解雇予告が不要とされる「その他やむを得ない事由」とはどのような場合か

人事労務

 製造業を営んでいますが、このたび地震によって本社併設の工場の大部分が倒壊し、機械なども破損しました。地震保険にも加入していなかったので、自主的な再建ができなくなり、従業員を解雇せざるを得ない状況となりました。このような場合、従業員への解雇予告や予告手当の支払いは必要でしょうか。  

 ご質問の事例は、労働基準法20条に定める「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」に該当する可能性があり、所轄労働基準監督署長の認定を受けることができた場合、解雇予告、または解雇予告手当の支払いをしないで解雇することが認められます。

解説

目次

  1. 解雇をする場合には予告が必要
  2. 解雇予告が不要となる例外
    1. 解雇予告が不要のケース
    2. 天災事変その他やむを得ない事由とは
  3. 事業の継続が不可能となった場合とは
  4. 解雇自体の有効性が大前提
  5. まとめ

解雇をする場合には予告が必要

 解雇とは使用者の一方的な意思表示による労働契約の解除のことをいいます。やむを得ず労働者を解雇しようとする場合においては、 少なくとも30日前にその予告をする か、もしくは 30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません (労働基準法20条1項)。

 これは突然の解雇により労働者の生活が困窮することを防ぐため、時間的な余裕を与えるかもしくは金銭により生活保障をすることを目的として設けられた制度です。

労働基準法
第20条(解雇の予告)


 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りでない。

解雇予告が不要となる例外

解雇予告が不要のケース

 使用者が労働者を解雇する際に必要となる解雇予告ですが、次の場合には、使用者は解雇予告をせずに労働者を解雇することが認められています(労働基準法20条1項ただし書き)。
 ただし、どちらの場合においても所轄労働基準監督署長の認定を受けなければなりません。

  1. 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
  2. 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合

 ご質問の事例の場合、解雇予告が不要とされる要件の「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」に該当すると認められれば、原則として、使用者は解雇予告をせずに労働者を解雇することが可能となります。

天災事変その他やむを得ない事由とは

 では、「天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合」とは、どのような場合をいうのでしょうか。ここでは、特に「その他やむを得ない事由」について解説します。

 「やむを得ない事由」とは、労働省通達をかみくだいていうと、 「天災事変や、それと同程度に不可抗力かつ突発的な事由であり、事業の経営者として必要な措置を講じても改善できない状況にある場合」 をいいます(昭和63年3月14日基発150号)。

 「やむを得ない事由」に該当する場合と該当しない場合は同通達に具体例があげられています。

やむを得ない事由に該当する場合
  1. 事業場が火災により焼失した場合。ただし、事業主の故意または重大な過失に基づく場合を除く
  2. 震災に伴う工場、事業場の倒壊、類焼等により事業の継続が不可能となった場合

やむを得ない事由に該当しない場合
  1. 事業主が経済法令違反のため強制収容され、または購入した諸機械、資材等を没収された場合
  2. 税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合
  3. 事業経営上の見通しの齟齬の如き事業主の危険負担に属すべき事由に起因して資材入手難、金融難に陥った場合。個人企業で別途に個人財産を有するか否かは本条の認定には直接関係がない
  4. 従来の取引事業場が休業状態となり、発注品がなく、ために事業が金融難に陥った場合

事業の継続が不可能となった場合とは

 事業主の不可抗力に基づく突発的な事態が起こり、それが「やむを得ない事由」に該当する場合、次に必要な要件は、 そのことにより「事業の継続が不可能となっているかどうか」 です。
 「事業の継続が不可能となった場合」とは、 事業の全部または大部分の継続が不可能になった場合 をいいます。

 何人かの労働者を解雇すれば、従来の操業が可能であったり、別の事業に転換できたりする場合や、または一時的に操業中止をせざるを得ないが近く再開復旧の見込みが明らかであるような場合は「事業の継続が不可能」とは認められません。

解雇自体の有効性が大前提

 解雇予告の有無の要件を問う前に、前提として事業主が行う解雇自体の有効性が認められていなければなりません。
 上記に説明したような天災事変等が起これば無条件に解雇が認められるものではなく、あくまで労働契約法の規定や裁判例に従って適切な対応をとり、解雇が有効なものとして認められることが必要であることに留意してください。

まとめ

  • 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、解雇予告せずに解雇することが可能となります。
  • 解雇予告が不要な場合に該当する事態が起こった場合、所轄労働基準監督署長に解雇予告が不要であるという認定を受けることが必要となります。

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