残業時間の端数処理はどのように行えば良いか

人事労務

当社では、残業時間の処理について、毎日の集計は10分単位となるように端数を切り捨て、毎月の集計では30分単位となるように端数を切り捨てたうえで残業代の計算を行っています。給与計算の方法は問題ないでしょうか?

労働基準法上、日々の残業時間の端数処理は認められておらず、また、1か月間の残業時間の合計についても常に30分単位で切り捨てとなる計算方法は認められていません。切り捨てた残業時間については、法律上賃金未払いの問題が生じます。

解説

目次

  1. 賃金の支払の原則と例外
    1. 賃金の支払の原則
    2. 割増賃金計算における端数処理の例外
  2. 実際に端数処理を行う場合の注意点
    1. 具体的な端数処理の方法
    2. 端数処理を行う際の留意点
  3. 時間外労働割増賃金の未払いによるリスク
  4. まとめ

賃金の支払の原則と例外

賃金の支払の原則

 賃金とは、労働の対価として使用者が労働者に支払うすべてのものをいいます。時間外労働を行った場合に支払われる割増賃金も、もちろん賃金の一部であり、その支払いについては労働基準法24条の定めに従って、その全額を労働者に支払わなければなりません。

労働基準法
第24条 (賃金の支払)
  1. 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
  2. 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

 この、「賃金全額払の原則」に沿って考えると、日々の時間外労働について、その労働の対価が100%労働者に支払われるためには、 時間外労働時間の端数処理を行うことは違法となり、1分単位での時間計算が必要 となります。

割増賃金計算における端数処理の例外

 もっとも、割増賃金計算における端数処理の例外として、以下の取扱いをすることは、事務を簡便にする目的から認められています(昭和63年3月14日基発第150号)。

1か月の労働時間に端数が生じた時の扱い

 時間外労働、休日労働および深夜業の各時間数の合計から30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げること。

1時間あたりの賃金額および割増賃金額に円未満の端数が生じた場合

 50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。

1か月における割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合

 50銭未満の端数を切捨て、それ以上を1円に切上げること。

 つまり、 1か月間の時間外労働の合計時間が30分未満であればそれを0分とし、30分以上であればそれを1時間として計算する処理が可能 となります。

実際に端数処理を行う場合の注意点

具体的な端数処理の方法

 ここで、具体的な例を用いて上記の端数処理を説明します。

 1か月の時間外労働の合計時間が10時間15分で、深夜労働(午後10時から午前5時までの業務)の合計時間が25分の場合、端数処理を行うことで時間外労働は10時間、深夜労働は0分となり、10時間分の時間外割増賃金を支払えば足りることになります。

 これは一見すると、質問の事例で用いられている30分未満を切り捨てる端数処理と同じ結果となりますが、たとえば時間外労働の合計時間が10時間40分で、深夜労働の合計時間が30分の場合ですと、端数は切り上げられ、時間外労働は11時間、深夜労働は1時間として計算することになります。

端数処理の考え方 実際の時間の例 処理の例
1日単位 認めない - -
1か月単位 30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げ 時間外10時間15分
深夜労働25分
時間外10時間
深夜労働0分
時間外10時間40分
深夜労働30分
時間外11時間
深夜労働1時間

端数処理を行う際の留意点

 このように、通達で認められている端数処理の場合、30分未満の端数が常に切捨てられるご質問の事例とは異なり、労働者にとって有利となる切り上げの処理が行われることになります。
 また、この端数処理が認められているのは、あくまでも時間外労働、休日労働および深夜労働に限られていることにも注意が必要です。 パートタイム労働者や短時間正社員のように法定労働時間内に時間外労働が生じた場合、1か月の時間外労働の合計時間を端数処理することはできません。

時間外労働割増賃金の未払いによるリスク

 最後に、誤った端数処理を行い時間外労働の割増賃金の未払いが生じた場合のリスクについて説明します。
 労働基準法24条違反については 30万円以下の罰金 (労働基準法120条1項)が定められています。さらに、労働者は、過去2年にさかのぼり、未払い賃金の支払いを請求することができます(労働基準法115条)。

まとめ

  • 1日単位の労働時間の端数処理は認められていない
  • 1か月の時間外労働の合計時間の30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上 げる処理は労働基準法違反とならない
  • 端数処理が認められているのは、時間外労働、休日労働および深夜労働業の合計時間数のみ
  • 割増賃金を支払わなかった場合、罰金に加え、未払賃金を支払うリスクあり

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