著作権の登録制度とは
知的財産権・エンタメ ある映像クリエイターのA氏に依頼して、当社の広報ビデオに使用するために、当社の製品が宇宙ロケットの部品として稼働している様子を描いたCG映像を制作してもらいました。出来上がった映像を見たところ、非常によくできており、今後も当社の広報用の媒体で使用したいという要望が社内でも多かったので、A氏と映像についての著作権譲渡の契約を締結し、対価を支払いました。
ところが、その後生活に窮し債権者に対する支払いが滞ったA氏が、返済の代わりに自分の映像に関する著作権をすべてその債権者のB社に譲渡してしまったという情報が入りました。
現在この映像についての著作権は誰のものなのでしょうか。当社は今後もこの映像を使用することができるのでしょうか。
現在のところ著作権は貴社とB社の両方に帰属している状態ですので、当面は映像を使用することができます。しかし、B社と貴社のどちらかが先に著作権譲渡についての登録手続をすると、そちらが確定的な著作権者となります。ですから、B社が先に登録をしてしまうと、その後は貴社が映像を使用することはB社の著作権侵害ということになってしまいます。これを避けるためにも速やかに登録手続を済ませた方が良いでしょう。
解説
著作権の二重譲渡
著作権の譲渡をすると、譲渡した者はもはや著作権者ではなくなりますから、さらに他人に著作権を譲渡することはできないはずです。しかし、著作権のような目に見えない権利については、相手が確定的な権利者かどうかを確認する確実な方法はありません。権利者だと思った人から権利を譲り受けたつもりでいたら、実はその人は無権利だったという場合、全く保護されないのでは安心して権利を譲り受けることはできません。そこで、法律上は権利のようなものも、二重三重に譲渡することが可能とされています。不動産の所有権なども同様です。
参照:「外部のデザイナーが作成したデザインの著作権をすべて買い取るときの注意点」
このように著作権が二重三重に譲渡された場合、各々の譲渡先がそれぞれ著作権者ということになります。自分自身が著作物を利用しても著作権侵害にはなりませんし、無断で使用している人に対しては自分の著作権に基づいて差止めなどを請求することができます。
では、著作権を譲り受けた者同士の関係はどうなるでしょうか。この場合、著作権法では先に著作権譲渡についての登録手続をした者が優先することになっています。このような効果のある手続のことを対抗要件といいます。
また、著作権が二重三重に譲渡された場合、譲受人の誰かが登録手続きをすると、その者が確定的な著作権の譲受人となり、それ以外の譲受人は著作権を喪失することになります。つまり、著作権が二重三重に譲渡された場合に各々の譲渡先がそれぞれ著作権者となるのは、誰かが登録手続きをするまでの暫定的な状態というわけです。
著作権の登録制度
以上は著作権譲渡の対抗要件としての登録について紹介しましたが、著作権の登録には以下のものがあり、それぞれ以下のような効果があります。
目的 | 種類 | 登録対象 | 備考 |
---|---|---|---|
権利変動の公示 | 著作権の登録 (著作権法77条) |
著作権の移転or処分の制限 著作権を目的とする質権の設定、移転等があった事実 |
対抗要件 権利変動を第三者に主張するための要件 |
出版権の登録 (著作権法88条) |
出版権の設定、移転、変更等 出版権を目的とする質権の設定、移転等があった事実 |
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著作隣接権の登録 (著作権法104条) |
隣接権の移転or処分の制限 隣接権を目的とする質権の設定、移転等があった事実 |
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その他 | 実名の登録 (著作権法75条) |
無名or変名で公表された著作物の著作者の実名 | 実名の登録がされている者は登録された著作物の著作者と推定する |
第一発行(公表)年月日等の登録 (著作権法76条) |
発行or公表された著作物についてその最初の発行or公表年月日 | 登録された年月日に第一発行or公表があったものと推定する | |
創作年月日の登録 (著作権法76条の2) |
プログラムの著作物の創作年月日 | 登録された年月日に創作されたものと推定する |
著作権に関する登録手続
著作権の登録は基本的に文化庁に対して行いますが、プログラムの著作物については一般財団法人ソフトウェア情報センターが指定登録機関として登録事務を行っています。
文化庁に対する登録手続きについては「登録の手引き」を、ソフトウェア情報センターに対する登録手続きについては同センターの発行している「プログラム登録の手引き」を参照してください。
登録制度はあまり活用されているとは言い難い状況にあります。しかし、著作権の二重譲渡などは著作権者が倒産した場合などにも発生しますので、少なくとも重要な著作権について譲渡を受けた場合には登録制度の利用を検討された方がよいでしょう。少なくとも、何か問題が生じたときにはすぐに登録手続きができるよう、必要書類などは用意しておくことが肝要です。
