画面に遷移させる等、具体的なシステムの再構築について整理する必要があります。
 また、利用停止等請求の関係では、16歳未満の者の個人情報の棚卸しや請求を受けた際の対応フロー等について整理する必要があります。

 なお、金融機関等の場合は、金融分野ガイドラインや信用分野ガイドラインの規定に基づいて、個人情報の取得の場面においても利用目的に関する同意を取得しているケースが実務上多く見受けられます。取得について法定代理人の同意を取得している場合は、本改正により追加される利用停止等請求の例外事由に該当するため(改正法35条9項1号)、多くの金融機関等にとっては、当該例外事由によって利用停止等の義務の対象外であると整理することが現実的ではないかと考えられます。
 もっとも、そのような場合であっても、違法行為等を前提とした従来の利用停止等請求(改正法35条1項〜6項)が行使される可能性が依然として残る点は留意すべきです。

委託に関する規律

(1)現行法のルール

 現行法では、個人データの取扱いを委託する場合は、委託元は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託先に対する必要かつ適切な監督を行わなければならないとされています(法25条)。

 金融機関等においては、その業種に応じたレギュレーションを遵守するために業法上求められる措置を外部に委託するケースが非常に多く、また、特に近時は、当局による厳格なモニタリングを踏まえた委託先管理の徹底が重要な実務課題となっています。もちろん、業法上の委託に該当しない一般的な業務の委託も同様に多く存在します。
 これらの委託は、個人データの取扱いの委託を伴うケースが多いため、委託に関する規律の整備は、金融機関等にとって看過できない重要な改正であるといえます。

(2)改正の内容

 改正法では、委託に関する規律について、以下のとおり改正が行われました。

  • 委託先は、法令に基づく場合等を除くほか、その取扱いを委託された個人情報を、当該委託を受けた業務の遂行に必要な範囲を超えて取り扱ってはならない旨の義務の明文化(改正法30条の3)
  • 委託元と委託先(「受託個人情報取扱事業者等」)との委託に係る契約において、次に掲げる事項が定められている場合であって、受託個人情報取扱事業者等が行う取扱いが委託を受けた業務の遂行に必要な範囲内において①に係る契約の定めに従って行われるときは、当該取扱いについて法4章2節~4節等を原則として免除する(改正法58条の2)
受託個人情報等(受託個人情報取扱事業者等が委託を受けた個人情報等)の取扱いの方法として個人情報保護委員会規則で定める事項(同条1号)
受託個人情報取扱事業者等が、受託個人情報等について法26条1項に規定する事態等を知ったときは、速やかに、委託元に対してその旨を報告すること(同条2号)
その他個人情報保護委員会規則で定める事項(同条3号)

 改正法58条の2は、委託先自らは取扱いの方法を決定しないケース、すなわち委託先が委託元から指示された方法で機械的に個人データ等を取り扱うのみの場合(委託先がデータ入力作業を委託され、委託元の指示に従って機械的に入力作業を行う場合等)を想定した規律となっています。

(3)下位法令等の方向性

 委託に関する規律においては、主として改正法58条の2の特例の適用を受けるために委託契約において定めるべき事項が規則に委任されています。これまでの現行法の解釈や個情委における議論を踏まえても、受託個人情報等の取扱いの方法について具体的にどのような内容・粒度が求められるのか(同条1号)、また、その他どのような事項を委託契約で定めることが必要となるのか(同条3号)について判然としません。

 この点について、GDPRでは、委託契約に相当するデータ処理契約(DPA)の必要的記載事項として、たとえば以下のような事項が定められているところ 17 18、これらを参考にして規則が定められる可能性があるものと思われます。

  • 個人データの第三国または国際機関に対する移転と関連するものを含め、管理者からの文書化された指示のみに基づいて個人データを取扱うこと
  • 別の処理者を業務に従事させるために、第2項および第4項に規定する要件(処理者が別の処理者を業務に従事させる場合の要件)を尊重すること
  • 第3章に定めるデータ主体の権利を行使するための要求に対処すべき管理者の義務を充足させるために、それが可能な範囲内で、取扱いの性質を考慮に入れた上で、適切な技術上および組織上の措置によって、管理者を支援すること
  • 取扱いと関係するサービスの提供が終了した後、EU法または加盟国の国内法が個人データの記録保存を要求していない限り、管理者の選択により、すべての個人データを消去し、または、これを管理者に返却すること、ならびに、存在している複製物を消去すること

(4)金融機関等における実務運用

 委託元による委託先の監督義務を定めた法25条自体は改正の対象となっていないため、改正法により、これまで行われてきた委託元の金融機関等による委託先管理の運用自体が大きく変わるものではないと考えられます。

 一方で、特に金融機関等が委託先となるようなケースにおいては、改正法58条の2に基づいて、委託契約において一定の事項が記載されていること等を条件として、一部を除く個人情報保護法上の義務が免除されるというメリットがあるため、今後制定される規則に備えて、委託契約のひな型等の改訂に向けた精査を行っておくことが有用であると考えられます。
 仮に義務が免除される場合であっても、安全管理措置(法23条)等の取扱方法の決定権限の存在を前提としない規定は引き続き適用されるため、その点は留意すべきです。

 なお、改正法30条の3は、これまでも現行法において委託先に求められていた内容(通則ガイドライン3-6-3 (1) 参照)を明文化するものであり、実務上もこれに沿った運用がなされてきているものと思われますので、改正による影響は必ずしも大きいものではないと考えられますが、委託先自身に直接課される法的な義務として再構成されたことから、これまで以上に取扱いの範囲に留意すべきものと思われます。

課徴金制度の創設

(1)現行法のルール

 現行法では、法に違反した事業者は、勧告・命令等を受けた後に違反行為を中止すれば、間接罰の適用がなく、違反行為によって得た経済的利益をそのまま保持することが可能です。また、直罰(法179条等)に関しても、違反行為を抑止する観点からは十分でないと指摘されています。

(2)改正の内容

 改正法では、経済的誘因のある大量の個人情報の取扱いによる悪質な違反行為を実効的に抑止するため、重大な違反行為により個人の権利利益が侵害された場合等について、個情委は、当該違反行為によって得られた財産的利益等に相当する額の課徴金の納付を命ずることとされました。

 課徴金制度の概要は、以下のとおりです。

  • 個人情報取扱事業者が、行為①〜⑤のいずれかを行い、その行為またはその行為をやめることの対価として、金銭その他の財産上の利益を得たときは、個人情報保護委員会は、当該金銭等に相当する額の課徴金を納付することを命じなければならない(改正法148条の3第1項・2項)。
    行為①
    個人情報の提供であって、違法な行為または不当な差別的取扱いを行うことが想定される第三者に対して行うもの
    行為②
    第三者の求めにより行う個人情報の利用であって、当該第三者が当該利用を通じて違法な行為または不当な差別的取扱いを行うことが想定される状況で行われるもの
    行為③
    法27条1項の規定に違反する個人データの提供
    行為④
    統計作成等の特例に違反する個人情報の目的外利用や第三者提供
    行為⑤
    不正な手段で取得した個人情報の利用

  • ただし、以下の場合には、課徴金納付命令の対象外となる。
    i.
    当該事業者が当該違反行為を防止するための相当の注意を怠った者でないと認められる場合(改正法148条の3第1項本文・2項本文)
    ii.
    本人の数が1000人を超えない場合(改正法148条の3第1項ただし書・2項ただし書)
    iii.
    個人の権利利益を害する程度が大きくない場合として政令で定める場合(改正法148条の3第1項ただし書・2項ただし書)

  • その他、課徴金の算定基礎の推計(改正法148条の4)、過去に課徴金納付命令を受けた者の課徴金の加算(改正法148条の5)、自主報告による課徴金の減額(改正法148条の6)等の規定がある。

(3)下位法令等の方向性

 課徴金制度においては、課徴金納付命令の対象外となる①「違反行為を防止するための相当の注意を怠った者でないと認められる場合」(改正法148条の3第1項本文、2項本文)の解釈や、②政令に委任されている「個人の権利利益を害する程度が大きくない場合」(改正法148条の3第1項ただし書、2項ただし書)の内容について特に注視する必要があります。

 上記①の主観的要件については、答弁等を踏まえると、最終的には事業の規模及び性質、個人情報の取扱状況(取り扱う個人情報の性質及び量を含む)等を踏まえた個別判断にはなるものの、事業者の予見可能性を確保し得るような適切な解釈がガイドライン等において示されるものと考えられます 19
 「相当の注意を怠った者でないと認められる場合」の具体例としては、個情委が以下のケースを挙げています 20

  • 事業者が本人同意に基づくものとして個人データの第三者提供を行っていた事案において、当該事業者が、適切な手続により本人確認を行った上で同意を取得していたが、実際には本人ではない者が巧妙に本人になりすまして同意しており、本人は同意していなかった場合

 また、上記②の権利利益侵害要件については、過剰な規制を回避する等の観点から、個人の権利利益が侵害され、または侵害される具体的なおそれが生じた場合に課徴金納付命令の対象を限定する旨の説明がこれまで個情委よりなされてきました。
 このような場合に該当しない場合として、個情委は以下のケースを挙げているため、政令においては、少なくともこれらが含まれるような規定がなされることが考えられます 21

  • 提供先において本人が識別されたり、本人に対する連絡等が行われたりするおそれがない個人データを提供した場合
  • 提供先が、提供された個人データを、閲覧・利用せずに直ちに削除又は返却した場合

(4)金融機関等における実務運用

 課徴金制度は、個人情報保護法で初となる直接的な金銭的ペナルティを科す制度であり、企業活動に与える影響が大きいことから、立案過程では、経済団体等から強い懸念や反対意見が示されていました。
 こうした背景もあり、スモールスタートの制度設計として、課徴金納付命令に至るまで様々な要件が設けられ、真に悪質と評価できるような取扱いをターゲットとする形に絞り込まれています。また、当初懸念されていた安全管理措置義務違反も、課徴金納付命令の対象から除外されています。
 したがって、日頃から高度なコンプライアンス体制を敷いている金融機関等にとっては、本制度が直ちに致命的な脅威となる可能性は低いものと評価できます。

 もっとも、決して対岸の火事として軽視すべき制度ではないことに留意すべきです。
 前述(2)の課徴金対象行為のうち、特に行為③「法27条1項の規定に違反する個人データの提供」や、行為⑤「不正な手段で取得した個人情報の利用」(違法な第三者提供が行われることを容易に知り得る状況下での取得もこれに該当する旨解釈されています 22)、また、改正法で新設された特例に関する行為④「統計作成等の特例に違反する個人情報の目的外利用や第三者提供」については、データ連携を行うビジネスの過程において意図せず要件を踏み抜いてしまうリスクが十分に想定されます。
 したがって、こうした違反を未然に防ぐためには、平時から個人情報等の取扱いの法的根拠(同意の有無や例外要件の該当性等)を厳格に確認した上で、個人情報保護法の規律を適切に遵守できているかについての定期的な点検を実施するとともに、その判断プロセスを客観的な証跡として残しておくことが肝要となります。

 前述のとおり、課徴金制度においては、「相当の注意を怠った者でないと認められる場合」に課徴金納付命令の対象外となる主観的要件が設けられています。上記のような確認フローや証跡保全の体制を平時から十全に構築・運用しておくことで、仮に自社の取扱いが結果的に課徴金対象行為に該当してしまったとしても、「相当の注意を怠った者でない」と評価され、課徴金納付命令を免れ得るケースが相当程度あるものと考えられます。

 このように、課徴金制度に係る対策の要諦は、事後的な対応以上に、平時の適法性確保のプロセスにあるといえます。


  1. 令和8年改正個人情報保護法の全体像や各改正点の詳細な内容については、「令和8年改正個人情報保護法の概要を改正項目ごとに弁護士が解説」を参照することを想定しています。 ↩︎

  2. 統計情報等の作成にのみ利用されることを担保するための規律として、この他に、提供先による目的外利用の禁止(改正法30条の2第9項等)および第三者提供の禁止(改正法30条の2第10項等)等の規定が設けられています。 ↩︎

  3. 第221回国会 衆議院 地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会 第8号(令和8年5月21日)佐脇紀代志政府参考人答弁 ↩︎

  4. 第221回国会 参議院 本会議(令和8年6月12日)松本尚国務大臣答弁 ↩︎

  5. 第221回国会 参議院 デジタル社会の形成及び人工知能の活用等に関する特別委員会 第7回(令和8年6月24日)佐脇紀代志政府参考人答弁 ↩︎

  6. 通則ガイドライン3-6-3 (1) ↩︎

  7. ガイドラインQ&A7-43 ↩︎

  8. この他にも、(4)で後述する同意取得困難性要件の緩和に係る改正等が行われています。 ↩︎

  9. 第221回国会 衆議院 地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会 第6号(令和8年5月12日)佐脇紀代志政府参考人答弁 ↩︎

  10. GDPR6条1項 (b) ↩︎

  11. 個人情報保護委員会が公表しているGDPRの仮日本語訳を基に記載しています。 ↩︎

  12. 個人情報保護委員会「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方について」(令和7年3月5日)第1の1 (2) ↩︎

  13. GDPR8条 ↩︎

  14. 「当該個人情報が16歳未満の者であることを知らないことについて正当な理由がある場合」等の例外事由が設けられています(改正法40条の2第1項各号等)。 ↩︎

  15. 「あらかじめ当該本人の法定代理人の同意を得て当該保有個人データを取得した場合」等の例外事由が設けられています(改正法35条9項各号等)。 ↩︎

  16. たとえば、教育ローンにおいては、契約書の家族構成欄に記載された16歳未満の者の個人情報を金融機関等が取得することがあり得ます。もっとも、その契約者は法定代理人である場合がほとんどであり、当該金融機関等としても当該法定代理人と接点があることから、本改正における義務を履行することは比較的容易なのではないかと考えられます。 ↩︎

  17. GDPR28条3項 ↩︎

  18. 個人情報保護委員会が公表しているGDPRの仮日本語訳を基に、かっこ書き部分は筆者にて補足したものです。 ↩︎

  19. 第221回国会 衆議院 地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会 第6号(令和8年5月12日)佐脇紀代志政府参考人答弁 ↩︎

  20. 個人情報保護委員会事務局「現行制度と検討の方向性について(課徴金制度③)」(令和6年12月18日)8頁 ↩︎

  21. 個人情報保護委員会事務局「現行制度と検討の方向性について(課徴金制度③)」(令和6年12月18日)11頁 ↩︎

  22. 通則ガイドライン3-3-1 ↩︎

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