過去にまったく同じ発明が記載されている特許出願について登録拒絶は認められるか(情報提供制度)
知的財産権・エンタメ他社の特許出願が公開されたのですが、このような技術は従来から広く行われてきたもので、過去の文献も多数存在します。そのため、当然拒絶されると考えているのですが、放置しておいていいのでしょうか。
特許庁に対して、情報提供を行うことが考えられます。
解説
審査の手続
出願人が特許庁長官に対して特許出願を行うと、特許庁の審査官が、拒絶理由(特許法49条)の有無について、書面に基づいて審査します(書面審査主義)。
そして、審査官は、拒絶理由を発見しないときは、特許査定をします。
拒絶理由は多岐にわたりますが、よく問題になるものとしては、以下があげられます。
①新規性・進歩性(発明の中身の問題)
(i)出願前に公になっていた発明(新規性、特許法49条1号、29条1項)
(ii)そのような発明から当業者が容易に想到できた発明(進歩性、特許法49条1号、29条2項)
拒絶理由 | 内容 | 根拠 |
---|---|---|
新規性 | 出願前に公になっていた発明 | 特許法49条1号、29条1項 |
進歩性 | そのような発明から当業者が容易に想到できた発明 | 特許法49条1号、29条2項 |
②サポート要件・明確性要件・実施可能要件(記載の問題)
(i)特許請求の範囲の記載は、明細書の発明の詳細な説明でサポートされていない(サポート要件、特許法49条4号、36条6項1号)
(ii)特許を受けようとする発明が明確でない(明確性要件、特許法49条4号、36条6項2号)
(iii)明細書の発明の詳細な説明が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえない(実施可能要件、特許法49条4号、36条4項1号)
拒絶理由 | 内容 | 根拠 |
---|---|---|
サポート要件 | 特許請求の範囲の記載は、明細書の発明の詳細な説明でサポートされていない | 特許法49条4号、36条6項1号 |
明確性要件 | 特許を受けようとする発明が明確でない | 特許法49条4号、36条6項2号 |
実施可能要件 | 明細書の発明の詳細な説明が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえない | 特許法49条4号、36条4項1号 |
情報提供制度
審査に必要な先行文献等は、審査官が収集します。
しかし、当業者が把握している文献があれば、それも踏まえて審査を行う方が、より効率的であり、また、的確な判断ができるようになります。
そこで、特許法施行規則13条の2および13条の3は、特許庁への情報提供を認めています。
情報提供制度の内容
情報提供ができる者
情報提供は、誰でもでき(特許法施行規則13条の2第1項、13条の3第1項)、また、匿名で行うこともできます(特許法施行規則13条の2第4項、13条の3第3項)。
情報提供できる情報
情報提供は、すべての拒絶理由・無効理由についてできるものではなく、以下の拒絶理由・無効理由に関する情報に限り、提供できます(特許法施行規則13条の2第1項、13条の3第1項)。
- 新規事項追加(特許法17条の2第3項)
- 非発明または産業上利用可能性の欠如(特許法29条1項柱書)
- 新規性欠如(特許法29条1項)
- 進歩性欠如(特許法29条2項)
- 拡大先願(特許法29条の2)
- 先願(特許法39条1~4項)
- 実施可能要件違反(特許法36条4項1号)
- 先行技術文献情報開示要件違反(特許法36条4項2号)
- サポート要件・明確性要件・簡潔性要件違反(特許法36条6項1~3号)
- 原文新規事項追加(特許法36条の2第2項)
情報提供の方式
情報提供は、書類を提出することにより行う必要があります(特許法施行規則13条の2第1項、13条の3第1項)。
動画等は提出できません。
情報提供の時期
情報提供は、特許登録前はもちろん(特許法施行規則13条の2第1項)、特許登録後であっても可能です(特許法施行規則13条の2第2項)。
情報提供の効果
審査官が情報提供により提出された文献等をふまえ、拒絶理由があると判断すれば、出願人に対して拒絶理由通知が行われ、拒絶理由が解消されない場合は拒絶査定がなされます。
そのため、出願にかかる発明が記載された過去の文献が多数存在するのであれば、それを特許庁に情報提供することは有用であると思われます。
ただし、情報提供された文献等をふまえたうえで拒絶理由なしと判断された場合、後日、特許異議申立や特許無効審判で特許の有効性を争う際に、同じ文献等だけでは無効理由が認められにくくなることも考えられます。
そのため、情報提供に適した案件かどうかを事前に吟味し、また、必要に応じて関連の補強証拠も提出することが望ましいと思われます。

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