米国における特許侵害の警告状を受け取った場合の初動対応
知的財産権・エンタメ米国特許について、特許侵害の警告状を受け取った場合の初動対応について教えてください。
まずLitigation Holdによって関連する証拠・書類の保全を行うことを検討すべきです。また、通知書において対象とされている特許について、非侵害論及び無効論の検討を早期に進めることが望ましいといえます。
解説
目次
Litigation Holdとは
米国における訴訟に関連する資料・情報の保全義務
Litigation Hold(訴訟ホールド、Legal Holdなどともいいます)とは、訴訟の危険性があると判断された段階で、関連する資料や情報の廃棄を防止し、保全をすることをいいます。
一般に、企業において保存される情報は、紙媒体であれ電子媒体であれ、一定期間の保存の後に廃棄されることが通常ですが、特許侵害の警告状を受領するなど、米国における訴訟の危険性が明らかになった場合には、関連する資料・情報の保全義務が生じるとされています。当該保全義務に違反した場合には、証拠隠滅行為として制裁の対象となる可能性があります(なお、この保全義務は、特許侵害訴訟に限らず課せられるものです)。
ライセンス交渉とLitigation Hold
米国特許に関しては、最初から侵害を警告する書面を受領することもあり得ますが、ライセンスの提案、という形で特許権者がアプローチしてくる可能性もあります。ライセンス交渉の段階では、未だ訴訟の危険性が生じていないとしてLitigation Holdまでは必要ないと判断されることもありますが、ライセンス交渉が決裂し、特許権者が訴訟の可能性を示唆してきた段階では、資料・情報の保全義務が認められるおそれがあります。
Litigation Hold Noticeの発出
前述のとおり、Litigation Holdを懈怠した場合には証拠隠滅行為として制裁の対象となるおそれがありますので、米国における特許侵害訴訟の可能性が生じた場合には、米国訴訟の専門家に相談を行い、Litigation Holdの必要性について確認することが望ましいです。
Litigation Holdが必要となった場合には、提起され得る訴訟に関連する資料・情報を保有している社内の部門に対して、保存すべき資料・情報の内容を具体的に指示するLitigation Hold Noticeを発出することとなります。なお、単にNoticeを発すれば保全義務を履行したことになるというものではなく、電子情報の定期的な廃棄手続の停止、社内の各部門においてNoticeに従った書類・情報の保全が履行されていることの確認が必要とされています。
非侵害論の検討開始
日本と同様に、米国特許訴訟における争点の中心は、侵害の成否と特許の有効性です。
文言侵害(literal infringement)
侵害の成否は、侵害が主張された製品や方法(被疑侵害物件・方法)が、特許のクレームの範囲に含まれるか否かで判断されます。特許のクレームの範囲に含まれるか否かは、クレームにおいて記載された発明(特許発明)の構成要件を、被疑侵害物件・方法がすべて備えているかによって検討されます。被疑侵害物件・方法が、特許発明の構成要件をすべて備えていれば、侵害が成立します。これを、文言侵害(literal infringement)といいます。
均等侵害(infringement under the doctrine of equivalents)
他方、被疑侵害物件・方法が、特許発明の構成要件の一部を備えない場合、すなわち、文言侵害が成立しない場合であっても、一定の要件を満たすときには、均等論という概念に基づいて侵害の成立が肯定されることがあります。これを、均等侵害(infringement under the doctrine of equivalents)といいます。
文言侵害と均等侵害の成否
文言侵害の成否を検討する場合には、特許発明の範囲の解釈(クレーム解釈/claim construction)が必要であり、また、均等侵害の成否については、その要件の充足の検討が必要となります。いずれについても、米国における特許侵害について経験・知見を有する専門家への相談が望ましいといえます。
無効論の検討開始
米国における特許訴訟において、被告は、特許が無効であることを主張できます。すなわち、特許が無効であると判断されれば、当該特許に基づく権利行使を妨げることができ、特許無効の主張は抗弁として働き得ます。
新規性欠如・進歩性欠如
特許の無効理由の代表的なものは、新規性欠如および進歩性欠如です。新規性欠如とは、特許発明がすでに知られていた発明と同一であるとの理由により特許性を否定する無効理由です。また、進歩性欠如とは、すでに知られていた発明に基づいて特許発明を容易に想到できたとの理由により特許性を否定する無効理由です。なお、米国特許については、いわゆるAmerica Invents Act(AIA法)による改正によって、新規性欠如の根拠とできる公知発明の範囲が変わりました。
無効理由の成否
これらの無効理由の成否についても、特許発明の範囲の解釈(クレーム解釈/claim construction)が必要であり、また、新規性・進歩性欠如の根拠とする、先行する発明の探索と特許発明との対比が必要となります。これらの検討に際しても、米国における特許侵害について経験・知見を有する専門家への相談が望ましいといえます。

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