長島・大野・常松法律事務所とMNTSQが見据える、大手事務所とリーガルテックベンチャーの協働の形

IT・情報セキュリティ

目次

  1. デュー・ディリジェンス業務を通して感じた問題意識をサービスコンセプトに反映
  2. 長島・大野・常松法律事務所はMNTSQへの出資に事務所をあげて賛同
  3. データをもとにした集合知を形成し、経験によらない客観性のある判断を可能に
  4. 大手事務所として蓄積する法的知見をリーガルテック企業へ提供

「未来の社会インフラとなるリーガルテクノロジーをかたちにする」をミッションに掲げ、2018年11月に設立したリーガルテックスタートアップ企業 MNTSQ(モンテスキュー)株式会社。現在は、法律事務所向けに法務デュー・ディリジェンス業務を効率化するプロダクトなどを提供しつつ、同時に一般企業向けのプロダクトの立ち上げを進めている。

2019年10月には長島・大野・常松法律事務所から8億円の資金調達を実施し、同事務所 パートナーの杉本 文秀弁護士および藤原 総一郎弁護士がそれぞれ、社外監査役、社外取締役に就任した 1。MNTSQの代表取締役を務めるのは、長島・大野・常松法律事務所の出身でもある板谷 隆平弁護士だ。本稿では3名に、MNTSQ設立の経緯やサービス概要、資金調達の裏側、今後の展望などを聞いた。

デュー・ディリジェンス業務を通して感じた問題意識をサービスコンセプトに反映

まずはMNTSQ立ち上げの経緯について教えてください。

板谷氏:
私は起業する前、長島・大野・常松法律事務所のM&A関連の業務を行うチームに所属していました。そこで、デュー・ディリジェンス業務の一部について、法的に高度な能力を必要としないものがあるのではないか、それは本当に人間の手作業でやらなければいけないものなのか、という疑問を持つようになりました。

そのころ、大学時代の友人たちと定期的に行っていたビジネス関連のディスカッションの場で、共同創業者である安野(編集部注:安野 貴博取締役)と自然言語処理技術を活用して何かできることがないかという話題になり、法務デュー・ディリジェンスでよく問題になるチェンジ・オブ・コントロール条項を検出できるプログラムを作れないかというアイデアを相談してみたんです。簡単ではありませんでしたが、実際にプログラムを作ってみたところ、いくつかアルゴリズムを組み合わせることにより、人間と比較して遜色がない精度を出せることが確認できました。そこからビジネスとして進めるべく、本格的に開発と検討をスタートしたという経緯です。

最初にデュー・ディリジェンスのサポートという方向性でビジネスをスタートされたのはなぜでしょうか。

板谷氏:
私自身の原体験や問題意識があったことも大きいですが、一般的にも法律事務所においてデュー・ディリジェンスの効率化は大きな課題の1つなので、それを解決したいと思ったためです。また特定企業の契約書雛形を分析するようなサービスの開発を目指すことも可能でしたが、ビジネスをスケールさせるためには、どんな文言、条項が出てくるかわからないなかでも安定的に稼働するシステムを作ることが鍵になると感じ、チャレンジしたいと考えました。その切り口としてデュー・ディリジェンスは適切であり、当初からある程度の精度も出ていたため、まずはここを突破口に進めていこうと考えました。

2年間は非公開でサービスの開発や準備を進められていたとのことですが 2、メンバーはどのようにして集められたのですか。

板谷氏:
個人的なネットワークで声をかけました。安野とデザイナーの生谷 侑太郎は大学の同期です。安野はPKSHA Technologyの自然言語処理技術に特化した戦略子会社 BEDOREのファウンダー、生谷はベンチャー界隈で事業の立ち上げを複数経験してきた人物です。事務所に所属していた当時から彼らも含めて定期的に外の人間と交流をしていくなかで、「このサービスは本当に実現できる」と感じたタイミングがあり、そこで当時BEDOREの役員を務めていた堅山 耀太郎も参画し、MNTSQのコアとなる4人が固まりました。

開発を非公開で進められたのはなぜでしょうか。

板谷氏:
「本当にものになる技術なのか」を確認したかったからです。自然言語処理技術を適切に扱うことは簡単ではありません。したがって、ちゃんと効果の出る用途を確かめる期間が必要だと考えました。並行して、非公開の期間中は米国も含めた現在のリーガルテックの状況や自然言語処理技術の可能性などについてもリサーチしていました。

MNTSQ株式会社 代表取締役 板谷 隆平氏

MNTSQ株式会社 代表取締役 板谷 隆平氏

長島・大野・常松法律事務所はMNTSQへの出資に事務所をあげて賛同

昨年には長島・大野・常松法律事務所との資本業務提携および杉本弁護士・藤原弁護士の役員就任を発表されました。板谷さんと先生方との関係について伺えますか。

板谷氏:
藤原先生とは事務所に在籍していたときにいつも一緒に仕事をしていました。起業を考えたタイミングで「人生相談がある」とメールを送り、「皆が留学する時期ですが、僕は起業したいんです」と直接伝えたところ、前向きな意見をもらうことができました。その後、藤原先生を通じて杉本先生へ起業についてのプレゼンを行う機会をいただきました。

藤原先生と杉本先生は、板谷さんのプレゼンをどのように受け止められましたか。

藤原弁護士:
私自身、もともとコンピューター関連に興味があったこともあり、どこかのタイミングでテクノロジーが盛り上がってくると予想して、5年ほど前から起業の可能性も抽象的には考えていました。プレゼンを受けた時点では、英語圏でリーガルテックがすでに盛り上がりつつあり、当事務所でもリーガルテックを研究しようという流れができていた時期でもありました。

杉本弁護士:
当時、事務所の業務フローをすべて洗い出したうえで、ITで効率化できる部分を事務所のプロジェクトとして探しており、その責任者であった藤原から板谷を紹介されたのです。板谷が優れた弁護士だということは知っていましたし、共同創業者の安野さんをはじめ技術者も優秀な方々でしたので、このサービスは本物だと直感しました。

そこから2019年2月には、貴所において非公開のパイロットプロジェクト(試験利用)を実施されています。実際にサービスを実務で使ってわかったことはありますか。

板谷氏:
開発したアルゴリズムを使ってみたところ、一部業務については弁護士よりも高い精度が確認できました。またそれまで2週間ほどかかっていたドラフトの作成がクリック1つで出てくるようになるなど、業務の効率化にも寄与できることがわかりました。定量的にも定性的にもいけそうだという感覚が得られましたね。

藤原弁護士:
彼らのサービスの良いところは、アウトプットの精度が優れていることに加えて、ユーザーインターフェース(UI)がすごくきちんとしていることだと思います。技術的にいくら優れていても、UIが悪ければ使ってもらえるものにはなりません。

杉本弁護士:
デモを見せてもらうなかで、これは使われるサービスになりそうだという感覚を抱きました。海外の事務所で使っているリーガルテックサービスとほぼ同様のレベル感を持った日本語版のサービスという印象でした。日本語を解析することは、英語を解析するよりも難しい部分もあるので、そういう意味でもこの技術は素晴らしいものだろう、と感じました。

2019年10月には資本業務提携を発表されました。所内では出資に至るまでにどのような議論があったのでしょうか。

杉本弁護士:
事務所のマネジメントレベルから徐々にコンセンサスをつくって地ならしを進め、最終的にはパートナー会議で承認を得て、出資という決断をしました。さまざまな質問は出ましたが、ポジティブな意見ばかりで、事務所をあげて賛同する流れでした。当事務所は比較的コンサバだという世間の見方もあると思いますが、こうした新しいプロジェクトについては積極的に取り組んでいくカルチャーがあります。

長島・大野・常松法律事務所 杉本 文秀弁護士

長島・大野・常松法律事務所 杉本 文秀弁護士

データをもとにした集合知を形成し、経験によらない客観性のある判断を可能に

MNTSQとして提供するサービスについて教えてください。

板谷氏:
長島・大野・常松法律事務所に提供している法務デュー・ディリジェンスサービスでは、契約書の内容の解析や基本的な情報の整理、危険な条項の検出を自動で行う機能を備えていますが、異なるフォーマットや契約類型の書類であっても、安定的に稼働するアルゴリズムを組み立てることができています。多岐にわたる契約内容への対応に加え、スキャンされたPDFなど多様な形式のファイルを適切に読み取り、機械学習技術を用いて適切に解析することにも取り組んでいます。

また事務所内のナレッジやプラクティスを見える化し、暗黙知を皆がアクセス可能な資産にしていくためのサポートにも注力しています。たとえば、M&Aにおける株式譲渡契約を結ぶ際に補償条項(インデムニティ)の上限額は適切かという相談がよくあります。従来は各弁護士が自身の経験をもとに判断してきましたが、直近3年間の株式譲渡契約のデータをもとに統計的に上限額の分布を出すことができれば、客観性をもった判断が可能になります。

このように、データをもとにしてナレッジやプラクティスの共通基盤を作ることは、これからのナレッジマネジメントのあり方だと思います。過去の契約書やデュー・ディリジェンスレポートなどを、匿名化等を行ったうえで辞書的に閲覧できるようにするプロジェクトも進めているところです。

大手事務所として蓄積する法的知見をリーガルテック企業へ提供

今後、リーガルテックの普及が進むと弁護士の働き方にはどのように影響するとお考えですか。

藤原弁護士:
人の暗黙知や経験、感覚が必要とされる業務の範囲がより最適化され、単純な業務は機械に任せる流れになると思います。たとえば、「普通はこの条項が入っているけど、この契約書には入っていませんよ」と気づくところまでは機械が解析してくれる。本当にその条項を入れるべきかどうかの判断は、人が行うという具合です。

杉本弁護士:
我々人間に与えられる情報量はどんどん拡張しており、その処理を人力だけでカバーするのは難しくなっています。人間の力で対応できない部分については、テクノロジーの力を借りなければいけません。機械にできない業務は、まだまだたくさんありますので、人間はそこにより注力していく役割分担になるでしょう。

今回の提携のように、大手の法律事務所がリーガルテックの事業者に出資したり、協働体制を築いたりという流れができつつあります。大手事務所がリーガルテックの発展に協力する意義をどう感じていらっしゃいますか。

藤原弁護士:
テクノロジーだけが発展しても、前提とするリーガル知識がなければ意味がありません。事務所として蓄積している知識を提供できる点で、我々のような法律事務所が関与する意味はあると思います。また、協力によりサービスが一層便利なものとなれば、1ユーザーとして恩恵を受けられるメリットもあります。

長島・大野・常松法律事務所 藤原 総一郎弁護士

長島・大野・常松法律事務所 藤原 総一郎弁護士

現在MNTSQでは、一般企業へのサービス提供に向けて各企業で実証実験をなされています。企業へのサービス提供へ向け強化する機能などはありますか。

板谷氏:
一般企業への提供は2020年の夏ごろを想定しており、数十社ほどの企業から実証実験の希望がきています。実証実験を行うプロダクトとして、一般企業向けプロダクトと、金融・不動産に特化したプロダクトの両方を開発中です。一般企業向けには、レビューだけではなくドラフティングや管理も含めた包括的なシステムを作っていく予定です。法律事務所にも提供していく予定ですが、まずは企業向けに注力していきます。

リーガルテックに期待されることとして、業務効率化とクオリティアップの大きく2つがあると言われますが、我々のサービスでは、その両方を成し遂げたいと思っています。さらに、組織における属人化の課題も解決していきたいですね。サステイナブルな組織の形成をテクノロジーで助けていきたいです。

リーガルテックの開発や普及に対し、今後長島・大野・常松法律事務所としてはどのように関わっていく予定でしょうか。

杉本弁護士:
いろいろな可能性は、常に検討しています。リーガルテックによるビジネスを行うこと自体が目的ではなく、法律事務所としてのサービス提供が本業ですので、そのために必要な取り組みや協働を検討する方針です。テクノロジーを開発する際に実証実験等が必要であれば協力しますし、今回のように資本業務提携が必要ということであれば、検討する可能性はあるということです。

藤原弁護士:
法曹界だけでなく、社会全体のテーマだと思いますが、日本が変わるための最後のチャンスの時期だと捉えています。世界にビハインドすることなく追いついていくために、私たちも変化していきたいですね。

10年後、20年後を見据え、どういう事務所でありたいとお考えでしょうか。

杉本弁護士:
我々の最大の目的は、最高品質のリーガルサービスを提供することです。そのために必要な人材やオフィス、ITなどへの投資は積極的に行っていきますし、様々な施策を実行していくつもりでいます。

日本の社会では、近ごろ人口減少等心配事が多いですが、日本企業の方々が国際社会の中でこれからもプレゼンスを示していっていただくため、我々はリーガル面で少なくとも国際的レベルから劣後することがないよう、しっかりとサポートをしていきたいと思っています。

(文:周藤 瞳美、写真:弘田 充、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

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