秘密意匠制度とは
知的財産権・エンタメ当社の新製品について意匠登録出願を検討しているのですが、その新製品の発売時期がいつになるか、現時点では未定です。当社の新製品発売までは、意匠の内容を他社に知られないようにしたいのですが、最近は意匠登録出願の審査も早くなり、新製品の発売前に意匠登録が完了し、意匠の内容が公開されてしまうのではないかと危惧しています。どのような対応が可能でしょうか。
秘密意匠制度を利用することにより、意匠登録の日から最長3年間、意匠登録の内容を秘密にすることができます。
解説
秘密意匠制度とは
意匠登録がなされると、意匠公報により意匠登録の内容が公開され、誰でもその内容を確認できるようになります。
この公開時期を、例外的に、意匠登録の日から最長3年間遅らせることができるのが、秘密意匠制度です。
秘密意匠の要件
秘密意匠の制度を利用するための要件は、次のとおりです(意匠法14条1項)。
- 次のいずれかの手続と同時に、秘密意匠の請求を行うこと。
- 意匠登録出願
- 第一年分の登録料の納付
- 次に掲げる事項を記載した書面を提出して秘密意匠の請求を行うこと。
- 意匠登録出願人の氏名または名称および住所または居所
- 秘密にすることを請求する期間(意匠登録の日から3年以内)
なお、以前は意匠出願と同時に秘密意匠の請求を行う必要がありましたが、平成19年4月1日に施行された平成18年改正意匠法により、第一年分の登録料の納付と同時に秘密意匠の請求を行うことも可能になりました。これは、審査の迅速化が実現したことに伴い、出願時の予想より早く意匠が公開される事態が増えたために、意匠出願時に秘密意匠の請求をしていなかった場合であっても、登録料の納付の時点で秘密意匠の請求ができるようにしたものです。
秘密にする期間の延長・短縮
意匠登録出願人(登録後は意匠権者)は、秘密にすることを請求した期間を延長しまたは短縮することを請求することができます(意匠法14条3項)。
たとえば、予定よりも早く新製品を発売できるようになった場合には、秘密にすることを請求した期間を短縮することが考えられます。
秘密意匠の開示
秘密意匠は、常に秘密とされるわけではなく、次の場合には、例外的に意匠権者以外の者に開示されます(意匠法14条4項)。ただし、これらの場合も、意匠公報により公開されるわけではありません。
- 意匠権者の承諾を得たとき。
- その意匠またはその意匠と同一もしくは類似の意匠に関する審査、審判、再審または訴訟の当事者または参加人から請求があったとき。
- 裁判所から請求があったとき。
- 利害関係人が意匠権者の氏名または名称および登録番号を記載した書面その他経済産業省令で定める書面を特許庁長官に提出して請求したとき。
秘密意匠制度と過失推定
通常は、他人の意匠権または専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があったものと推定されます(意匠法40条)。
この過失推定の規定により、権利者は、侵害者の過失を立証しなくても、損害賠償請求を行うことが可能になります(特許法や商標法にも同様の規定があります)。過失推定が認められるのは、公報によって、権利の存在が公開されており、侵害者が調査していれば権利の存在を知ることができたと言い得るためです(なお、侵害者は、過失がないことを反証することにより、損害賠償を免れることは可能です)。
これに対し、秘密意匠の場合は、意匠公報による公開がなされないため、侵害者が調査をしても権利の存在を知ることができません。
そのため、秘密意匠については、過失推定の規定は適用されません(意匠法40条ただし書)。

弁護士法人イノベンティア
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