株式移転計画の記載事項
コーポレート・M&A当社は同業種のA社との間で、経営の効率化を図るために統合を検討しています。社風や賃金体系等も異なり、現時点で合併して1つの会社となることにも抵抗があることから、共同株式移転の方法を採用しようと考えています。株式移転計画には、具体的にどのような内容を記載しなければならないのでしょうか。
株式移転計画には会社法上記載が必要とされている事項(必要的記載事項)を記載しなければならない他、任意で記載できる事項(任意的記載事項)もあります。 必要的記載事項は、以下のとおりです。
- 株式移転により設立する会社(完全親会社)の目的、商号、本店の所在地および発行可能株式総数
- 完全親会社の定款で定める事項
- 完全親会社の設立時取締役等役員の氏名
- 株式移転に際して完全子会社の株主に対して交付する完全親会社の株式の数または算定方法および割当てに関する事項
- 完全親会社の資本金および準備金の額に関する事項
- 完全子会社の株主に対して交付する社債等の種類、金額、内容または算定方法および割当てに関する事項
- 完全子会社の新株予約権者に対して交付する新株予約権の内容または算定方法および割当てに関する事項
解説
株式移転計画とは
株式移転とは、一または二以上の株式会社が、その発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させる会社法上の組織再編行為をいいます(会社法2条32号)。すなわち、完全親子会社関係を実現するための組織再編行為です。
株式移転をするためには株式移転計画を作成する必要があります(会社法772条1項)。また、二以上の会社が共同して株式移転をする場合には(共同株式移転)、共同して株式移転計画を作成する必要があります(会社法772条2項)。
なお、株式移転の具体的手法および株式移転が用いられる場面については、「株式移転とはどのような手法か、またどのような場面で用いられるか」を参照ください。
必要的記載事項
株式移転計画の必要的記載事項は以下の通りです。
株式移転計画の必要的記載事項 | 根拠 |
---|---|
① 完全親会社の目的、商号、本店の所在地および発行可能株式総数 | 会社法773条1項1号 |
② 完全親会社の定款で定める事項 | 会社法773条1項2号 |
③ 完全親会社の設立時取締役、会計参与、監査役、会計監査人の氏名 | 会社法773条1項3号、4号 |
④ 株式移転に際して完全子会社の株主に対して交付する完全親会社の株式の数または算定方法および割当てに関する事項 | 会社法773条1項5号、6号 |
⑤ 完全親会社の資本金および準備金の額に関する事項 | 会社法773条1項5号 |
⑥ 完全子会社の株主に対して交付する社債等の種類、金額、内容または算定方法および割当てに関する事項 | 会社法773条1項7号、8号 |
⑦ 完全子会社の新株予約権者に対して交付する新株予約権等の内容または算定方法および割当てに関する事項 | 会社法773条1項9号、10号 |
(1)完全親会社の定款で定める事項
②「完全親会社の定款で定める事項」について、株式移転においては、新たに完全親会社となる会社が設立されることになるので、取締役会、監査役会等の設置の有無といった機関設計など、通常の会社設立と同様の定款記載事項の記載が必要となります。なお、実務上は、株式移転計画の「別紙」として完全親会社となる会社の定款を添付する例が多いです。
(2)株式移転に際して完全子会社の株主に対して交付する完全親会社の株式の数または算定方法および割当てに関する事項
④「株式移転に際して完全子会社の株主に対して交付する完全親会社の株式の数または算定方法および割当てに関する事項」について、設例のような共同株式移転の場合、完全子会社となるそれぞれの会社の株主に対して完全親会社の株式が割り当てられます。A社とB社を完全子会社、X社を完全親会社とする共同株式移転の場合、A社およびB社の株式1株に対してX社の株式がそれぞれ何株割り当てられるかは、A社およびB社の株式価値(企業価値)を基準としてA社およびB社の合意により決定されます。株式移転計画における記載としては、たとえば、以下のような記載となります。
1. X社は、A社およびB社の発行済株式の全部を取得する時点の直前時(以下「基準時」という。)の最終のA社およびB社の株主名簿に記載または記録された株主に対し、それぞれの有するA社およびB社の普通株式に代わり、(i)A社が基準時に発行している株式数の合計に10を乗じた数、および(ii)B社が基準時に発行している株式数の合計に1を乗じた数を合計した数と同数のX社の普通株式を交付する。
2. X社は、前項の定めによる交付される株式を、基準時におけるA社およびB社の株主に対して、以下の割合をもって割り当てる。
(1)A社の株主に対しては、その有するA社の普通株式1株につき、X社の普通株式10株(2)B社の株主に対しては、その有するB社の普通株式1株につき、X社の普通株式1株
(3)完全子会社の株主に対して交付する社債等の種類、金額、内容または算定方法および割当てに関する事項
⑥「完全子会社の株主に対して交付する社債等の種類、金額、内容または算定方法および割当てに関する事項」について、株式移転においては、完全親会社の原始株主が必要であるため対価のすべてを株式以外の対価にすることはできませんが、共同株式移転の場合、完全子会社となる会社のうち一方の会社の株主に対してのみ株式を発行せず、社債等を割り当てることも可能と解されます。そのようなケースにおいては、完全子会社の株主に対して交付する社債等の種類、金額、内容または算定方法および割当てに関する事項を株式移転計画に記載する必要があります。
(4)完全子会社の新株予約権者に対して交付する新株予約権等の内容または算定方法および割当てに関する事項
⑦「完全子会社の新株予約権者に対して交付する新株予約権等の内容または算定方法および割当てに関する事項」について、完全子会社が新株予約権を発行している場合、株式移転に際して特段の手当をしないと、当該新株予約権が行使されることにより、株式移転により実現した完全親子会社関係が崩れることとなります。したがって、完全子会社の新株予約権に対して完全親会社の新株予約権を交付し割り当てることとし、その内容を株式移転計画に記載することが通例です。
任意的記載事項
主に共同株式移転の場合に株式移転計画の任意的記載事項として記載されることが多い事項としては、以下のようなものがあります。
- 会社の成立日に関する事項
- 株式移転計画の内容の変更および株式移転の中止に関する事項
- 剰余金の配当に関する事項
- 会社財産の管理に関する事項
- 完全親会社の株式の上場に関する事項
(1)会社の成立日に関する事項
①「会社の成立日に関する事項」について、株式移転は、完全親会社の設立登記の日(会社法49条)において効力が発生するため、効力発生日の定めは設けられません。もっとも、いつ株式移転を行うことを予定しているかを明らかにするために、会社の成立日(設立登記の日)の予定日を記載する例が多いです。
(2)株式移転計画の内容の変更および株式移転の中止に関する事項
②「株式移転計画の内容の変更および株式移転の中止に関する事項」について、天災地変や当事会社の経営状態の重大な変更等が生じた場合、株式移転計画の内容の変更および株式移転の中止を行うことができる旨の規定を設けることが多く見受けられます。もっとも、当事会社に一方的な変更権や解除権を認める例は少なく、双方で協議し合意のうえ、変更または中止できるものとする例が多いです。
(3)剰余金の配当に関する事項
③「剰余金の配当に関する事項」について、共同株式移転の場合、完全子会社となるそれぞれの会社の株主に対する株式の割当ては、各当事会社の株式価値(企業価値)を基準として決定されます。一方で、剰余金の配当は会社から財産が流出する行為であり、配当が実施された場合、各当事会社の株式価値(企業価値)に大きな変動が生じることとなります。そこで、株式移転計画作成以降の剰余金配当について原則禁止とすることが一般的ですが、配当額の限度額を規定する例もあります。
(4)会社財産の管理に関する事項
④「会社財産の管理に関する事項」について、会社は事業活動を行っている以上、財務状況が日々変動することはやむを得ませんが、各当事会社の財務状況等が大きく変動してしまうと、③「剰余金の配当に関する事項」と同様、各当事会社の株式価値(企業価値)に大きな変動が生じることとなります。そのため、善管注意義務をもって財産の管理等を行う旨規定する例が多いです。
(5)完全親会社の株式の上場に関する事項
⑤「完全親会社の株式の上場に関する事項」について、上場会社を完全子会社とする株式移転の場合、株式移転により完全親会社となる会社の株式を上場することが通例ですが、当該株式上場に関する規定を株式移転計画に記載する例が多く見受けられます。
(6)記載例
A社とB社を完全子会社、X社を完全親会社とする共同株式移転の場合における、①ないし⑤の記載例は以下の通りです。
X社の設立の登記をすべき日(以下「会社成立日」という。)は、●年●月1日とする。ただし、本株式移転の手続進行上の必要性その他の事由により必要な場合は、A社及びB社にて協議の上、合意により会社成立日を変更することができる。
第●条(株式移転計画の内容の変更および株式移転の中止)<②>
本株式移転計画の作成後、会社成立日までの間に、(i)天災地変その他の事由によりA社もしくはB社の財産状態もしくは経営状態に重大な変更が生じた場合、(ii)本株式移転の実行に重大な支障となる事態が生じた場合、または(iii)その他本株式移転計画の目的の達成が著しく困難となった場合には、A社及びB社は協議の上、合意により、本株式移転計画の内容を変更し、または本株式移転を中止することができる。
第●条(剰余金の配当に関する事項)<③>
A社及びB社は、本株式移転計画作成後、会社成立日までの間、会社成立日以前を基準日とする剰余金の配当決議を行ってはならない。
第●条(会社財産の管理に関する事項)<④>
A社及びB社は、本株式移転計画作成後、会社成立日までの間、それぞれ善良な管理者の注意をもって通常の業務の範囲内で自らの業務の遂行ならびに財産の管理および運営を行い、それぞれの事業または財産状態に重大な影響を及ぼし得る行為については、あらかじめA社およびB社間で協議の上、合意により行うものとする。
第●条(完全親会社の株式の上場に関する事項)<⑤>
1. X社は、会社成立日において、その発行する普通株式の東京証券取引所への上場を予定する。
2. X社の株主名簿管理人は、●銀行とする。

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