コーポレートガバナンス・コードの改訂について
コーポレート・M&A
※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュース No.153」の「特集」の内容を元に編集したものです。
6月1日、東証が「改訂コーポレートガバナンス・コード」を、金融庁が「投資家と企業の対話ガイドラインの確定について」をそれぞれ公表しました。以下では、改訂コーポレートガバナンス・コード(以下「改訂コード」という)のポイントにつき、改訂コードに対応した実際の開示例とパブリック・コメント(以下「パブコメ」という)も踏まえてご案内します。
改訂の全体像
本改訂では5原則が新設、9原則が改訂され、コーポレートガバナンス・コードは全73原則から全78原則となりました。いわゆる開示原則については、原則2-6が追加された一方で、原則4-8は開示原則ではなくなりましたので、改訂前と同じく11項目のままとなっています。
また、「ESGに関する対話が進む中、企業のESG要素に関する『情報開示』についてコードに盛り込むべき」との意見が複数寄せられたことを受け、原則の本文ではありませんが、第3章の「考え方」において「非財務情報」にいわゆるESG要素に関する情報が含まれることを明確化する(パブコメQ.295~303に対する回答より)改訂がなされています。
改訂コード | 改訂のポイント | ||
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政策保有株式 | 政策保有株式の方針、議決権行使 | 原則 1-4 |
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政策保有株主との関係 | 補充原則 1-4①(新設) 補充原則 1-4②(新設) |
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アセットオーナー | 原則 2-6(新設) |
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CEO の選解任・後継者計画 | 原則 3-1(iv)(v) 補充原則 3-1① 補充原則 4-1③ 補充原則 4-3②(新設) 補充原則 4-3③(新設) |
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独立した諮問委員会の活用 | 補充原則 4-10① |
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経営陣の報酬決定手続き | 補充原則 4-2① |
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独立社外取締役の選任・機能発揮/監査役の選任・機能発揮 | 原則 4-8 原則 4-11 |
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経営環境の変化に対応した経営判断及び投資戦略・財務管理の方針 | 原則 5-2 |
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改訂コードに対応した実際の開示事例
6月15日時点で、改訂コードに対応したコーポレート・ガバナンス報告書の提出会社は、9社確認できました。その中から開示が求められる原則について、幾つかの実際の開示事例をご案内します。
新旧いずれのコードに基づく記載であるかを明記する事例
パブコメでは新旧いずれのコードに基づく記載であるかを明記する等の対応が期待される旨言及されています(パブコメQ.24の回答より)。次の内容は、原則1-4は改訂後、それ以外のコードは改訂前のコードに基づき記載していることが明記されており、利用者にとって分かりやすい開示となっています。
原則1-4を除き、2018年6月の改定前のコードに基づき記載しており、これらの原則についての改定を踏まえた更新は2018年12月までに行う予定です。
改訂コードに対応した開示事例
政策保有株式の保有方針および保有の適否の検証(原則1-4)
政策保有株式の縮減に関する方針・考え方や、保有の適否の検証の基準について記載されている開示事例です。
(1)政策保有に関する方針
当社は、持続的な成長と社会的価値、経済的価値を高めるため、業務提携、原材料の安定調達など経営戦略の一環として、また、取引先との良好な関係を構築し、事業の円滑な推進を図るために必要と判断する企業の株式を保有しています。
当社は、毎年、取締役会で主要な政策保有株式について、政策保有の意義、経済合理性等を検証し、保有継続の可否および保有株式数を見直します。
見直しの結果、2017年度に一部保有株式を売却いたしました。
(1)政策保有に関する方針
当社は、持続的な成長と社会的価値、経済的価値を高めるため、業務提携、原材料の安定調達など経営戦略の一環として、また、取引先との良好な関係を構築し、事業の円滑な推進を図るために必要と判断する企業の株式を保有しています。当社は、直近事業年度末の状況に照らし、保有の意義が希薄と考えられる政策保有株式については、できる限り速やかに処分・縮減していく基本方針のもと、毎年、取締役会で個別の政策保有株式について、政策保有の意義、経済合理性等を検証し、保有継続の可否および保有株式数を見直します。なお、経済合理性の検証の際は、直近事業年度末における各政策保有株式の金額を基準として、これに対する、発行会社が同事業年度において当社利益に寄与した金額の割合を算出し、その割合が当社の単体5年平均ROAの概ね2倍を下回る場合には、売却検討対象とします。また、簿価から30%以上時価下落した銘柄及び、当社との年間取引高が1億円未満である銘柄についても、売却検討対象とします。その上で、得意先企業のうちこれらの基準のいずれかに抵触した銘柄については、毎年、取締役会で売却の是否に関する審議を行い、売却する銘柄を決定します。見直しの結果、2018年度に一部保有株式を売却いたしました。
【パブコメを踏まえた本原則のポイント】
- 政策保有株式の縮減方針
・改訂コードは、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方などを踏まえた保有の方針を開示することを求めています。仮に、「縮減に関する方針・考え方など」を示さない場合には、同原則への「エクスプレイン」として、その理由を十分に説明することが求められます。(パブコメQ.246~247に対する回答より)
- 保有の適否の検証
・「主要な」政策保有株式だけでなく、保有している全ての政策保有株式について、保有の適 否を取締役会が実質的に検証することが求められます。なお、個別銘柄毎に検証内容を開示 することまでは求められていません。(パブコメQ.221~233に対する回答より)
・取締役会における検証に際し、コードの趣旨を踏まえ、例えば、1保有の適否を検証する上で、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかを含め、どのような点に着眼し、どのような基準を設定したか、2設定した基準を踏まえ、どのような内容の議論を経て個別銘柄の保有の適否を検証したか、3議論の結果、保有の適否について、どのような結論が得られたか等、具体的な開示が行われることが期待されるとされています。(パブコメQ.221~233に対する回答より)
アセットオーナー(原則2-6)
新設された原則2-6の開示事例です。適切な人材配置等人事面での取り組み状況について記載されています。
- 企業年金基金に対して、会社からは企業年金の運用に適切な資質をもった人材を代議員として選出しています。
- 企業年金の運用に関して、受益者の利益の最大化および利益相反取引の適切な管理を目的に、資産運用委員会での意見を踏まえて、代議員会で決定しています。
- そのほか、運用コンサルタントと連繋し、適切な運用を図るとともに、企業年金の運用に携わる人材の専門性を高めています。
【パブコメを踏まえた本原則のポイント】
- 本原則の新設の背景
- 人事面や運用面の取組み
- 本原則の対象範囲
・企業年金のスチュワードシップ活動等の運用体制が十分に整っておらず、アセットオーナーとしての機能、取組みが十分に進んでいないとの指摘を踏まえ、企業年金の運営を支える母体企業が自ら主体的に人事面や運営面における取組みを行うことが求められるとされました。(パブコメQ.273~281に対する回答より)
・人事面や運営面における取組みについては、各社の置かれた状況に応じて、適切な資質を持った人材の企業年金の事務局や資産運用委員会への配置等、適切に取組みを行うとともに、取組みの内容を分かりやすく開示することが重要とされています。(パブコメQ.288~289に対する回答より)
・本原則でいう「企業年金」は、基本的には、基金型・規約型の確定給付年金及び厚生年金基 金を想定しているものの、確定拠出年金についても適切な取組みがなされることが期待されています。(パブコメQ.285~287に対する回答より)
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