道路交通法改正で自動運転車を事業に活用する際の留意点

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柴山 将一弁護士 日本橋柴山法律事務所

 当社では自動運転車を事業に取り入れることを検討しています。このたび道路交通法が改正されたと聞いたのですが、その概要と影響について教えてください。

 道路交通法上初めて、自動運転に関する改正が行われました。自動運転の装置(「自動運行装置」)や「作動状態記録装置」に関する規定や、自動運転車を運転する者の義務に関する規定などが整備されました。

解説

目次

  1. 道路交通法改正までの経緯
  2. 「自動運行装置」の定義等に関する規定の整備
  3. 自動運転に関する運転者の義務規定の整備
  4. 作動状態記録装置による記録等に関する規定の整備
  5. 今後の影響

道路交通法改正までの経緯

 道路交通法は、日本の道路交通のルール等に関する基本法とも言える法律です。ただ、従前の手動運転を前提とするものであり、自動運転社会が近い将来到来するのを受けて、同法のあり様についても調査検討が不可欠となりました。

 そこで、同法を所管する警察庁は自動運転の制度的課題や段階的実現に関する委員会などを順次立ち上げて調査検討を行い、さらに2016年にはガイドライン 1 を策定して自動運転車の公道実証実験を条件付きで限定的に認めました。そして、「官民ITS構想・ロードマップ2018」「自動運転に係る制度整備大綱」を受けて、2020年頃からの自動運転の本格実用化を念頭に、自動化レベル3以上 2 における道路交通のルール等の法制度面での整備の検討が進められ、2018年12月にはまずはレベル3を念頭にした道路交通法の改正試案が公表されました。

 改正試案に対するパブリックコメントの募集などの手続を経て、「最近における道路交通をめぐる情勢に鑑み、自動車の自動運転の技術の実用化に対応した運転者等の義務に関する規定の整備を行う……必要がある」ことを理由に改正案が提出され、2019年5月28日に改正法が成立、同年6月5日に公布されました。

 具体的な改正内容は次のとおりです。

「自動運行装置」の定義等に関する規定の整備

 第一に、「自動運行装置」という自動運転に係る機器等に関する用語を新設し、その具体的な定義内容は道路運送車両法に委ねる形を取りました(道路交通法2条13号の2)。

 なお、道路運送車両法でも自動運転に関する改正が道路交通法改正と一体のものとして進められ、道路交通法に先立って2019年5月17日に改正法が成立し、同年5月24日に公布されました。改正後の道路運送車両法41条1項20号、41条2項は「自動運行装置」を以下のとおり定義しています。

……「自動運行装置」とは、プログラム(電子計算機(入出力装置を含む。この項を除き、以下同じ。)に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)により自動的に自動車を運行させるために必要な、自動車の運行時の状態及び周囲の状況を検知するためのセンサー並びに当該センサーから送信された情報を処理するための電子計算機及びプログラムを主たる構成要素とする装置であつて、当該装置ごとに国土交通大臣が付する条件で使用される場合において、自動車を運行する者の操縦に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能を有し、かつ、当該機能の作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置を備えるものをいう。

(傍線 BUSINESS LAWYERS編集部)

 また、道路交通法上の「運転」の概念には「自動運行装置」を使用する場合も含めることとしました(道路交通法2条17号)。

自動運転に関する運転者の義務規定の整備

 第二に、「自動運行装置」を備えている自動車の運転者に対して、道路運送車両法が規定する使用条件を満たさない場合に「自動運行装置」を使用した運転を禁止しました(道路交通法71条の4の2第1項)。

 また、「自動運行装置」を備えている自動車の運転者は、一定の条件(自動車が整備不良車両ではないこと、「自動運行装置」の使用条件を充足していること)を満たさなくなった場合にただちに適切に対処することができる態勢でいるなどの場合に限り、道路交通法71条5号の5(停止時以外において、携帯電話等を保持して使用することと画像表示用装置(カーナビや携帯電話のディスプレイ等)の画像を注視することの禁止)の規定の適用を受けないこととしました(道路交通法71条の4の2第2項)。

 つまり、携帯電話の保持使用等は手動運転では原則禁止されていますが、自動運転ではこれが緩和されて、たとえば緊急時に手動運転に戻りしっかり引き継ぐ態勢にあればいわゆる「ながら運転」が許容されることになります

作動状態記録装置による記録等に関する規定の整備

 第三に、自動車の使用者等や運転者は、「自動運行装置」を備えている自動車で、道路運送車両法が規定する「作動状態記録装置」により作動状態の確認に必要な情報を正確に記録することができないものを運転させ、または運転してはならないことを規定しました(道路交通法63条の2の2第1項)。

 前述の道路運送車両法改正後41条2項から「作動状態記録装置」とは、「自動車を運行する者の操縦に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する……機能の作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置」をいうことになります。

 また、「自動運行装置」を備えている自動車の使用者に対する「作動状態記録装置」により記録された記録の保存義務が規定され(道路交通法63条の2の2第2項)、警察官が整備不良車両に該当すると認められる車両が運転されているときは、当該車両の運転者に対し、「作動状態記録装置」により記録された記録の提示を求めることができるようになりました(道路交通法63条)。

今後の影響

 前述のとおり、いわゆる自動運転システムとは運転者の認知・予測・判断・操作をすべて代替する機能を有するものであることが定義づけられましたが、これは「国土交通大臣が付する条件」で使用されることが前提にあります。

 すなわち、国土交通大臣が付する走行環境条件外となった場合に、ただちにそのことを認知するとともに、当該自動運行装置以外の当該自動車の装置を確実に操作することができる状態にあることが必要なことから(道路交通法71条の4の2第2項)、作動につき限定領域(ODD)が存するレベル3ないし4の自動運転が対象です。さらに携帯電話の保持使用等の一部緩和の条件は人間への権限移譲を前提としており、これはレベル3の自動運転を念頭にしたものといえます。

 従って、ながら運転が一部許容されたといっても、権限移譲があり得ることを運転者は常に前提にしなければならず、現実的にはその許容範囲は限定的であり安全運転義務が緩和されたわけではないことに十分な注意が必要です。

 また、現在における自動車の主たる記録装置といえばおなじみのドライブレコーダーに加えて、EDR(イベント・データ・レコーダー)やOBD(オンボード・ダイアグノーシス)などがありますが、保存の詳細については内閣府令で定めることとなっており、まだその具体的内容は明らかになっていません。「作動状態記録装置」を含む「自動運行装置」も国土交通省の定める保安基準の対象装置となることとも相まって、いかなる装置によりどのような情報をデータとして記録していることになるか(政府答弁では自動運行装置の開始・停止時刻などの情報をあげています)については、自動車製造者・販売者も、利用者の側も、今後の議論を注視していく必要があります。

自動運転と社会変革――法と保険
  • 参考文献
  • 自動運転と社会変革――法と保険
  • 著者:明治大学自動運転社会総合研究所 監修、中山 幸二=中林 真理子=栁川 鋭士=柴山 将一 編
  • 定価:本体 3,000円+税
  • 出版社:商事法務
  • 発売年月:2019年7月

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