自動運転に関わる事業を営むにあたり検討すべき主な法令やガイドライン
IT・情報セキュリティ自動運転車を取り入れる等、自動運転に関係する事業を営むにあたって検討すべき主な法令やガイドラインについて教えてください。
現時点で自動運転車独自の法令が新たに制定されているわけではなく、これまでと同様の交通法令等が適用されますが、自動運転に関する改正が進められています。また、自動運転車を使用した公道実証実験や無人自動運転移動サービス、安全技術等に関するガイドラインが策定されています。
解説
自動運転に関する法整備の議論
2019年現在、自動運転に関するニュースが世間を賑わすことが増え、各地でも自動運転車が走行する実証実験が行われるなど、実際に搭乗したことがある人も多くなってきました。
自動運転が身近になる時代もすぐそこまで近づいていますが、自動運転が経済政策等における国家戦略の重要な項目に具体的にあげられるようになったのはつい最近のことであり、2014年の「官民ITS構想・ロードマップ」(平成26年6月3日)において各企業や学術機関等で進められていた技術面だけでなく、法制度面についても言及されるようになりました。
その後、政府、道路交通等を所管する国土交通省・警察庁、経済産業省を中心に自動運転の技術開発や関わる法制度の検討が行われるようになり、多くの委員会や検討会等が立ち上がりました。
2016年には国土交通省に自動運転戦略本部が設置され、2018年には高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)・官民データ活用推進戦略会議から「自動運転に係る制度整備大綱」(以下「制度整備大綱」)(平成30年4月17日)が出されるなど、自動運転の技術開発や法制度の整備に関する方針が示され、その方針にもとづき様々な取組みが推進されてきました。
自動運転に関わる法令
「制度整備大綱」では、自動運転社会実現のために検討すべき法令として、以下を具体的にあげています(このほかに、国際法として日本が批准している道路交通に関する条約(ジュネーヴ条約)における自動運転車の議論が進められていますが、直接事業に関わるものではないので、ここでは国内法の議論のみに限定します)。
道路交通法、道路運送車両法、道路法など
民事責任に関するもの
自動車損害賠償保障法、民法、製造物責任法など
運送事業に関するもの
道路運送法、貨物自動車運送事業法など
これらの法令は、道路交通や事故が発生した場合の責任問題等において従前より適用のあるものであり、自動運転車独自の立法が行われたわけではありません。そういう意味では、現行の法制度の枠組みの中で自動運転車の運用がなされていくというのが現時点での方向性であるといえます。
自動運転のレベル
具体的な法令の中身の説明に入る前に、そもそも検討されている自動運転とはどのようなものであるのかを知っておく必要があります。自動運転に関しては、その自動化の段階(レベル)で説明されることが多く、日本ではSAEインターナショナルのJ3016(およびその日本語参考訳であるJASO TP18004)の定義を採用しています。これは、運転の段階をレベル0から5までに分類したものであり、運転タスク(認知・判断・操作)のすべてが自動運転システムに委ねられるレベル3以上を自動運転としています。
レベル3は「条件付運転自動化」であり、自動運転であるもののその作動条件(領域)は限定されており(たとえば、高速道路上のみであるなど)、なおかつ緊急時などのシステムによる作動継続が困難な場合には運転タスクが運転者に戻される(権限移譲、オーバーライド)ことになるのが大きな特徴です。
これに対して、レベル4以上はこのような運転者への権限移譲もなくなり、いかなる場合もすべてシステムが運転タスクを担うことになりますが、レベル4は作動条件(領域)が限定されている段階であり(高度運転自動化)、そのような制約もなく真の意味で自動運転となるのがレベル5です(完全運転自動化)。
現在、世界において現実的な議論として主な対象となっているのはレベル3および4における自動運転であり、日本でも同様です。
自動運転レベルの定義の概要 1
レベル | 名称 | 定義概要 | 安全運転に係る監視、 対応主体 |
---|---|---|---|
運転者が一部又は全ての動的運転タスクを実行 | |||
0 | 運転自動化なし | 運転者が全ての動的運転タスクを実行 | 運転者 |
1 | 運転支援 | システムが縦方向又は横方向のいずれかの車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行 | 運転者 |
2 | 部分運転自動化 | システムが縦方向及び横方向両方の車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行 | 運転者 |
自動運転システムが(作動時は)全ての運転タスクを実行 | |||
3 | 条件付運転自動化 | システムが全ての動的運転タスクを限定領域において実行 作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に適切に応答 |
システム(作動継続が困難な場合は運転者) |
4 | 高度運転自動化 | システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行 | システム |
5 | 完全運転自動化 | システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を無制限に(すなわち、限定領域内ではない)実行 | システム |
道路交通法について
道路交通法は交通ルールを定める道路交通の基本法であり、自動車を用いるすべての事業において検討が必要な法律です。
しかしながら、道路交通法は手動運転を前提とするものであることから、同法を所管する警察庁ではまず自動運転の導入に不可欠な自動運転車の公道における実証実験のためにガイドラインや取扱い基準を発出してこれを認容し、2019年5月にレベル3の自動運転車の社会実装を想定した改正法が成立、同年6月5日に公布されました。この改正では、「自動運行装置」の定義や運転者の義務、先に改正が行われた道路運送車両法で規定される「作動状態記録装置」に関する規定などが置かれました。詳細は別稿をご確認下さい。
道路運送車両法について
道路運送車両法は、自動車の保安基準、点検・整備・検査、登録制度等について定める法律であり、自動車の製造業者はもちろんのこと、整備・車検等の事業を行う業者にもおおいに影響があります。
道路運送車両法を所管する国土交通省は2018年9月にレベル3および4の自動運転車を対象とする「自動運転車の安全技術ガイドライン」を発出するなどしたうえで、2019年5月に同法の改正を行いました。保安基準対象装置に「自動運行装置」を追加するなど規定が置かれましたが、詳細は別稿をご確認下さい。
その他
道路法は道路インフラ等に関する法律であり、道路運送法および貨物自動車運送事業法は旅客自動車運送事業および貨物自動車運送事業に関する法律ですが、現時点において自動運転に関する改正は行われていません。
しかしながら、いずれも自動運転車との関わりが密接であることから、自動運転との関係において改正が行われることがおおいに予想されるものであり、今後の動きに注視する必要があります。
また、政府が2020年の実現を目指している限定された地域におけるレベル4での無人自動運転移動サービス(バスやタクシー)については、運転者が車内にいる場合と同等の安全性・利便性を確保することが必要であるとして、国土交通省は、旅客自動車運送事業者に対してこのようなサービス事業を検討するに際して必要となる基本的な考え方を示す「限定地域での無人自動運転移動サービスにおいて旅客自動車運送事業者が安全性・利便性を確保するためのガイドライン」(令和元年6月)を策定しました。
現在、自動運転車を用いた運送事業として最も実現に近いところにあるのがこの「限定地域での無人自動運転移動サービス」であり、同ガイドラインの内容も含め、このような事業の可能性や必要な法令の改正等が議論されています。この点につきましても、詳細は別稿をご確認下さい。

- 参考文献
- 自動運転と社会変革――法と保険
- 著者:明治大学自動運転社会総合研究所 監修、中山 幸二=中林 真理子=栁川 鋭士=柴山 将一 編
- 定価:本体 3,000円+税
- 出版社:商事法務
- 発売年月:2019年7月
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出典:高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議「自動運転に係る制度整備大綱」(平成30年4月17日、閲覧:令和元年9月26日) ↩︎

日本橋柴山法律事務所