AIビジネスに関する契約書作成のポイント
IT・情報セキュリティ最近はAIの利活用によって定型的な業務を代替できるといわれており、当社でもAIをサービスに利用しようと考えていますが、他方で、多額の投資を行っても他社にコピーされ、無断で同種のサービスの提供がなされるのではないかと懸念しています。AIビジネスに関連する契約書作成時にはどのようなことに留意すべきでしょうか。
AIビジネスにおける契約書に関し、AIによる機械学習に用いる学習用データセットを取得する際の契約書においてはそのデータの正確性・信用性の担保、AIによるサービスの提供時の契約書においてはAIの学習済みモデルの保護措置が重要になります。
解説
AIの主な特徴
AIは、大量の学習用データセットをAIのアルゴリズム(プログラム)に機械学習させて「学習済みモデル(パラメータの設定値)」を作成し、その「学習済みモデル」に基づいて一定の入力データに対して生成物を出力します。たとえば、大量の猫を含む動物の画像データを機械学習させて画像内の猫の特徴部分について学習済みモデルを作成し、その学習済みモデルに基づき、動物の画像データに対して、猫の画像か否かの判定評価を出力させるといったイメージです。
AIに機械学習をさせることで、大量の定型的な処理を自動化することができますが、AIが通常のプログラムと異なるのは、データを分析して判断基準となるパラメータの選定および重み付けを自律的に変更して判断の精度を上げることができる点にあります。他方で、AIによってパラメータ値が変更され続けるため、人がソースコード等を解析してその判断プロセスを検証することが困難となるという意味で、判断基準がブラックボックスになるともいわれます。
学習用データセットの正確性・信頼性の担保
学習済みモデルを作成してAIによる一定の処理サービスを顧客に提供するビジネスにおいては、上記のように人が学習済みモデル自体の正確性・信頼性を検証できないため、その機械学習の前提となる学習用データセットがどのように作成されたのか、すなわち、機械学習の対象となる学習用データセットの正確性・信頼性を事後的に検証できることが、サービスの普及や同種サービスとの差別化の観点からは重要となります。
したがって、AIの学習用データセットを外部から調達する場合には、提供元に対してデータの生成過程の確認を実施し、サンプルテスト等の検証を実施することが必要です。
また、契約書においても、提供元に対し、提供データが第三者の知的財産権やプライバシー等の人格権を侵害していないことだけではなく、データの作成過程に関して表明保証等を求めることが考えられます。
たとえば、「提供元は、対象データが公募した被験者による製品Aの利用履歴データを1か月間継続的に記録したものであり、かつ利用履歴データ自体に加工又は変更を行っていないこと、及び被験者から提供された属性情報が正確であることを身分証明書等との照合により確認していることを表明し保証する。」といった条項を設けることが考えられます。
学習済みモデル自体は改正不正競争防止法でも保護されない
AIビジネスを保護するために、平成30年に法案を提出する前提で不正競争防止法の改正が検討されていますが、AIの学習済みモデル自体は法的保護の対象とされず、その前提となる学習用データセットが保護の対象とされることが予定されています(参照:産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止小委員会「データ利活用促進に向けた検討 中間報告(案)」。
したがって、AIによる一定の処理サービスを顧客に提供するビジネスにおいて、汎用のAIで利用できる学習済みモデル自体をソフトウェアやアプリケーションのように顧客に提供することは、不正利用や無断複製を避けるために行うべきではなく1、あくまで提供者側のサーバー内で処理した生成物(評価結果)のみを顧客に提供するというASPサービス(ネットワークを通じて遠隔からソフトウェアを利用させるサービス)等を用いたクローズドなサービスとして提供するのが、自社のビジネスを守る観点からは合理的であるといえます。
また、そのような形態をとることで、顧客の分析対象データを提供者側のサーバーに提供させることになるため、そのデータ自体をさらにAIの機械学習に用いることができ、よりAIの判断精度を高めることができます。
そのためには、そのようなデータの利用について顧客からの承諾を利用規約等によって得ておくことが重要です。AIサービスの提供事業者の利用規約において、「分析対象情報については、本サービスの改善や新サービスの開発のために利用・第三者提供できる」旨の条項が含まれているのはそのような趣旨に基づくものです。
なお、AIによる機械学習以外の利活用も想定されるデータであれば、そのような利用目的についても事前に顧客から承諾を得ておく必要があります。
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プログラムやデータベース著作物にも当たらない「学習済みモデル」の不正利用や無断複製は著作権侵害にも該当しないため、適法にデッドコピーが可能となると思われる。 ↩︎

弁護士法人第一法律事務所 大阪事務所
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