削除請求を受けたプロバイダはどう対応すべき?裁判例を踏まえた可否判断のポイント

IT・情報セキュリティ
山根 祐輔弁護士 片岡総合法律事務所

目次

  1. 自社サービス上の違法情報の流通に関するプロバイダの責任
  2. 人格権等に基づく差止請求としての削除請求への対応
    1. サービスの性質による判断基準の違い
    2. 被侵害利益ごとの判断基準の違い
  3. 送信防止措置の申出に対する対応
  4. 法令違反情報への対応
  5. 削除等の対応に関する透明性の確保

 昨今、誹謗中傷や著作権侵害など、インターネット上の違法情報の流通による被害が増加、深刻化し、社会的な注目を集める機会が多くなっている中、インターネット上の違法情報の流通に関してプロバイダに求められる対応にも変化が生じてきました。


 違法情報は、インターネット上での流通により他人の権利を侵害する情報(権利侵害情報)と、インターネット上に流通させることが法令に違反する情報(法令違反情報)とに大別できます。

 権利侵害情報の削除請求が認められるか否かについては、個別具体的な情報の内容を踏まえた判断が必要になるとともに、判断基準が法律上必ずしも明確ではないため、プロバイダとしては、サービスの性質や被侵害利益の種類に応じ、裁判例の蓄積を踏まえて検討することが必要になります。他方で、権利侵害情報による被害を最小化するには、情報が速やかに削除されることが効果的であることから、被害者の立場からすれば、プロバイダによるスピーディーな対応への期待は大きいといえます。このような権利侵害情報の削除に関して、プロバイダ責任制限法 1 は、プロバイダが発信者または被害者に負う損害賠償責任を一定の範囲で制限し、プロバイダによる適切な削除等の対応を促進しています。
 また、法令違反情報については、被害者が観念されず被害者からの削除請求を受けることはないものの、自社サービス上に法令違反情報が大量に流通する事態になれば、自社サービスの信頼性を損ねるおそれがあることから、適切な削除等の対応が重要になります。

 本稿では、プロバイダ責任制限法や、インターネット上の投稿の削除に関する裁判例の動向および最新の議論を踏まえ、インターネット上の違法情報の削除に関して、プロバイダの対応のポイントを解説します。

自社サービス上の違法情報の流通に関するプロバイダの責任

 SNS事業者等のコンテンツプロバイダにおいては、自社サービス上に権利侵害情報が流通しており、人格権や著作権等に基づく差止請求権が認められる場合には、情報の削除請求を受けることがあり、当該情報の削除の義務を負うことになります。また、プロバイダ責任制限法上の送信防止措置の申出を受けることもあります。

 インターネット上の情報の流通により人格権を侵害された者は、人格権に基づく差止請求として、プロバイダに対して削除請求を行うことが可能であると解されています。また、著作権などの知的財産権を侵害する場合などについて、差止請求に関する明文の規定が定められており(著作権法112条等)、プロバイダは、当該規定に基づく請求を受ける場合もあります。

 プロバイダは、自社サービス上に流通する権利侵害情報について、それを知りながら放置した場合などには、被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。他方で、実際には権利侵害がないのに削除してしまった場合には、発信者に対する債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

 このように、プロバイダはインターネット上の権利侵害情報の流通に関して板挟みの状態に置かれかねないことから、プロバイダ責任制限法は、インターネット上の権利侵害情報の削除に関して、以下のとおり一定の範囲で責任制限を定めています(法3条)。

インターネット上の権利侵害情報の削除に関するプロバイダの責任制限

対被害者責任 対発信者責任
以下の要件を満たす場合でないと、損害賠償責任を負わない(法3条1項)。
  • 技術的に措置を実施可能
  • 情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていた、または当該情報の流通を知っていた場合であって、当該情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある
以下のいずれかの要件を満たす場合、損害賠償責任を負わない(法3条2項)。
  • 当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があった
  • 所定の要件を満たす申出があった場合に、発信者に対して削除に同意するか否かの照会をして7日を経過しても同意しない旨の回答がない

人格権等に基づく差止請求としての削除請求への対応

 冒頭で述べたとおり、削除請求への対応にあたっては、サービスの性質や被侵害利益の種類に応じ、裁判例の蓄積を踏まえて検討することが必要になります。

サービスの性質による判断基準の違い

 サービスの性質による判断基準の違いについて、近時の判例において重要な判断が示されています。

(1)検索事業者

 最高裁平成29年1月31日決定(民集71巻1号63頁)では、検索事業者が、プライバシーに関する情報を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為に関して、検索結果の提供は、検索事業者自身による表現行為という側面を有すること、インターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていることを踏まえ、当該事実を公表されない法的利益が「優越することが明らかな場合」には検索結果からの削除を求めることができるという厳格な基準が示されました。

(2)SNS等のサービスを提供するプロバイダ

 東京高裁令和2年6月29日判決(判タ1477号44頁)(Twitterに対する請求)、札幌地裁令和3年1月13日決定(D1-Law28290468)(YouTubeに対する請求)等では、SNS等におけるUGC 2の削除請求に関しても、検索事業者に関する上記の最決平成29年1月31日の判断基準を適用していました。

 しかし、最高裁令和4年6月24日判決(民集76巻5号1170頁)は、プライバシーに属する事実を含むSNS上の投稿の削除請求の事案において、当該事実を公表されない法的利益が当該投稿を一般の閲覧に供し続ける理由に「優越する場合」には、投稿の削除を求めることができると判断しました。

 当該判例を踏まえると、基本的には、SNS等における各種UGCの削除請求に関しては、検索事業者の検索結果の提供行為の場合のような厳格な基準は用いられない可能性が高いように思われます 3。そこで、SNS等のサービスを提供するコンテンツプロバイダは、当該判決を踏まえて削除の可否の判断を行うことが考えられます。

被侵害利益ごとの判断基準の違い

 どのような場合に違法な侵害となるかの判断基準は、名誉権、プライバシー、名誉感情など、インターネット上の情報流通により侵害される権利利益の種類ごとに異なるため、裁判例を踏まえて検討することが必要になります 4

被侵害利益ごとの違法性の判断基準

被侵害利益 違法性の判断 ポイント
名誉権
  • 人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な社会的評価を低下させる行為かどうか
  • 違法性阻却事由が成立するどうか
①公共の利害に関する事実に係り、②専ら公益を図る目的に出た場合において、③摘示された事実が真実であると証明された場合には違法性が阻却される
名誉感情 社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められるかどうか(最高裁平成22年4月13日判決・民集64巻3号758頁参照) 文言それ自体の侮辱性、根拠が示されていない単なる意見ないし感想か否か、対象者を侮辱する文言の数、投稿数、投稿の経緯、表現の具体性・意味内容の明確性などを考慮 5
プライバシー 当該事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越するかどうか(最高裁平成15年3月14日判決・民集57巻3号229頁参照) 公共の利害に関する事実か否かが重要な考慮要素となり、公共性がない場合には原則として違法と考えられる 6
肖像権 社会生活上受忍の限度を超えるかどうか(最高裁平成17年11月10日判決・民集59巻9号2428頁参照)
  • 被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等、事案に応じて適切な事情を総合考慮
  • 撮影が違法と評価される場合には、当該写真等を公表する行為は、非撮影者の人格的利益を侵害するものとして違法性を有する

 上記の表は、インターネット上の投稿において問題になることが多い被侵害利益について、判例等を踏まえて違法性の判断のポイントを記載したものですが、必ずしも普遍的な判断基準となるものではなく、違法な権利侵害として削除すべきか否かの判断にあたっては、最新の裁判例や各種のガイドライン等も参照することが考えられます。もっとも、裁判例や各種のガイドライン等を参照しても、事実関係が十分にわからないことや法的な評価が難しいことに起因して、なお判断に迷うケースも多々あると考えられます。そのような場合には、以下のような対応を行うことが考えられます。

  1. 請求者に対して主張や証拠の補充を求める
  2. 発信者に対して意見照会をする
  3. 利用規約等に基づく措置を実施する

 ②について、意見照会により発信者の主張を聞くことで権利侵害の有無の判断に資する可能性があるだけでなく、プロバイダ責任制限法3条2項2号の要件を満たすような場合には、対発信者責任が免責され、発信者に対する損害賠償責任を気にすることなく措置を実施することが可能になります

 また、③について、権利侵害性の有無については判断に迷う場合であっても、利用規約上の禁止事項に該当すると判断できる場合には、利用規約を根拠として削除等の措置を実施することが可能になります。プロバイダとしては、柔軟な対応が可能になるよう利用規約の内容を検討することが重要になります

送信防止措置の申出に対する対応

 プロバイダ責任制限法上、侵害情報、侵害されたとする権利および権利が侵害されたとする理由を示してプロバイダに対して侵害情報の送信防止措置を講ずるよう申出があった場合に、発信者に対して送信防止措置に同意するか否かの照会をして7日を経過する前に不同意の申出がなければ、プロバイダは、送信防止措置により発信者に生じた損害について免責されることとなっています(同法3条2項2号)。プロバイダは、このような送信防止措置の申出に対して対応する必要があります。
 この場合、申出を受けたプロバイダは、申出が被害者によりなされたものかどうか、侵害情報、侵害されたとする権利および権利が侵害されたとする理由の記載があるかどうかなど、法が定める申出の要件に該当するか否かを確認した上で、発信者への意見照会を行うことになります。

法令違反情報への対応

 前述のとおり、違法情報には、他人の権利を侵害する情報のほか、他人の権利を侵害するものではないものの、インターネット上で流通させることが法令に違反する情報(法令違反情報)があります 7
 法令違反情報については、被害者がいないことから、被害者からの削除請求を受けることはなく、また、法令違反情報を放置した場合に直ちに損害賠償責任を負うこともないと考えられます。刑事上の責任についても、単に違法な情報を認識しつつ放置したことを理由に直ちに責任を負うものではないとされており(最高裁平成13年7月16日決定・刑集55巻5号317頁)、法令違反情報の流通に関して法的責任を負うリスクは限定的であると考えられます。

 もっとも、自社サービスの信頼性の確保やレピュテーション管理の観点からは、自社サービス上の法令違反情報について適切に削除等の対応を行うことができるよう、利用規約等において法令違反情報を流通させることを禁止し、削除等の措置の規定を定めることで、柔軟な対応を可能にしておくことが望ましいと考えられます。

削除等の対応に関する透明性の確保

 近時、プロバイダによる削除、表示順位の低下、アカウントの凍結など、違法・有害情報の流通を抑止するために講じる措置(コンテンツモデレ―ション)について、透明性を確保することの重要性が認識されてきています 8
 総務省の誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループにおいては、このような削除等の措置に関して、透明性等を確保するための具体的な措置を検討することが適当とされています 9。今後の検討の結果次第では、①削除指針の策定・公表や措置申請窓口の明示等の削除基準等の透明化、➁運用状況の公表、③運用結果の評価等を法的な義務として実施する必要が生じる可能性があり、今後の動向について注視が必要です。


  1. 正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(平成13年法律第137号)。以下単に「法」ともいいます。 ↩︎

  2. 一般ユーザーによって制作・生成されたコンテンツ。SNSに投稿された写真や動画、ECサイトのレビューなど。 ↩︎

  3. 曽我部真裕「ツイート削除請求事件 - 最二判令和 4・6・24裁判所ウェブサイト」NBL1230号13頁 ↩︎

  4. 公益社団法人 商事法務研究会「インターネット上の誹謗中傷をめぐる法的問題に関する有識者検討会 取りまとめ」(令和4年5月)において、被侵害利益ごとの権利侵害の有無の判断基準について裁判例を踏まえた詳細な検討が示されている。 ↩︎

  5. 公益社団法人商事法務研究会「インターネット上の誹謗中傷をめぐる法的問題に関する有識者検討会 取りまとめ」(令和4年5月)21頁以下 ↩︎

  6. 公益社団法人商事法務研究会「インターネット上の誹謗中傷をめぐる法的問題に関する有識者検討会 取りまとめ」(令和4年5月)27頁 ↩︎

  7. たとえば、薬物関連法規違反の広告(医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律68条等)、出会い系サイト規制法違反の異性交際等の誘引行為(同法6条)等。 ↩︎

  8. 総務省「プラットフォームサービスに関する研究会 第二次とりまとめ」(令和4年8月)など ↩︎

  9. 誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ「今後の検討の方向性(案)」(令和5年6月)4頁 ↩︎

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