オンライン診療に関する法的問題と近時の特例措置

IT・情報セキュリティ
北田 晃一弁護士 法律事務所ZeLo・外国法共同事業

目次

  1. オンライン診療とは
  2. オンライン診療に関する法的問題点
  3. オンライン診療を適法に行うために遵守すべき事項
  4. 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う特例について
※本記事は、法律事務所ZeLo・外国法共同事業のウェブサイトの「Journal」への掲載内容を転載したものです。

オンライン診療とは

 パソコン、スマートフォン、タブレット端末等の情報通信機器の発展に伴い、医療分野では情報通信機器を使った遠隔医療に関するサービスが提供されています。中でもオンライン診療(遠隔医療のうち医師・患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い、診断結果の伝達や処方等の診療行為をリアルタイムにより行う行為)は、平成9年に厚生省が「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」(健政発第1075号)を公表して以来、一定のルールの下で実施可能とされてきました。

 もっとも、オンライン診療は、診察する上で触診や聴診等が有効な場合や検査・処置が必要な場合に適さないことや、オンライン診療の有効性に関するエビデンスが不十分であること等が課題として指摘され、これまで十分な普及が進んでいませんでした。実際、厚生労働省の公開する「対応医療機関リスト」によれば、令和2年5月1日現在、オンライン診療に対応している医療施設の数は全国で約1万施設程度(全国の医療機関の約10%)にとどまっており、オンライン診療の普及はまだ途上段階にあるということができます。

 このような状況の下、昨今の新型コロナウイルス感染症の感染拡大以降、対面によらない診療の必要性が高まり、厚生労働省は令和2年4月10日付で、時限的ではあるものの、オンライン診療に関する特例的な取扱いを認める事務連絡を発出し、ニュースや新聞紙上等でもオンライン診療に関する記事を目にする機会は増加しており、今後、ますますオンライン診療の利用が拡大していくことが予想されます。
 本稿では、オンライン診療を実施するために医師や患者が遵守すべき事項を改めて整理したいと思います。

オンライン診療に関する法的問題点

 オンライン診療を含む遠隔診療については、無診察治療の禁止を定める医師法20条との関係(遠隔診療が「診察」に該当するのか)が問題とされてきました。

【医師法第20条】
医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。

 厚生省は、オンライン診療と医師法20条の関係について、平成9年12月24日付「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」(健政発第1075号)において、診療は医師と患者が直接対面して行うことを基本としつつ、これを補完するものとして、直接の対面診療に代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる方法を用いた遠隔診療は直ちに医師法20条に違反するものではないことや、初診は原則として直接対面の診療によらなければならない等の解釈を示し、遠隔診療が一定条件下で許容されることを明らかにしました。その後も、厚生労働省から遠隔診療に関する通達が複数回発出され、平成28年3月18日付「インターネット等の情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)を提供する事業について」(医政医発0318第6号)では、直接対面の診療を行わず、オンライン診療のみで診療を完結させることは医師法20条に違反するという解釈も示されました。

 このように、通達が複数回発出されたことや情報通信機器の普及を受けて、オンライン診療を取り扱う医療機関が増加する一方、オンライン診療の実施要件が不明確という問題も生じてきたことから、厚生労働省は、オンライン診療に関する統一的なルール整備を行うことを目的に、平成30年3月、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(令和元年7月一部改訂、以下「本指針」といいます。)を策定しました。

 本指針では、オンライン診療を実施するにあたって「最低限遵守すべき事項」と「推奨される事項」が示され、「最低限遵守すべき事項」に従ってオンライン診療が行われる場合には、医師法20条に抵触するものではないことが明確になりました。本指針は、保険診療に限らず自由診療にも適用されることが「『オンライン診療の適切な実施に関する指針』に関するQ&A」(以下「Q&A」といいます。)において明確にされているため、自由診療をオンラインで行う場合にも、本指針を遵守しなければなりません。なお、本指針は今後のオンライン診療の普及、技術革新等の状況を踏まえ、定期的に内容を見直すことが予定されているため、今後の変更内容についても確認することが必要です。

オンライン診療を適法に行うために遵守すべき事項

 上記のとおり、医師法20条に抵触することなくオンライン診療を行うためには、本指針のうち「最低限遵守すべき事項」に掲げられている事項を遵守しなければなりません。以下では本指針の定める「最低限遵守すべき事項」の大要について説明したいと思います。

(1)「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の項目

 本指針が「最低限遵守すべき事項」として掲げている事項の項目は、概ね以下のとおりです。

ア オンライン診療の提供に関する事項
  • 医師―患者関係/患者合意
  • 適用対象
  • 診療計画
  • 本人確認
  • 薬剤処方・管理
  • 診察方法
イ オンライン診療の提供体制に関する事項
  • 医師の所在
  • 患者の所在
  • 通信環境

(2)オンライン診療の提供に関する事項

ア 医師と患者の関係
 オンライン診療を始めるにあたり、医師は、患者がオンライン診療を希望することを明示的に確認した上で、診療計画(後記ウで詳述)の内容とあわせて医師・患者間で合意しなければなりません。そのため、医師側の都合のみでオンライン診療を実施することはできません。

 なお、「明示的な確認」とは、オンライン診療に関する留意事項の説明がなされた文書等を用いて、患者がオンライン診療を希望する旨を書面(電子データを含む。)で署名等をしてもらうことを意味するとされています(Q&A-Q3)。患者に意思確認をしたことをエビデンスとして残すという趣旨からも、かかる手続を経ておくことが望ましいと考えられます。

 ただし、患者との合意に基づきオンライン診療を実施した場合でも、医師は、都度、医学的な観点からオンライン診療を行うことの適否を判断しなければならず、不適切と判断した場合にはオンライン診療を中止し、速やかに対面診療につなげなければならないことに注意が必要です。

イ 適用対象
(ア)初診対面の原則

 オンライン診療は、容易に医療サービスを受けられるという利点がある一方で、医師が得られる情報が視覚と聴覚に限定され、疾病の見落としや誤診を招く危険があります。また、患者から心身の状態に関して適切な情報を得るためには、医師と患者との間で信頼関係が構築されていることが重要です。かかる観点から、本指針は、初診は原則として直接の対面で行うことを求めています。「初診」とは、文字どおり、初めて診察を行うことをいいますが、以下の場合も「初診」に該当することには注意が必要です(Q&A-Q4)。

  1. 継続的な診療をする中で見つかった新たな症状等に対して診察を行う場合
  2. 疾患が治癒した後又は治療が長期間中断した後に再度同一疾患について診察する場合

 加えて、ある症状でオンライン診療を開始した後に新たな症状等の発生が初めて判明した場合にも、オンライン受診勧奨に切り替える等の対応をした後で、対面診療を行うことが必要です(Q&A-Q4)。

(イ)急病急変患者の取扱い
 急病急変患者は、原則として直接の対面診療によらなければなりません。
 もっとも、直接の対面診療を実施した後、患者の容態が安定した段階に至った際には、オンライン診療の実施を検討することが許容されています。

(ウ)医師に関する制約
 オンライン診療を行う医師は、原則として直接の対面診療を経た上でオンライン診療を行うこと、すなわち対面診療を行った医師がオンライン診療を行うことが必要です。

 ただし、複数の診療科の医師がチームで診療を行う場合で、特定の複数医師が関与することが診療計画で明示され、チーム内のいずれかの医師が直接の対面診療を行っている場合、全ての医師が直接の対面診療を行っていなくとも、交代でオンライン診療を行うことが許容されます。

 その他、オンライン診療を行う予定の医師が病欠、勤務変更等により、診療計画で予定されていない代診医がオンライン診療を行う場合も、①患者の同意と②十分な引継ぎがなされていることを条件に、直接の対面診療を行っていない医師による診療が許容されています。

(エ)初診対面原則の例外
 本指針では、例外的に初診からオンライン診療を行うことが許容される場合も示されています。その概要は、以下のとおりです。

  • 患者が医師といる場合のオンライン診療で、情報通信機器を通じて診療を行う医師が、患者といる医師から十分な情報を得られる場合
  • 患者がすぐに適切な医療を受けられない状況にある場合で、速やかにオンライン診療を行う必要性があるときは、必要性・有効性とリスクを踏まえた上で、医師の判断で、初診からオンライン診療を行うことが許容されます。「患者がすぐに適切な医療を受けられない状況にある場合」とは、離島・へき地等において近隣に対応可能な医療機関がない場合を指し、近隣の医療機関で受診可能である場合や、患者側の仕事や家庭の事情等はこれに該当しません(Q&A-Q5)。なお、初診をオンライン診療で行った後は、速やかに直接の対面診療を行う必要があることに注意が必要です。
  • 禁煙外来と緊急避妊に係る診療についても、一定の条件下で、例外的な対応が許容される場合があります。

 Q&Aによれば、厚生労働省は直接の対面診療を組み合わせないオンライン診療や初診からのオンライン診療が許容され得るものについて、医学の発展やICTの進歩を踏まえ、例示可能なものが他にあるか引き続き議論していく予定と述べており(Q&A-Q6)、例外的取扱いの範囲は今後拡大されていく可能性があります。

ウ 診療計画
(ア)診療計画の策定

 医師は、医師と患者との間の必要なルールを「診療計画」として策定し、オンライン診療の開始に先立ち、患者の合意を得ておく必要があります。

 具体的には、以下の事項を含めた診療計画を定める必要があり、診療計画は、文書又は電磁的記録により患者が参照できるようにすることが推奨されています。

(i) オンライン診療で行う具体的な診療内容(疾病名、治療内容等)
(ii) オンライン診療と直接の対面診療、検査の組み合わせに関する事項(頻度やタイミング等)
(iii) 診療時間に関する事項(予約制等)
(iv) オンライン診療の方法(使用する情報通信機器等)
(v) オンライン診療を行わないと判断する条件と、条件に該当した場合に直接の対面診療に切り替える旨(情報通信環境の障害等によりオンライン診療を行うことができなくなる場合を含む。)
(vi) 触診等ができないこと等により得られる情報が限られることを踏まえ、患者が診察に対し積極的に協力する必要がある旨
(vii) 急病急変時の対応方針(自らが対応できない疾患等の場合は、対応できる医療機関の明示)
(viii) 複数の医師がオンライン診療を実施する予定がある場合は、その医師の氏名及びどのような場合にどの医師がオンライン診療を行うかの明示
(ix) 情報漏洩等のリスクを踏まえて、セキュリティリスクに関する責任の範囲及びそのとぎれがないこと等の明示

(イ)診療計画の保存
 作成した診療計画は2年間保存することが求められます。保存期間の起算点は、診療計画の作成日ではなく、オンライン診療による患者の診療が完結した日であることに注意が必要です。
 Q&Aによれば、診療録と合わせて5年間保存しておくことが望ましいとされています。

(ウ)映像や音声等の保存
 オンライン診療の映像や音声等を、医師側又は患者側の端末に保存する場合、目的外使用を防止する観点から、事前に医師・患者間で、保存の要否や保存端末等の取り決めを明確にして合意しなければならず、無断で記録用に保存することは避けなければなりません。

エ 本人確認
 オンライン診療を行うに際し、医師側と患者側の双方で本人確認を行うことが必要です。具体的には、当該医師が医師免許を保有していることを患者が確認できる環境を整備することに加え、医者と患者双方が身分確認書類を用いて互いに本人であることを確認しなければなりません。
 身分確認書類として、医師はHPKI カード(医師資格証)や医師免許証、患者については保険証、マイナンバーカード、運転免許証等をそれぞれ活用することが考えられます。

オ 薬剤処方・管理
 新たな疾患に対して行う医薬品の処方は、直接の対面診療によらなければなりません。これは、医薬品の使用には副作用のリスクを伴うため、医薬品を処方する際には、患者の心身の状態を十分に評価し、効能効果と副作用のリスクを正確に判断する必要があるためです。

 ただし、在宅診療、離島やへき地等、速やかな受診が困難な患者に、発症が容易に予測される症状の変化に医薬品を処方することは、対象疾患名とともにあらかじめ診療計画に記載している場合に限り、許容されます。

 また、現にオンライン診療を行っている疾患の延長とされる症状に必要な医薬品も、医師の判断で処方することが可能です。

 なお、患者が、向精神薬、睡眠薬、医学的な必要性に基づかない体重減少目的に使用され得る利尿薬や糖尿病治療薬、その他美容目的に使用され得る保湿クリーム等の特定の医薬品の処方を希望する等、医薬品の転売や不適正使用が疑われるような場合には処方してはならず、対面診療で処方の必要性を確認せずに、オンライン診療のみで患者の状態を十分に評価せずに処方することは不適切とされています。

カ 診察方法
 オンライン診療には、ビデオ通話等、リアルタイムの視覚・聴覚の情報が含まれる情報通信手段を用いなければなりません。また、医師は、直接の対面診療に代替し得る程度に、患者の心身の状態に関する有用な情報を得るよう努めることが求められるため、オンライン診療では患者の状態に関する情報を十分に得られないと判断した場合には、速やかに直接の対面診療に切り替えなければなりません。

 さらに、患者の心身の状況について有用な情報が得られる場合、補助的な手段としてチャット機能等、画像や文字等による情報のやりとりを活用することは可能です。もっとも、チャット機能のみによる診療は認められておらず(Q&A-Q10)、チャット機能のみを用いた不適切な診療行為が現に行われているとの報告がなされてるため、注意が必要です(「オンライン診療における不適切な診療行為の取扱いについて」(医政医発1226第2号平成30年12月26日))。

(3)オンライン診療の提供体制に関する事項

ア 医師の所在
 医師がオンライン診療を行う場所は医療機関である必要はなく、医療機関外での実施も可能です。もっとも、騒音のある場所やネットワークが不安定な場所等、診察を行うのに不適切な場所は避けなければならず、また第三者に患者情報が伝わることのないよう物理的に外部から隔離された場所であることも求められています。
 さらに、診療録等、過去の患者の状態を把握しながら医療機関で診療するのと同程度に患者の心身の情報を得られる体制を整えておく必要があります。

イ 患者の所在
 医療法上、医療は、病院・診療所等の医療提供施設又は患者の居宅等で提供されなければならず(医療法1条の2第2項)、この取扱いはオンライン診療でも同様と考えられています。また、患者の所在場所が、対面診療が行われる場合と同程度に清潔かつ安全であること、プライバシーが保たれるよう患者が物理的に外部から隔離される空間であることが求められます。

 本指針では、患者の日常生活等の事情によって異なるものの、患者の勤務する職場等についても患者の所在として認められる場合があるとされています。

ウ 通信環境(情報セキュリティ・プライバシー・利用端末)
 本指針は、オンライン診療に用いるシステムについて、①利用する情報通信機器やクラウドサービスを含むオンライン診療システム(オンライン診療で使用されることを念頭に作成された視覚及び聴覚を用いる情報通信機器のシステム)と、②汎用サービス(オンライン診療に限らず広く用いられるサービスで、視覚及び聴覚を用いる情報通信機器のシステムを使用するもの)とを区別した上で、使用するシステムに伴うリスクを踏まえた情報セキュリティ対策を講じることを求めています。
 本指針では、医師、オンライン診療システム事業者が講じるべき対策及び患者に実施を求めるべき事項が定められています。以下では、医師とオンライン診療システム事業者がそれぞれ講じるべき対策の大要について説明します。

(ア)医師が講じるべき対策
 医師には、オンライン診療に用いるシステムによって講じるべき対策が異なることを理解した上で、患者に対してセキュリティリスクを説明し、同意を得ることが求められます。また、使用するシステムを適宜アップデートし、リスクも変わり得ることを十分に理解しておかなければなりません。

 その上で、医師は、概要以下の対策を講じることが求められています。特に、汎用サービスを用いる場合には、特に留意すべき事項が加重されているため注意が必要です。

共通事項 (i) 診療計画作成時に、使用するオンライン診療システムを示し、セキュリティリスク等と対策及び責任の所在を説明し、合意すること
(ii) OS やソフトウェア等を適宜アップデートし、必要に応じてセキュリティソフトをインストールすること
(iii) 多要素認証を用いるのが望ましいこと
(iv) オンライン診療システムを用いる場合、患者がいつでも医師の本人確認ができるように必要な情報を掲載すること
(v) オンライン診療システムの内容が、後述(イ)「オンライン診療システム事業者が行うべき対策」記載の要件を満たしていることを確認すること
(vi) 医師がいる空間に、診療に関わっていない者がいるかを示し、また患者がいる空間に第三者がいないか確認すること。ただし、患者がいる空間に家族等やオンライン診療支援者がいることを医師及び患者が同意している場合を除く
(vii) 録音、録画、撮影を同意なしに行うことがないよう確認すること
(viii) チャット機能やファイル送付等を患者に利用させる場合、医師側から、セキュリティリスクを勘案した上で、チャット機能やファイル送付等が可能な場合とその方法について事前に患者側に指示すること
(ix) オンライン診療の研修等を通じて セキュリティリスクに関する情報を適宜アップデートすること
(x) 患者が入力したパーソナルヘルスレコード(PHR)を、オンライン診療システム等を通じて診察に活用する際には、PHRを管理する事業者との間で当該PHR の安全管理に関する事項を確認すること
汎用サービスを用いる場合に留意すべき事項 (i) 医師側から患者側につなげることを徹底し、利用する汎用サービスのセキュリティポリシーを適宜確認すること
(ii) 医師のなりすまし防止のため、社会通念上、当然に医師本人であると認識できる場合を除き、原則、顔写真付きの「身分証明書」(運転免許証等。)と「医籍登録年」を示すこと(HPKI カードを使用するのが望ましい。)
(iii) 端末を起ち上げる際に、PW認証や生体認証等を用いて操作者の認証を行うこと。また、汎用サービスがアドレスリスト等、端末内の他のデータと連結しない設定とすること

(イ)オンライン診療システム事業者が講じるべき対策
 オンライン診療システムを提供する事業者についても、所定の要件を満たしたシステムを構築し、セキュリティ面で安全な状態を保つことが求められています。加えて、平易で理解しやすい形で、患者及び医師がシステムを利用する際の権利、義務、情報漏洩・不正アクセス等のセキュリティリスク、医師・患者双方のセキュリティ対策の内容、患者への影響等について、医師に対して説明しなければなりません。

 オンライン診療システム事業者に求められる遵守事項は、概要以下のとおりです。

(i) 医師が負う情報漏洩・不正アクセス等のセキュリティリスクを明確に説明すること
(ii) オンライン診療システムの中に汎用サービスを組み込んだシステムにおいても、システム全般のセキュリティリスクに責任を負うこと
(iii) オンライン診療システム等が医療情報システムに影響を及ぼし得るかを明らかにすること
(iv) 医療情報システム以外のシステム(端末・サーバー等)における診療に係る患者個人に関するデータの蓄積・残存の禁止(医療情報システムに影響を及ぼす可能性があるシステムの場合を除く。)
(v) システムの運用保守を行う医療機関の職員や事業者、クラウドサービス事業者におけるアクセス権限の管理(ID/PWや生体認証、ICカード等により多要素認証を実施することが望ましい。)
(vi) 不正アクセス防止措置を講じること(IDS/IPS を設置する等)
(vii) 不正アクセスやなりすましを防止するとともに、患者が医師の本人確認を行えるよう、顔写真付きの身分証明書と医籍登録年を常に確認できる機能を備えること
(viii) アクセスログの保全措置(ログ監査・監視を実施することが望ましい。)
(ix) 端末へのウィルス対策ソフトの導入、OS・ソフトウェアのアップデートの実施を定期的に促す機能
(x) 信頼性の高い機関によって発行されたサーバー証明書を用いて、通信の暗号化(TLS1.2)を実施すること
(xi) オンライン診療時に、複数の患者が同一の施設からネットワークに継続的に接続する場合には、IP-VPNやIPsec+IKEによる接続を行うことが望ましいこと
(xii) 遠隔モニタリング等で蓄積された医療情報については、医療情報安全管理関連ガイドラインに基づいて、安全に取り扱えるシステムを確立すること
(xiii) 使用するドメインが不適切な移管や再利用が行われないように留意すること
(xiv) オンライン診療システムが、医療情報システムを扱う端末で使用され、オンライン診療を行うことで、医療情報システムに影響を及ぼす可能性がある場合、医療情報安全管理関連ガイドラインに沿った対策を行うこと

 上記の事項のうち、本指針が特に指定する事項については、本指針の定める要件を満たしていることを、第三者機関に認証してもらうのが望ましいと考えられています。

(4)その他オンライン診療に関連する事項

 オンライン診療の実施に当たっては、医学的知識のみならず、情報通信機器の使用や情報セキュリティ等に関する知識が必要となるため、医師は、厚生労働省が定める研修を受講することが求められています。2020年4月以降、オンライン診療を実施する医師は厚生労働省が指定する研修を受講しなければなりませんが、既にオンライン診療を実施している医師は、2020年10月までに研修を受講する必要があります。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う特例について

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、厚生労働省は、令和2年4月10日、「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」という事務連絡(以下「本事務連絡」といいます。)を発出し、電話や情報通信機器等を用いた診療の時限的・特例的な取扱いを認めました。また、令和2年5月1日、「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いに関するQ&Aについて」(以下「特例Q&A」といいます。)により、本事務連絡に関する厚生労働省の見解が述べられています。

 かかる時限的・特例的な取扱いは、新型コロナウイルス感染症の感染が収束するまでの間、具体的には院内感染のリスクが低減され、患者が安心して医療機関の外来を受診できる頃まで継続されることが想定されています(特例Q&A-Q1)。

 以下では、本事務連絡により特例的に認められた診療の実施にあたり、留意すべき事項の概要を説明します。

(1)初診で電話や情報通信機器等を用いた診療の実施について

 本事務連絡によれば、患者から電話等により診療等の求めを受けた場合において、診療等の求めを受けた医療機関の医師は、当該医師が電話や情報通信機器を用いた診療により診断や処方が当該医師の責任の下で医学的に可能であると判断した範囲において、初診から電話や情報通信機器を用いた診療を行うことが可能とされました。したがって、医師側の求めにより、かかる診療方法を実施することはできません。また、医学的な見地から、視覚や聴覚からの情報だけでは適切な診断ができないような場合にも実施すべきでないということになります。

 また、診療の際、できる限り、過去の診療録、診療情報提供書、地域医療情報連携ネットワーク又は健康診断の結果等(以下「診療録等」という。)により患者の基礎疾患の情報を把握・確認した上で、診断や処方を行うことが必要です。診療録等により患者の基礎疾患の情報が把握できない場合は、処方日数は7日間を上限とするとともに、麻薬及び向精神薬に加え、特に安全管理が必要な医薬品の処方をすることはできないとされています。処方日数が7日を上限とされているのは、患者の基礎疾患の情報等の診断に必要な情報が十分に得られないことが予想されるため、処方医による一定の診察頻度を確保して患者の観察を十分に行うためとされています(特例Q&A-Q5)。

(2)初診で電話や情報通信機器を用いた診療を行うための留意点

 医師は、初診から電話や情報通信機器を用いた診療を行うためには、以下に掲げる条件を満たさなければなりません。

  • 電話や情報通信機器を用いて診療を行うことが適していない症状や疾病等、生ずるおそれのある不利益、急病急変時の対応方針等を、患者に十分に情報提供し、説明した上で、その説明内容を診療録に記載すること
  • 対面による診療が必要と判断される場合、電話や情報通信機器を用いた診療を実施した医療機関において速やかに対面による診療に移行する、又は、あらかじめ承諾を得た他の医療機関に速やかに紹介すること
  • 患者のなりすまし防止や虚偽申告による処方を防止する観点から、患者の被保険者証により本人確認と受給資格を確認すること(電話による診療を行う場合、FAX又は電子メールで確認すること)。視覚の情報を含む情報通信手段を用いる場合は、医師も身分証明書を提示して、医師資格を証明することが望ましい

 「初診から電話や情報通信機器を用いて診療を行うことが適していない」場合とは、できるだけ早期の処置や服薬が必要であると医師が判断した場合、診断にあたり検査が必須となる場合等が考えられるとされています。また、初診から電話や情報通信機器を用いた診療により診断や処方が可能であるかの判断は、医師の責任の下で行われるものの、電話や情報通信機器を用いた診療は症状が出現し、診療の予約をしてから診察までに時間を要する場合があること、重篤な症状でなくても緊急的な処置や治療が必要なる場合があること(軽い胸痛や突然の頭痛等)や触診・聴診を行うことが困難であること等に鑑み、電話や情報通信機器を用いた診療には適していない症状をあらかじめ示しておくか、電話による予約などにおいて確認しておくことが望ましいとされています(特例Q&A-Q6)。

 また、診療に際して患者に生ずるおそれのある不利益等を説明するに当たっては、本指針で定める診療計画の策定までは必ずしも求められないとされています(Q&A-Q7)。

 本人確認については、視覚の情報を含む情報通信手段を用いて診療を行う場合、医師については顔写真付きの身分証明書により本人確認を行うこと、また医師の資格を有していることを証明することが求められます(特例Q&A-Q9)。

(3)2度目以降の診療を電話や情報通信機器を用いる場合の留意点

① 既に対面で診断され治療中の疾患を抱える患者について

 電話や情報通信機器を用いた診療により、当該患者に対して、それまで処方されていた医薬品を処方することは、事前に診療計画が作成されていなくても可能とされました。

 また、当該患者の当該疾患により発症が容易に予測される症状の変化に対して、これまで処方されていない医薬品の処方も許容されています。ただし、次に掲げる場合に応じて、以下の要件を満たす必要があります。

ア 既に定期的なオンライン診療を行っている場合
 オンライン診療(本指針に沿って行われる診療)の実施前に作成していた診療計画に、十分な医学的評価を行った上で発症が容易に予測される症状の変化を新たに追記するとともに、当該診療計画の変更について患者の同意を得ること。

イ これまでに定期的なオンライン診療を行っていない場合

 生じるおそれのある不利益、発症が容易に予測される症状の変化等について、患者に説明し、同意を得ること。また、その説明内容について診療録に記載すること。

② 電話や情通信機器を用いて初診を行った患者の再診について
  • 2度目以降の診療も電話や情報通信機器を用いて行う場合、初診を電話や情報通信機器を用いて行う場合の留意点に沿って実施すること
  • 感染が収束して本事務連絡が廃止された後に診療を継続する場合は、直接の対面診療を行う必要があること

(4)実施状況の報告

 上記(1)及び(3)②により、電話や情報通信機器を用いる診療を行った医療機関は、所定の様式により、実施状況を所在地の都道府県に毎月報告する必要があります。これは自由診療の場合であっても同様に妥当することとされています(Q&A-Q12)。

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