SNSでの炎上を防止するために、従業員に対して行うべきこと
IT・情報セキュリティ従業員がSNS等に不適切な書込みをして炎上するケースをよく目にします。炎上を防ぐために、社内でどのようなルールを設ければよいでしょうか。
企業の従業員がSNSなどを通じて問題を生じさせた場合、従業員本人だけでなくその雇用主である企業にも不利益が生じる可能性があります。従業員の不適切なSNSの使用によるリスクを低減するために、SNS使用規程の制定、誓約書の提出、SNSの使用に関する研修等を実施することが有効です。
また、企業がSNSの公式アカウントを用いて事業活動を行う場合は、アップロードされる前の記事内容等に関する事前チェック態勢の整備が重要です。
解説
はじめに
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やウェブサイト上の掲示板等(以下「SNS等」といいます)が発達した現代社会において、従業員による不適切な情報が発信されることにより企業がいわゆる「炎上」等の被害を受け、信頼回復に多くの労力とコストがかかることも少なくありません。企業が従業員によるSNS等の不適切な使用への対策を講じておくこと、また、採り得る手段について学習し、備えておくことは、危機管理の観点からも重要です。
そこで、ここでは、従業員によるSNS等の使用に関する労務管理について解説します。違法な書込みに対して採り得る裁判手続については、「SNSでの名誉毀損に対して削除請求や発信者情報開示請求をするための手続」をご参照ください。
従業員によるSNS等の使用に関する労務管理
企業の従業員が、SNS等を通じて顧客情報・個人情報を含む企業秘密を漏えいさせたり、第三者に対する名誉毀損やプライバシー侵害、知的財産権侵害等にあたる書込みをSNS等において行ったりした場合、当該従業員自身が不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任等の法的責任を負うだけでなく、その雇用主たる企業についても、従業員管理の不徹底やコンプアライアンス意識の欠如等を理由とする社会的信用の低下・風評被害や、使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償責任等の不利益が生じる可能性があります。
また、近年は、企業の役員が負う経営責任についての関心も高まっています。従業員によるSNS等の不適切な使用によって当該企業または第三者に損害が生じた場合、当該企業の役員も、従業員のSNS等の使用に関する適切な規程・体制の整備・運用を行わなかったことを理由として、当該企業の株主(会社法423条、会社法847条1項および3項)や当該第三者(会社法429条)から任務懈怠に基づく損害賠償を請求されるリスクがあります。
SNS等を含むインターネット上でなされた書込みへの対処としては、「SNSでの名誉毀損に対して削除請求や発信者情報開示請求をするための手続」で解説するとおり、削除請求や発信者情報開示請求が法的手続として用意されています。しかし、事後的な対応とならざるを得ないとともに、削除請求や発信者情報開示請求は全ての書込み等について認められるわけではなく、その意味で限定的な制度といえます。
企業としては、一度SNS等に書込みが行われた場合は必ずしも容易に削除できるとは限らないこと、また、多くの場合、インターネット上の情報は瞬時に拡散し、統制が効かないことを前提に、従業員によるSNS等の使用に関して、以下のような労務管理制度を策定し、実施することが重要であるといえます。
SNS使用規程の制定
企業としては、就業規則のほか、従業員のSNS等の使用に関する社内規程(以下「SNS使用規程」といいます)を設け、その内容を従業員に周知しておくことが重要です。
SNS使用規程には、以下の事項等を明記しておくことが考えられます。
- 公私を明確に分け、顧客情報・個人情報を含む企業秘密の漏えい・開示、第三者に対する名誉毀損やプライバシー侵害、知的財産権侵害等にあたる書込みを行わないこと
- プロフィール欄等で自身の所属企業を明らかにしてSNS等を使用する際には、SNS等における言動が所属企業の意見や主張であるとみなされてしまうことを十分に意識して、とりわけ言動に細心の注意を払い、必要に応じて自身の書込み内容が所属企業の意見や主張ではないことを表明すること(そもそも「所属企業を明らかにしてSNS等を使用してはいけない。」と規定することも考えられます)
- アカウントが他者に乗っ取られる可能性があることを認識し、口座番号やパスワードなどの個人情報をSNS等において記載しないほか、他人に推測されやすいパスワードを設定しないこと
誓約書の提出
SNS使用規程の内容を従業員に周知し、かつ、従業員に責任ある行動をとらせるためには、従業員に、同規程に反する使用をしないことを誓約する旨の誓約書を提出させることも効果的であると考えます。
SNS等の使用に関する研修の実施
適切なSNS等の使用を促すためには、社内規程を整備するだけでなく、SNS等の使用に関する研修を実施することも必要です。研修では、SNS等のもつ有用性とリスクの双方を伝えながら、実際にあったトラブルの事例や裁判例等を交えつつ、規程等に従った適切なSNS等の使用を促すことが肝要です。
公式アカウントを運用する場合
また、近年、従業員が、業務の一環として、SNS等における所属企業の公式アカウントまたは従業員自身のアカウントを用いて企業の宣伝を行う際の言動などを原因として、企業が炎上状態に陥る例が増えています。従業員が業務として行うSNS等における言動は、原則として企業自身による言動と同視されますので、SNS等にアップロードされる前の記事内容等に関する事前チェックの態勢を整備し、十全なチェックを実施することが重要です。

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