動的意匠制度とは
知的財産権・エンタメ当社では、伸縮可能な搬送アームを新開発しました。このアームは、伸ばした状態の形状にも縮めた状態の形状にも特徴があり、意匠登録出願を行うことを検討しています。このような場合、伸ばした状態と縮めた状態の二つの形状について、別々の意匠登録出願が必要になるのでしょうか。
動的意匠として一つの出願で意匠登録出願することが可能です。
解説
動的意匠制度とは
意匠登録出願は、一意匠ごとに行うことが原則です(一意匠一出願、意匠法7条)。
参照:「意匠登録制度とは」
しかし、形状が変化する物品については、その形状ごとに別々の出願をしなくても、一つの出願で意匠登録出願を行うことができます。
意匠法の「意匠」とは、物品(物品の部分を含む)の形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものとされていますが(意匠法2条1項)、この「意匠」には、動く物品の形状等も含まれると解されるためです。
このような意匠は動的意匠と呼ばれています。具体例としては、びっくり箱や変形するおもちゃなどが考えられます。
伸縮する搬送アームの意匠登録出願では、下記のように、アームが最も伸びた伸張状態(①)、アームが最も収縮した収縮状態(②)、その途中の状態(③)の図面を添付して動的意匠として意匠登録出願することにより、アームの伸びた状態と縮んだ状態を含む動的意匠として、一つの出願で意匠登録出願を行うことができます。
①アームが最も伸びた伸張状態
②収縮状態と伸張状態の途中の状態
③アームが最も収縮した収縮状態
動的意匠登録出願の注意点
動的意匠の意匠登録出願に関し、意匠法では、「意匠に係る物品の形状、模様又は色彩がその物品の有する機能に基づいて変化する場合において、その変化の前後にわたるその物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合について意匠登録を受けようとするときは、その旨及びその物品の当該機能の説明を願書に記載しなければならない」とされています(意匠法6条4項)。
具体的には、「意匠に係る物品の説明」に動的意匠であることを記載するとともに、意匠の変化の前後の状態が分かるような図面を作成します。
このような記載がないと、一意匠一出願(意匠法7条)に反することになり、意匠登録を受けられません。
動的意匠の権利範囲
動的意匠は、変化の前後の個々の形状に、一つずつ意匠権が生じるのではなく、動的意匠の全体に一つの意匠権が生じます。
そして、他社製品が意匠権侵害にあたるどうかを検討する際には、変化の前後を含む動的意匠の物品の形状全体と当該他社製品とを比較して、類似するかどうかを判断することになります。

弁護士法人イノベンティア
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