民事再生手続における担保権の処理

事業再生・倒産
大島 義孝弁護士 東京ベイ法律事務所

 民事再生手続において担保権付債権はどのように扱われますか。担保権付債権者として留意すべき点について教えて下さい。

 民事再生手続において、担保権は別除権として扱われ、再生手続外で権利行使が可能とされていますので、担保権者は再生手続の進行にかかわらず担保権実行が可能です。したがって、事業継続に必要な資産上に担保権が設定されている場合には、再生債務者は別除権者との間で別除権協定を締結することが必要となります。ただし、別除権の目的となっている各担保権の性質に応じて対応することが必要となります。

解説

目次

  1. 原則
  2. 別除権協定の締結
    1. 別除権協定とは
    2. 別除権協定に必要な手続
  3. 別除権となる担保物権毎の留意点
    1. 不動産担保
    2. リース
    3. 集合動産譲渡担保
    4. (集合)債権譲渡担保
    5. 商事留置権

目次

  1. 原則
  2. 別除権協定の締結
    1. 別除権協定とは
    2. 別除権協定に必要な手続
  3. 別除権となる担保物権毎の留意点
    1. 不動産担保
    2. リース
    3. 集合動産譲渡担保
    4. (集合)債権譲渡担保
    5. 商事留置権

原則

 民事再生手続においては、一定の担保権は別除権と扱われ、再生手続外で権利行使が可能とされています(民事再生法53条)。

 すなわち、民事再生手続申立時の弁済禁止等の保全処分(民事再生法30条)や再生手続開始による再生債権の弁済禁止(民事再生法85条1項)の効果は担保権者の担保権行使には及ばず、担保権者は再生手続に拘束されることなく自由に担保権を実行し、担保権の範囲で弁済を受けることができます
 ただし、再生債務者の申立てにより、別途保全処分として担保権実行の中止命令が発令された場合は、例外的に担保権実行が制限されることとなります(民事再生法31条)。

 なお、会社更生手続においては、担保権者は更生担保権者として会社更生手続に拘束され、会社更生手続にしたがい権利行使しなければなりませんので(会社更生法2条12項、47条1項)、この点が民事再生手続と会社更生手続の大きな相違点の一つとなります。

別除権協定の締結

別除権協定とは

 たとえば、工場の土地建物など、事業の用に供している再生債務者の財産について担保権が設定されている場合、担保権者が再生手続に拘束されず担保権をいつでも実行できるとすれば、事業の継続に支障が生じ、ひいては事業の再建が困難となります。したがって、再生債務者としては、担保権者との間で別除権協定を締結し、別除権の目的となっている担保物件の評価額や被担保債権の弁済方法について合意を取り交わした上で当該担保物件を継続利用できるようにする必要があります
 この合意を「別除権協定」といいます。

別除権協定に必要な手続

 なお、別除権協定の締結には監督委員の同意を得ることが必要です。
 別除権協定により別除権額が定まった場合は、被担保債権額のうち別除権評価額を超過する別除権不足額部分については一般再生債権となり再生手続に沿って処理されることとなります。

 仮に別除権の評価額について別除権者と再生債務者との間で折り合わない場合には、再生債務者としては、担保権消滅請求手続を申し立て、裁判所により定められた別除権評価額の弁済をもって別除権を強制的に消滅する手段もあります(民事再生法148条)。

別除権となる担保物権毎の留意点

 それでは、実際に手続を進めるにあたり、留意すべきポイントについて、担保物件の種類ごとに見てみましょう。

不動産担保

 不動産に担保がつけられている不動産については、この不動産が事業の用に供されているかどうかがポイントとなります。

 事業の用に供されている不動産に対して抵当権や根抵当権が設定されている場合、当該不動産に対する担保実行を避け、これを継続して利用するためには別除権者との間で別除権協定を締結することが必要と考えられます。もし再生計画案の付議決定時までに別除権協定の締結に至らない場合には、再生計画の遂行可能性自体が認められず再生計画案が付議されない可能性もあります。

 一方、事業の用に供されていない遊休不動産については、再生手続中に早期に売却し、売却代金を別除権者への弁済に充てることになります。

リース

 いわゆるファイナンス・リースについては、リース債権者が共益債権者か別除権付再生債権者かという点で議論がありましたが、判例によれば、別除権付再生債権と位置づけられています
 この考え方に基づくと、他の別除権と同様に別除権の目的物たるリース物件の価値を評価して別除権評価額とし、残リース料のうち別除権評価額を上回る部分を再生債権として処理するのが原則となります。
 もっとも、使用継続するリース物件について、従前の月額リース料を支払うといった共益債権的な取扱いがなされる場合もあります。

集合動産譲渡担保

 店舗や倉庫内にある在庫製品や工場に保管している原材料といった集合動産に譲渡担保権が設定されている場合があります。

 この場合には、当該集合動産譲渡担保が実行された場合には在庫や原材料が引き揚げられて直ちに事業の継続や資金繰りに支障が生じることになりますので、再生債務者としては最優先で別除権者と交渉して早期の別除権協定の締結を目指さなければならないと思われます。

 なお、集合動産は、常に店舗や倉庫から搬出搬入を繰り返すものであり、個別の動産自体は入れ替わっていくという特徴を持ちます。したがって、再生手続申立以後に倉庫や工場内に搬入された原材料等の上にも譲渡担保権の効力が及ぶか、という問題があり、この点について争いになるケースがあります(いわゆる「集合動産譲渡担保の固定化」の問題)。

(集合)債権譲渡担保

 資金調達のため、主要得意先に対する売掛金、その他医療機関における診療報酬債権や消費者金融会社の貸出債権の上に将来発生する債権の分も含めて(集合)債権譲渡担保権が設定されている例が見られます。

 かかる(集合)債権譲渡担保が設定されている場合、担保権実行がなされると再生債務者において当てにしていた債権の回収が困難となり資金繰りにも大きな影響を与えることとなるため、最優先で担保権者との間で協議する必要があります。

 なお、集合動産譲渡担保と同様に集合債権譲渡担保の場合も常に担保の対象となる債権が入れ替わっていきますので、再生手続申立以後に取得される債権に担保の効力が及ぶかという問題があります。
 また、集合債権譲渡担保は通常、「動産及び債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(「動産債権譲渡特例法」)に基づき登記ファイルに登記される方法により対抗要件が具備されているところ、担保実行の際に担保設定の事実を知らない第三債務者(消費者金融の顧客等)に対して担保実行通知が送付されることとなり(動産債権譲渡特例法4条2項)、混乱を招くケースがあるので留意する必要があります。

商事留置権

 民事再生法において、民事留置権は別除権として扱われず、商事留置権のみが別除権として扱われます(民事再生法53条1項)。
 商事留置権とは、商法もしくは会社法の規定によって認められる留置権をいい、具体的には商法31条(代理商の留置権)、商法521条(商人間の留置権)、商法589条(運送人の留置権)、会社法20条(代理商の留置権)等があります。

 商事留置権が主張される典型的な場面としては、倉庫業者や運送業者が再生債務者のために物を占有している場合があります。
 この場合、留置権者に物の留置を継続されると、再生債務者の事業の継続に支障が生じる場合が多く、また占有されている物の価値よりも(倉庫料や運送料等の)被担保債権額が小さい例が多いので、申立後の比較的早期の段階で留置権者と和解して再生債務額の全部ないし一部を弁済するのと引き替えに留置されている物を受け戻すケースが多く見られます。

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