中国において合弁企業を設立する際の合弁契約と定款作成の留意点
国際取引・海外進出当社は中国で当社ブランド製品を生産するため、中国に製造業の現地法人を設立する予定です。その際、中国国内販売において実績のある中国企業を合弁パートナーとして、上記現地法人を中外合弁経営企業の形態にて設立することを考えています。設立手続に関しては、合弁契約と定款の作成が必要となると思いますが、中国におけるこれら文書の位置付け、および作成における留意点について説明してください。
合弁契約とは合弁各方が合弁企業設立のため、相互の権利、義務関係について意見の一致を達成して締結した文書であり、定款とは合弁契約が規定する原則に従い、合弁各方の一致した同意を経て、中外合弁経営企業の目的、組織原則および経営管理方法等の事項を規定した文書を意味します。いずれの文書も上記のような性質に基づく役割に加えて、中外合弁経営企業の設立にあたり、審査認可機関に対して提出する書類の一つである、という役割があること、そして、その効力は、当局による設立審査認可の完了を待って初めて発生することに留意が必要です。
解説
目次
合弁契約とは
合弁契約の定義と役割
合弁契約の定義
中外合弁経営企業(以下「中外合弁企業」といいます)に関する特別法の一つである中華人民共和国中外合資経営企業法実施条例(2014年2月19日改正)(以下「合弁条例」といいます)第10条は、合弁契約について「合弁各方が合弁企業設立のため、相互の権利、義務関係について意見の一致を達成して締結した文書」と定義しています。
中外合弁企業に対して共同で出資して経営を行う合弁当事者間では、この企業の設立、運営、解散の各段階において各種権利義務の内容が問題になりますので、これらの点に関してあらかじめ当事者間で合意して文書化しておくものが合弁契約であるということができます。
合弁契約の役割
上述の通り、合弁契約には、合弁当事者間の各種権利義務の内容をあらかじめ明らかにしておく(そして、後日の合弁当事者間のトラブル発生を防ぎ、万が一トラブルが発生した時には可能な限り円滑な解決ができるようにする)という役割があります。
このほか、特に大事なのは、合弁契約には、中外合弁企業の設立にあたり、審査認可機関に対して提出する書類の一つである、という役割があることです。中外合弁企業の設立は当局の審査認可を経ることが必要ですが、その際の提出書類の一つが合弁契約です(「中華人民共和国中外合資経営企業法」(2001年3月15日改正)(以下「合弁企業法」といいます)第3条、合弁条例第7条)。合弁当事者間で合弁契約が締結されていないと、そもそも中外合弁企業の設立申請もできないことになります。
合弁契約の内容
合弁条例第11条は、合弁契約に規定すべき主要な事項を以下の通り列挙しています。
合弁契約の主要記載事項:
- 合弁当事者の名称、登録国家、法定住所および法定代表者の氏名、職務、国籍
- 中外合弁企業の名称、法定住所、目的、経営範囲および規模
- 中外合弁企業の投資総額、登録資本、合弁各当事者の出資額、出資割合、出資方式、出資の払い込み期限および出資額納付未了、持分譲渡の規定
- 合弁各当事者の利益分配および損失分担の割合
- 中外合弁企業董事会の構成、董事定員の配分、総経理、副総経理およびその他の高級管理人員の職責、権限および招聘方法
- 採用する主要な生産設備、生産技術およびその出所
- 原材料の購入および製品の販売方式
- 財務、会計、監査の処理原則
- 労働管理、賃金、福利、労働保険等の事項に関する規定
- 中外合弁企業の期限、解散および清算手続
- 契約違反の責任
- 合弁当事者間の紛争解決の方式および手続
- 契約文書が採用する文字および契約効力発生の条件 なお、合弁契約には準拠法に関する条項も設けることが一般的ですが、合弁条例第12条に基づき、合弁契約の締結、効力、解釈、執行及び紛争の解決についてはいずれも中国法を適用すべきものとされている点に留意が必要です。
定款とは
定款の定義と役割
定款の定義
上述した合弁条例第10条は、定款について「合弁企業契約が規定する原則に従い、合弁各方の一致した同意を経て、合弁企業の目的、組織原則及び経営管理方法等の事項を規定した文書」と定義しています。
中外合弁企業経営の各段階においては、その組織機構の構築や各種意思決定等の拠りどころ(例えば、意思決定機関は何か?当該機関による意思決定はどのようなルールに従い行われるべきか?・・等の決まりごと)が必要ですが、これを当該企業の設立段階で合弁当事者間の協議を経て決定し、文書化しておくものが定款であるということになります。
定款の役割
上述の通り、定款には、中外合弁企業経営の拠りどころとなる重要な文書としての役割があります。また、合弁契約と同様、定款には、中外合弁企業の設立にあたり、審査認可機関に対して提出する書類の一つである、という役割があります(合弁企業法第3条、合弁条例第7条)。合弁当事者間で定款が作成されていないと、中外合弁企業の設立申請ができません。
定款の内容
合弁条例第13条は、定款に規定すべき主要な事項を以下の通り列挙しています。その規定事項の多くの部分で合弁契約と定款は共通していることから、合弁当事者間における設立段階の交渉ではまず合弁契約の内容を固めて、その後、合弁契約の内容に従って定款を作成する、という形態を取ることも少なくありません。
定款の主要記載事項:
- 中外合弁企業の名称および法定住所
- 中外合弁企業の目的、経営範囲および合弁期限
- 合弁各当事者の名称、登録国家、法定住所、法定代表者の氏名、職務および国籍
- 中外合弁企業の投資総額、登録資本、合弁各当事者の出資額、出資割合、出資方式、出資の払い込み期限、持分譲渡の規定、利益分配および損失分担の割合
- 董事会の構成、職権および議事規則、董事の任期、董事長、副董事長の職責
- 管理機構の設置、事務処理規則、総経理、副総経理及びその他の高級管理人員の職責および任免方法
- 財務、会計、監査制度の原則
- 解散および清算
- 定款修正の手続
作成における留意点
両文書の内容に不一致が生じないように気をつける
上述の通り、その規定事項の多くの部分で合弁契約と定款は共通していますが、同一事項について合弁契約と定款の規定内容が異なっている、ということも起こりえます。
この点、上述したように合弁当事者間における設立段階の交渉において、まず合弁契約の内容を固めて、その後、当該内容に従って定款を作成する、という形態を取る場合、上記のような内容齟齬が発生する可能性は低くなります。
それでも、やはり実務上は、何らかの状況(例えば、合弁契約と定款のドラフトが確定した後、その一方に修正事項が発生し、他方のドラフトには当該修正を反映することを失念した場合等)において、合弁契約と定款の一部の規定内容において齟齬が生じるということはありえます。
このような場合を想定して、合弁契約および定款それぞれに「合弁契約と定款の間で、同一の事項について内容に齟齬が生じた場合、合弁契約の記載を基準とするものとする」といった趣旨の条項を追加することもあります。
なお、合弁企業法及び合弁条例のいずれも、合弁契約と定款の記載事項の間で内容の齟齬が生じた場合にいずれを優先させるか、という点に関する規定は置いていません。合弁条例第10条第2項は「合弁企業協議」(合弁当事者が合弁企業設立のいくつかの要点と原則について意見の一致を達成して締結した文書です。合弁条例第10条第1項)と合弁契約の内容に齟齬が生じた場合に後者を基準とすべきことを規定するのみです。いずれにせよ、合弁契約と定款の作成に当たっては、上記のような内容齟齬が生じないように、慎重に作業を進めることが肝要です。
正確な中国語版が作成されるように留意する
合弁契約および定款のいずれも、中国語を用いて作成すべきものとされていますが、同時に外国語(例えば、日本企業が外国側の出資者となって中外合弁企業を設立する場合には日本語)を用いてこれらの文書を作成することもでき(合弁条例第7条第2項)、実務上は、むしろこのような複数言語における各文書の作成が行われることが多いものといえます。
この場合、例えば日本語から中国語(または中国語から日本語)への翻訳を正確に行ない、両言語版の文書間における内容の一致を確保する必要があります。これは、両言語版の内容が一致していない場合、合弁当事者間で認識している合弁契約、定款の内容が異なり、将来的にこの点を原因としたトラブルにも発展しかねないためです。なお、このような場合を念頭において、合弁契約および定款中に、それぞれ「日中言語版の間で内容に齟齬があった場合、中国語版の内容を基準とする」といった趣旨の条項を設ける場合もあります。当該趣旨の条項を設けた場合であっても、翻訳を正確に行い、正確に各言語版の合弁契約、定款の内容を把握しておくべきことは当然です。
スケジュールの都合で翻訳作業が急ぎで行われた場合には上記のような齟齬が生じる可能性も高まりますので、特に注意が必要です。
合弁契約、定款の変更も審査認可の対象となることを理解しておく
上述の通り、合弁契約および定款は中外合弁企業設立の当局審査認可手続における提出書類です。そして、これらの文書の効力は審査認可がなされた段階で初めて発生するものとされています。この点は各文書の修正に関しても同様であり、中外合弁企業の設立後、企業の運営段階において、合弁契約や定款の修正を行なう場合、修正内容に関する効力の発生はその修正に対する当局審査認可の完了時点ということになります(以上につき、合弁条例第14条)。この点は、審査認可の対象ではない一般的な契約とは異なる部分ですので、あらかじめ留意が必要です。

弁護士法人 瓜生・糸賀法律事務所
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