パートタイマーから正社員に転換した社員にも有給休暇を与えなければならないのか
人事労務パートタイマーとして週3日、1日5時間勤務をしていた従業員を、入社から3年が経過した時点で正社員へと転換しました。しかし、正社員になってから3か月を経過したところで、残っている有給休暇をすべて取得して退職したいという申し出がありました。このような場合でも、有給休暇を与えなければいけないのでしょうか?
パートタイマーとして雇用していた期間も含め、雇入れの日から6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤しているのであれば、有給休暇は発生します。発生から2年経過していない有給休暇については、パートタイマーとして雇用していた時点のものも含め、会社は労働者の請求に応じて与えなければなりません。
解説
年次有給休暇の発生要件
2つの要件 継続勤務と出勤率
年次有給休暇は正社員のみに与えられるものと思われがちですが、実際には正社員・パートタイマーを問わず、次の2つの要件を満たすことで権利が発生します(労働基準法39条1項)。
- 雇入れの日から起算して6か月間継続勤務していること
- 全労働日の8割以上出勤していること
継続勤務の考え方
まず、1つめの要件である6か月間の継続勤務の要件を満たしているかどうかを確認します。 継続勤務とは、労働契約の存続期間、すなわち在籍期間のことをいいます。継続勤務かどうかについては勤務の実態を見て判断します。
たとえば、定年退職者を嘱託などとして引き続き再雇用する場合や、質問の事例のようにパートタイマーを正社員として転換する場合など、勤務形態が変わるために新たな雇用契約を結びなおした場合でも、再雇用契約前後で実質的に労働関係が継続している限りは、継続勤務として勤務年数は通算されます(昭和63年3月14日基発150号)。
出勤率の算出方法
次に、2つめの要件である出勤率を算出します。算出方法は以下のとおりです。
出勤率=出勤日/全労働日
全労働日の日数は、一般には算定期間の総暦日数から就業規則その他によって定められた所定休日を除いた日のことをいいますが、次のような場合は全労働日には含まれません(昭和63年3月14日基発150号、平成21年5月29日基発0529001号)。
- 所定休日に労働させた場合
- 不可抗力による休業日
- 使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日
- 正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日
- 労働者が代替休暇を取得して終日出勤しなかった日
また、次の事由により休業した期間は、出勤したものとみなして計算します(労働基準法39条8項)。
- 業務上負傷しまたは疾病にかかり療養のため休業した期間
- 育児・介護休業法による育児休業または介護休業をした期間
- 労働基準法65条の産前産後休業をした期間
- 年次有給休暇を取得した日(昭和22年9月13日発基17号)
- 労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日
※ 全労働日に含めない日の2.〜4.を除く(平成25年7月10日基発0710第3号)
以上の計算から、出勤率が80%以上であれば、年次有給休暇が発生します。なお、出勤率は各算定期間(雇入れ後6か月間およびその後1年ごとに区分した期間)ごとに算出し、その都度年次有給休暇の発生の有無を確認します。
年次有給休暇の付与日数と時効
年次有給休暇発生の要件を満たす労働者に与えなければならない年次有給休暇の日数
は継続勤務年数により次の表1のとおりとなります(労働基準法39条1項、2項)。
【表1 継続勤務年数に応じた年次有給休暇の日数】
継続勤務年数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
年次有給休暇日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
ただし、パートタイム労働者のように、1週間の所定労働日数が通常の労働者に比べて少ない労働者については、以下のいずれかの要件に該当する場合、表2のとおりとなります(労働基準法39条3項、労働基準法施行規則24条の3)。
- 週間の所定労働日数が4日以下の労働者
- 週以外の期間によって所定労働日数が定められている労働者については、1年間の所定労働日数が216日以下の労働者
※ 1週間の所定労働時間が30時間以上の者は除く
【表2 パートタイム労働者等の継続勤務年数に応じた年次有給休暇の日数】
所定労働日数 | 継続勤務年数 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
週 | 1年間 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 |
4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | 12日 | 13日 |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
質問の事例の場合、パートタイマーとして週3日勤務をしていた期間、その継続勤務年数に応じて表2に記載されている日数の年次有給休暇が発生することになります。
退職時の年次有給休暇の消化
最近では、有給休暇をすべて取得してから退職を希望する労働者も少なくありません。使用者は事業の正常な運営を妨げる場合においては、労働者から請求された年次有給休暇の取得時季を変更することができますが(労働基準法39条5項)、退職日を超えて時季変更権を行使することはできないため、法律上は年次有給休暇を取得してからの退職を認めざるをえないことになります。
まとめ
- パートタイマーから正社員へ転換した場合も、前後の雇用期間は年次有給休暇の要件である継続勤務期間として通算されます。
- 要件をみたせばパートタイマーにも年次有給休暇は発生しますが、付与される休暇日数は所定労働日数に比例したものとなります。
- 使用者には年次有給休暇の時季変更権が認められていますが、労働者が退職する場合、退職日を超えて時季変更を行うことはできません。
