英文契約書における仲裁条項(Arbitration)の定め方
取引・契約・債権回収英文契約書において仲裁条項(Arbitration)を定める場合、どのように規定すればよいでしょうか。
英文契約書で仲裁条項(Arbitration)を定める場合、仲裁機関、仲裁地はもちろんのこと、仲裁人の人数、仲裁の言語など具体的に規定しておくことが望ましいといえます。
解説
目次
仲裁とは
一般社団法人日本商事仲裁協会(JCAA)によれば、「仲裁とは、当事者が、私人である第三者をして争いを判断させ、その判断に服することを合意し(「仲裁合意」と呼びます)、その合意に基づき紛争を解決する、法によって認められた(仲裁法)制度」1 と説明されています。
裁判の場合には裁判官が争いにつき判断をしますが、仲裁の場合には仲裁人という第三者が判断をし、当事者は仲裁人の仲裁判断に服することとなります。日本では、仲裁法という法律によって仲裁判断は裁判による確定判決と同一の効力を有することとされています(仲裁法45条)。
仲裁のメリット・デメリット
-
仲裁のメリットは、一般に、
- 専門性(仲裁人に専門家を選任することができる)
- 非公開性(裁判のように公開の法廷で行われるものではない)
- 迅速性(一般的に三審制が採られる裁判と異なり一審かぎりであり、また、結論が出るまでの期間も裁判よりも比較的短い)
- 柔軟性(仲裁人の選任、言語、期間などを当事者で決めることができる) などがあげられることが多いですが、最も大きなメリットは、国際間取引における執行の可能性・容易性にあります。
紛争解決手段として裁判を利用する場合、当事者間の所在国が異なる国際間取引においては、自国において勝訴判決を得たとしても、相手方当事国においてその判決を執行することが困難なケースが少なくありません。日本の裁判所の判決について承認・執行が認められていない国としてよく知られているのは、たとえば、中国です(中国では、日本の裁判所の判決の承認・執行を否定する裁判も過去に出されています)。
これに対し、仲裁であれば、「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(いわゆる「ニューヨーク条約」)の締約国であれば外国仲裁判断の執行が可能です。また、ニューヨーク条約は、中国も含め、約160か国(2019年4月現在)と非常に多くの国が締約国となっていることから、国際間取引における執行の可能性・容易性の点で裁判に比べると極めて優れているといえます。国際間取引において、訴訟ではなく仲裁手続が選択されることが多い最大の理由といえます。
一方で、仲裁のデメリットとしては、基本的に当事者が、仲裁人の報酬などの仲裁手続にかかる費用を負担することになるため、公費で運用される裁判手続と比べて、費用が高くなるということがあげられます。
契約書で仲裁条項を定める必要性
紛争解決手段として仲裁を選択するためには、当事者双方が仲裁判断に服することの合意(仲裁合意)が必要です。紛争の発生後に仲裁合意をすることも理屈としては可能ですが、紛争が顕在化している状況で仲裁合意をすることは事実上困難である場合が多く、紛争が生じる前の契約締結段階で仲裁条項を定めておくべきです。
また、誤った仲裁機関を記載してしまった場合など、仲裁条項を正しく作成しないと、実質的に仲裁条項として機能しないこととなってしまいますので、仲裁条項を定める際には、以下で説明する点を含め、十分に注意して定める必要があります。
契約書における仲裁条項(Arbitration)の定め方と具体例
仲裁の種類(機関仲裁、アド・ホック仲裁)
仲裁は、大きく分けて、仲裁機関を利用する機関仲裁と当事者が個別に仲裁手続を定めるアド・ホック仲裁の2つに分けられます。
アド・ホック仲裁は、仲裁機関に対して支払う手数料がかからない分、費用を抑えられるというメリットがありますが、仲裁手続をどのように進めるかについてそもそもの協議が整わず仲裁手続が進められないことがあるといったデメリットから、一般的には、機関仲裁を選択する方が無難であるといえます。
機関仲裁を選択する場合の仲裁条項は、各仲裁機関が仲裁条項モデルを公開しているため、利用する仲裁機関が公開する仲裁条項をベースとして定めるのがよいでしょう。
アド・ホック仲裁を選択する場合の仲裁条項は、仲裁手続について詳細な定めを契約書上定めておくことも考えられますが、一般的には、あらかじめ決められた一定の仲裁手続準則に従うとしておくほうが簡便で、かつ望ましいでしょう。国連国際商取引委員会(UNCITRAL)の仲裁規則は、この目的で用いられることが多いです。
仲裁の種類 | 仲裁条項(例) | |
---|---|---|
機関仲裁 | 仲裁機関を利用する仲裁 | 利用する仲裁機関が公開する仲裁条項をベースとして定める |
アド・ホック仲裁 | 当事者が個別に仲裁手続を定める仲裁 | あらかじめ決められた一定の仲裁手続準則に従うとしておく |
仲裁地の選択
仲裁条項を定めるうえで、最もよく問題になるのは仲裁地の選択です。
仲裁地は、単に手続を行う場所を意味するものではなく、その仲裁手続がどこの国の法律に従うべきかを決める基準となるものであるため、重要な意味を持ちます(なお、実際の仲裁手続も仲裁地で行うことが多いですが、仲裁地ではない場所で仲裁手続(審問期日など)を行うことも可能です)。
日本企業の場合、日本を仲裁地として定めたいと考えるのが一般的ですが、相手方当事者も相手方の所在地を仲裁地としたいと考えることが一般的であり、仲裁地の合意ができないという事態が生じます。
このような場合には、仲裁の被申立人所在地を仲裁地とする方法(被告地主義、クロス式)や、第三者に仲裁地の決定を委ねる方法、第三国を仲裁地とする方法が考えられます。第三国を仲裁地とする場合、ヨーロッパではロンドン、アジアではシンガポール、香港などが選択されることが比較的多いです。
日本の仲裁機関で機関仲裁を行う場合の仲裁条項例
日本においては一般社団法人日本商事仲裁協会(JCAA)という仲裁機関が存在します。
JCAAが公開している仲裁条項(JCAAの「商事仲裁規則」によって仲裁を行う場合の仲裁条項)は、以下のとおりです 2。同協会を仲裁機関として利用する場合、最低限、この条項に従った仲裁条項を定めておくとよいでしょう。
(この契約から又はこの契約に関連して生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って仲裁により最終的に解決されるものとする。仲裁地は(国名及び都市名)とする。)
なお、上記の条項例は、同協会の「商事仲裁規則」に従うとするものですが、同協会を事務局として活用しつつ国際標準的なルールとしてより広く認知されているUNCITRAL仲裁規則を用いる場合の条項例や、2019年1月から施行された新しい規則である「インタラクティヴ仲裁規則」を用いる場合の条項例も、同協会によって公開されています。したがって、実際に利用する仲裁規則に合わせて条項を使い分けることが必要になります。
UNCITRAL仲裁規則を利用するアド・ホック仲裁の仲裁条項例
上述のとおり、アド・ホック仲裁を選択した場合には、その手続についてUNCITRALの仲裁規則に従うべきことを定めておくことがあります。その場合の条項例は、以下のとおりです 3。
(この契約からもしくはこの契約に関連して生ずることがあるすべての紛争、論争もしくは請求又はこの契約の違反、終了もしくは有効性は、UNCITRAL仲裁規則に従って仲裁により解決されるものとする。)
手続を具体的に定める場合の仲裁条項例
上記の一般的な条項例に加えて、手続を具体的に定めておくことが望ましいといえます。
たとえば、JCAAの商事仲裁規則では、当事者の合意がないかぎり、仲裁人は1人となるとされていますが(商事仲裁規則26条2項参照。ただし、同3項により、いずれかの当事者の求めがあり、かつ、JCAAが適当と認めた場合は3人となる)、客観性・公平性の観点からは、仲裁人が複数名である方が望ましいと考えられますので、あらかじめ当事者で仲裁人の数を合意しておくとよいでしょう。また、仲裁の言語についても具体的に定めておくとよいでしょう。
(当該仲裁は、3人の仲裁人によって、英語で行われるものとする。)
このほか、下記の事項についても具体的な定めを設けておくことも考えられます。ただし、このような定めを設ける場合には、準拠する仲裁規則との間で矛盾が生じないよう注意する必要があります。
- 仲裁人の選任方法(例:各当事者が1名ずつ選任し、残りの1名は当該2名の仲裁人が選任する)
- 仲裁人の権限(例:懲罰的損害賠償について裁定する権限を有しない)
- 仲裁期間(例:仲裁人の決定から3か月以内)等
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出典:JCAA「仲裁について 仲裁の意義」(2019年5月20日最終閲覧) ↩︎
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出典:JCAA「仲裁について 標準仲裁条項」(2019年5月20日最終閲覧) ↩︎

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