会社担当者による訴訟期日の傍聴
訴訟・争訟 当社は、あるプロジェクトにおいて多額の損失が発生したことに関連し、協力会社から訴訟を提起され、すでに半年近くが経過しました。当社の訴訟代理人に就いた弁護士は、先方の主張には法的根拠がなく当社が敗訴することはまずもって考えられないという見解です。しかしその割には、各期日において、裁判官から当社に対し、この点を明らかにせよ、あの点について証拠を出せと、様々なリクエストが出されていることが弁護士の報告書に記載されており、少し不安になってきました。
訴訟期日において、裁判官との間で実際どういったやり取りがなされているのかを確認したいのですが、当社の法務部員に期日を傍聴させることは可能でしょうか。
口頭弁論期日は、公開の法廷で開催されますので、会社担当者が傍聴席で期日を傍聴することは全くの自由です。
弁論準備手続期日等は、原則非公開にはなりますが、事前に裁判所に申し出ることによって、多くの場合、会社担当者が期日を傍聴することが許可されています。
解説
口頭弁論期日の傍聴
訴えが提起されると、裁判所は第1回口頭弁論期日を指定し、当事者を呼び出します。この口頭弁論期日とは、公開の法廷に訴訟の当事者(代理人弁護士)が出頭し、口頭にて訴訟行為(主張・立証等)を行う期日です。第2回以降の期日も、事件が後述の弁論準備手続に付される等しない限り、口頭弁論期日として開かれることになりますし、証人ないし当事者本人の尋問や、判決の言渡しも、口頭弁論期日で実施されます。
口頭弁論を公開の法廷において行うべきこと(公開主義)は、憲法が要請するものです。すなわち、憲法82条1項は、「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ」としており、この趣旨は、裁判所の審理の公正・適切性を国民の監視によって確保することにあります。そのため、公序良俗を害するおそれがあるとして裁判官の全員一致の判断により審理を非公開とすることを決したような(憲法82条2項)きわめて例外的な場合を除き、口頭弁論期日を第三者が傍聴することができることは、基本的には憲法によって保障されているといえます。
したがって、会社が当事者となった訴訟において、口頭弁論期日が開かれる場合、(代表者ではなく)一般従業員にすぎない会社担当者も、当然に期日を傍聴することができます。傍聴のために特別な手続を要することはなく、裁判所が指定した日時に法廷に赴き、傍聴席に座って、裁判官と自社および相手方の代理人弁護士とのやり取りを聞いていればよいだけです。
なお、社会の耳目を集めるような大型訴訟(たとえば公害訴訟、薬害訴訟等)において、傍聴席の数が多い大法廷を使ってもなお、傍聴希望者の数が傍聴席数を上回ることが予想される場合は、事前に抽選が行われて、当選者のみが期日を傍聴できるものとされることもあり、このような場合、訴訟当事者の会社の担当者であっても、期日の傍聴は必ずしも保障されません。もっとも、このような場合は、裁判所から訴訟当事者の会社に対して一定数の特別傍聴券が交付されることもありますので、会社が担当者に期日を傍聴させたいときは、事前に裁判所と特別傍聴券の交付につき折衝すべきでしょう。
弁論準備手続期日等の傍聴
訴訟において、裁判所は、争点整理のために必要があると認めるときは、事件を弁論準備手続に付することができます(民事訴訟法168条)。弁論準備手続は、法廷ではなく、裁判官の執務スペースに程近い弁論準備室で行われ、そこでは、裁判官と当事者代理人とが、法廷におけるよりも比較的自由に主張や意見を述べ合い、争点整理を進めていきます。
ここで、憲法82条が原則公開されるべきとする「裁判の対審」とは、裁判所による審理の核心部分を意味すると解されています。他方、弁論準備手続は、上記のとおり、審理の前提としての争点整理を行うための手続であり、また、このような目的からすれば、形式ばらない和やかな雰囲気で行われるのが望ましいと考えられます。そのため、弁論準備手続は、原則として非公開の手続とされています。
もっとも、民事訴訟法169条2項は、弁論準備手続期日についても、裁判所は相当と認める者の傍聴を許すことができるとするとともに、当事者が申し出た者については、手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認める場合を除き、その傍聴を裁判所は許さなければならないとしています(いわゆる関係者公開)。なお、手続上の支障としては、傍聴者がいることで、当事者が委縮する可能性があるとか、対外的に秘密にしておきたい事柄を話し合うことができなくなるといったことがあると考えられます。
したがって、会社が当事者となった訴訟において、弁論準備手続期日が開かれる場合に、会社担当者がその傍聴を希望するときは、代理人弁護士を通じて裁判所に傍聴希望の申出をすべきであり、この申出をしたときは、よほどのことがない限り、傍聴が許可されるものと思われます。ただし、裁判所にもよりますが、弁論準備室の物理的なスペースが小さく、多人数が入室することが困難な場合があることに注意しなくてはなりません。裁判所が必要に応じて弁論準備手続を行う場所の変更等を行うための時間的余裕を与えるべく、傍聴を希望するときはなるべく早めに裁判所に申し出ることが肝要です。
なお、弁論準備手続期日のほか、和解の期日(民事訴訟法261条3項参照)や進行協議期日(民事訴訟規則95条)も原則非公開の手続であり、その傍聴に関しては、法令上明確な規定はありませんが、弁論準備手続期日と同様、裁判所に事前に申し出ることで、会社担当者の傍聴が許可されることが多いものと思われます。
会社担当者が期日を傍聴することの当否
会社が当事者となった訴訟については、ほとんどの場合、代理人弁護士を通じた訴訟活動が行われるものと思われますが、代理人弁護士は、各期日の状況を報告書にまとめて会社に提出するのが一般的です。したがって、会社担当者が期日を傍聴しなかったとしても、会社は訴訟の動向をある程度把握することができます。
しかしながら、期日における裁判官の発言の微妙なニュアンスなどは、報告書の記載からは必ずしも読み取れないこともあります。また、会社不利の心証について裁判所からサインが出されているにもかかわらず、これを代理人弁護士が看過し、報告書の記載に反映しないといったこともないわけではありません。そのため、毎期日とまではいわずとも、重要な主張・立証が行われる期日で裁判所の反応を見たいときや、裁判所から和解勧試がなされる期日など、訴訟の節目となりそうな期日には、会社担当者が期日を傍聴することも検討に値するでしょう。

島田法律事務所
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