株主間契約にはどのような事項を定めるか(その2)
コーポレート・M&Aこの度、当社は、X社より、その100%子会社であるA社に対する出資(具体的にはX社保有のA社株式を譲り受ける)についての提案を受けました。当社が出資した場合の出資割合(議決権の割合)は、当社が40%、X社が60%となることが予定されています。この株主間契約には具体的にどのようなことを定めるのでしょうか。
出資比率、機関設計、役員の選任・解任、重要事項の承認(拒否権)、資金調達、剰余金の配当、株主が保有する株式の譲渡、契約の解除・終了、デッドロックに関する条項等が考えられます。
解説
目次
以下では、取締役会が設置されている会社のケースを念頭に置いて、株主が保有する株式の譲渡、契約の解除・終了、デッドロック等に関する一般的な条項の内容をご説明します。
株主間契約についての概説は「株主間契約はどのようなものか」を、出資比率、機関設計、役員の選任・解任、重要事項の承認(拒否権)、資金調達、剰余金の配当の条項の内容は「株主間契約にはどのような事項を定めるか(その1)」をご参照下さい。
株主が保有する株式の譲渡に関する条項
先買権(First Refusal Right)
株主が保有株式を第三者に譲渡しようとする場合、それ以前に他の株主や特定の第三者に対して当該株式の譲受の機会を与える権利です。株式譲渡を希望する株主の意向を尊重しつつ、他の株主が望まない者が株主になることを防ぎたいという観点から定められるものといえます。以下はその条項の例です。
1.株主X及び株主Yは、本会社の株式の全部又は一部について第三者(以下「譲渡希望先」という。)に対する譲渡を希望する場合(譲渡希望の株主を以下「譲渡希望者」という。)、相手方に対し、譲渡希望先及び譲渡価格を書面で通知するものとする。
2.前項の通知を受領した相手方は、当該通知受領後◯日以内に、相手方又は相手方が指定する者による本会社の株式取得希望の有無を、譲渡希望者に書面で通知するものとする。
3.譲渡希望者は、前項に定める期間内に相手方より本会社の株式の取得希望がない旨の通知を受領した場合、又は当該期間内に相手方より取得希望がある旨の通知を受領しなかった場合、本会社の株式を譲渡希望先に譲渡できるものとする。但し、その譲渡価格は、譲渡希望者が第1項に基づき相手方に提示した譲渡価格より低い価格であってはならない。
4.譲渡希望者は、第2項に定める期間内に相手方より取得希望がある旨の通知を受領した場合、当該通知受領後◯日以内に、本会社の株式を相手方又は相手方が指定する者に譲渡するものとし、相手方はこれを譲り受け、又は相手方が指定する者をして譲り受けさせるものとする。なお、譲渡価格は、第1項で通知された譲渡価格と同額以上とする。
相手方株主は、譲渡希望の株主が通知した譲渡価格を基準に、先買権を行使するか否かを判断することになります。相手方株主にとっては、「通知された譲渡価格では高い」と判断して買取りを断念したにもかかわらず、譲渡希望の株主がそれよりも低い価額で第三者に売却できてしまうのは不合理であるため、3項後段の「但し…」のように、第三者への実際の譲渡価格が相手方株主に通知された金額以上となるよう制約を課しておくことがポイントといえます。
コール・オプション/プット・オプション
コール・オプションは、一定の事由が生じた場合に、相手方に対してその保有する株式を自らに売り渡すよう請求できる権利をいいます。
1.株主X及び株主Yは、◯◯の事由が生じた場合、相手方に対し書面で通知することにより、相手方が保有する本会社の株式の全てを買い取ることができるものとする。
2.前項に基づく株式買取における買取価格は、◯◯とする。
プット・オプションは、一定の事由が生じた場合に、相手方に対して自らが保有する株式を買い取るよう請求できる権利をいいます。
1.株主X及び株主Yは、◯◯の事由が生じた場合、相手方に対し書面で通知することにより、自らが保有する本会社の株式の全てを相手方に買い取らせることができるものとする。
2.前項に基づく株式の買取りにおける買取価格は、◯◯とする。
これらのオプションの行使が可能な事由としては、相手方が株主間契約に違反した場合や株主間契約が終了した場合(解除、当然終了)などが考えられます。
また、会社の業績が一定の目標数値に到達しない場合なども、一方当事者にコール・オプションまたはプット・オプションが付与されるケースがあります。
なお、買取価格の定め方には、たとえば、
- 財務諸表等に依拠した純資産の金額を基準とする純資産方式
- 将来の収益予想等に依拠した収益還元方式・DCF(Discounted Cash Flow)方式
- 相続税財産評価基本通達に規定される類似業種比準価額方式
とするほか、
- 株主が協議のうえ選定した第三者の鑑定による
とする方法などがあり、さらに、
- これらのいずれかの方式による価格とする
- これらの方式の中で最も高い/低い価格とする
など様々なバリエーションがあります。
もっとも、この点は、オプション行使の事由が考慮され、行使された相手方に帰責性がある場合(相手方の債務不履行またはそれを理由とする契約解除のケースなど)には、オプションを行使する側に有利な価格等の条件が設定される例が見られます。
一方、必ずしもいずれかの当事者に帰責性があるとはいえない場合(会社業績の目標未達、デッドロックによる契約解除のケースなど)は、一概にオプションを行使する側に有利な条件が設定されるわけではなく、中立的な価格等の条件が設定されるケースも多く見受けられます。
このように、オプション行使の事由次第では、オプション行使時の効果(買取価格等)が異なるため、コール・オプション、プット・オプションの各条項について事由に応じて別々の条項に書き分けられるケースもあります。
売主追加請求権(Tag Along Right)
ある株主が第三者に株式を売却しようとする場合に、他の株主が、自らも共に同一条件でその第三者に保有株式を売却するよう売却希望の株主に求める権利です。
多数派株主が株式を第三者に売却する場合に、少数派株主自らも株式を売却して投下資本を回収できるようにする観点から、この規定が設けられるケースがあります。
1.株主X及び株主Yは、本会社の株式の全部又は一部について第三者(以下「譲渡希望先」という。)に対する譲渡を希望する場合(譲渡希望の株主を以下「譲渡希望者」という。)、相手方に対し、譲渡希望先及び譲渡価格その他の譲渡条件を書面で通知するものとする。
2.前項の通知を受領した相手方は、当該通知受領後◯日以内に譲渡希望者に通知することにより、自らが保有する本会社の株式の全部又は一部を、譲渡希望者による譲渡と同一の条件をもって譲渡希望先に売却することを請求できるものとする。
3.前項に基づき相手方当事者が請求を行った場合で、譲渡希望先が譲渡希望者と合意した株式数以上の買取りを希望しないときは、譲渡希望者及び相手方は、それぞれが譲渡を希望した株式数の合計に対する各自の株式数の割合に応じて、譲渡希望先に株式を譲渡することができるものとする。
譲渡希望先がすべての株式の購入を望まない場合も想定されることから、3項を規定しておくケースがしばしば見られます。
共同売渡請求権(Drag Along Right)
ある株主が第三者に株式を売却しようとする場合に、その株主が、同一条件でその第三者に保有株式を売却するよう他の株主に対して求める権利です。
これは、譲渡先の希望等により、全株式を一括して譲渡することが必要になる場合に備えて設けられるものといえます。
株主X及び株主Yは、本会社の株式の全部又は一部について第三者(以下「譲渡希望先」という。)に対する譲渡を希望する場合(譲渡希望の株主を以下「譲渡希望者」という。)、相手方に対し、譲渡希望先及び譲渡価格その他の譲渡条件を書面で通知することにより、同一の条件で、相手方の保有する全ての本会社の株式を譲渡希望先に売り渡すことを請求できるものとする。
この請求権が行使された場合、他の株主は、株主としての地位に留まることを希望していても、その地位からの離脱を余儀なくされます。
株式の譲渡制限
前記(1)~(4)などの場合を除き各株主による株式譲渡を制限するものです。
なお、非公開会社であれば、定款規定により、株式を譲渡するには取締役会等の承認決議が必要であるなど(会社法136条、137条および139条)、そもそも株主による株式譲渡は制限されています。
しかし、多数派株主は、自ら指名した取締役が取締役会の過半数を占めている場合には、取締役会の承認決議を成立させた上で第三者に株式を譲渡し、会社の経営から撤退する、あるいは出資割合を低下させることが可能です。少数派株主としては、多数派株主による一定の資本参加があることを前提に会社に出資したという場合も多く、そのような多数派株主による譲渡を制約したいという場面も生じます。
また、少数派株主は、第三者への保有株式の譲渡について取締役会の譲渡承認が得られない場合でも、会社またはその指定する者による買取りを請求することが可能です(会社法140条1項、4項)。多数派株主にとっても、このような買取りによる株主の地位からの離脱を回避したいと考えるケースもあります。
そこで、定款による譲渡制限規定とは別に、契約の相手方(他の株主)からの承認取得も義務付けるものとして、以下のような条項が規定されることがあります。
株主X及び株主Yは、本契約で別途定める場合又は相手方の事前の書面による承諾を得た場合を除き、その保有する本会社の株式の全部又は一部について第三者に対し譲渡し、又は担保に供する等何らの処分も行ってはならないものとする。
契約の解除・終了に関する条項
契約の終了に関する条項
以下の例が考えられます。
次のいずれかの事由が発生した場合、本契約は当然に終了するものとする。
(1)本契約が第◯条により解除された場合
(2)株主X又は株主Yのいずれかが本会社の株主でなくなった場合
(3)株主X及び株主Yが本契約の終了について合意した場合
会社がベンチャー企業であるなど上場もあり得るケースでは、会社が金融商品取引所に株式上場された場合も終了事由に含めることが考えられます。
契約の解除に関する条項
一般的な解除条項としては、以下のものが考えられます。
株主X及び株主Yは、次のいずれかの事由が相手方に生じた場合、相手方に通知することにより本契約を解除することができる。
(1)本契約に基づく義務を重要な点において違反し、当該違反の是正を求められたにもかかわらず、◯日以内に是正されなかった場合
(2)仮差押、仮処分、差押、強制執行又は競売の申立てがなされた場合
(3)破産手続、民事再生手続、会社更生手続、特別清算手続等の法的倒産手続の申立てがなされた場合
(4)支払不能若しくは債務超過に陥り、又は支払停止若しくは手形交換所の取引停止処分が生じた場合
(5)相手方の支配権に変動が生じた場合
(6)その他相手方の責めに帰すべき事由により本契約を継続し難い場合
本条項により解除された場合、解除した当事者は、前記1(2)のコール・オプション、プット・オプションを行使できるように定められることもあります。
デッドロックに関する条項
デッドロックとは
デッドロックとは、株主の意見対立により、会社がその意思決定を行うことができなくなる状態をいいます。
デッドロックが生じる典型的なケースとしては以下の場合が考えられます。
- 株主の議決権割合が50:50である場合に株主総会において株主の意見が対立し、提案議案が株主総会で承認されない場合
- 株主が取締役を同数ずつ指名している場合に取締役会において取締役の意見が対立し、提案議案が取締役会で承認されない場合
- 株主間契約上株主の承諾が必要とされている重要事項について、株主が承諾を行わないことにより、会社がその重要事項を実行できない場合
デッドロックの解消方法
デッドロックが発生した場合には、
- 株主間契約の解除事由となり、契約が解除された場合には、株主が保有している株式について他方当事者又は第三者に対して譲渡を行う
- 会社の解散事由となる
などの効果が認められるようにし、デッドロックの解消を図る規定を設ける必要があると考えられます。以下の条項はその例です。
1.株主X及び株主Yは、次のいずれかの事由が生じた場合、相手方に通知することにより本契約を解除することができる。
(1)第◯条各号に定める事項【※重要事項の拒否権に関する条項】について、相手方が承諾しない状況が◯日以上継続した場合
(2)本会社の株主総会決議事項につき、相手方が賛成しないことにより株主総会の承認が得られない状況が◯日以上継続した場合
(3)本会社の取締役会決議事項につき、相手方の指名した取締役が賛成しないことにより取締役会の承認が得られない状況が◯日以上継続した場合
2.前項に基づき株主X及び株主Yが本契約を解除した場合、解除した当事者は、相手方に対し書面で通知することにより、【相手方が保有する本会社の株式の全てを買い取ることができるものとする/自らが保有する本会社の株式の全てを相手方に買い取らせることができるものとする】。
3.前項に基づく株式の買取りにおける買取価格は、◯◯とする。
第1項第(2)号は、株主の議決権割合が50:50である場合、すなわち、株主間の意見対立により株主総会決議事項を何ら承認できなくなる可能性がある場合に規定することが考えられます。
また、第1項第(3)号は、株主が取締役を同数ずつ指名している場合、すなわち、取締役会において取締役の意見対立により取締役会決議事項を何ら承認できなくなる可能性がある場合に規定することが考えられます。
なお、これとは別に、株主間での誠実協議を行うなどの条項を設けることもあります。上記の例は、第1項各号に定める期間内において、デッドロックが生じた場合に当事者間で解消に向けた協議を行うことを想定したものです。
1.次のいずれかの事由が生じた場合、株主X及び株主Yは、次のいずれかの事由が生じた場合、相手方及び本会社に対し、本会社の解散及び清算を要請することができるものとする。
(1)(略)(2)(略)
(3)(略)
2.前項に基づく要請がなされた場合、本会社は解散するものとし、株主X及び株主Yは、本会社の株主総会において本会社の解散の議案に賛成するよう議決権を行使するものとする。
その他の条項
その他の条項にも様々なものがありますが、以下の条項のほか、契約一般に規定される条項(契約終了後の一部条項の存続、権利義務の譲渡禁止、費用負担、準拠法・裁判管轄等)があります。
競業避止義務に関する条項
株主間契約の有効期間中、またはその終了後一定期間において、株主が、会社の事業と同一・類似する事業を行うことを禁止する旨の条項です。
秘密保持義務に関する条項
株主間契約の当事者である株主が知り得た相手方の情報の秘密を保持するという内容のものであり、一般的に規定されるものと考えられます。
会社解散・清算に関する条項
会社解散時の取扱いとして、
- 株主間で会社の残余財産・損失をどのように分配・負担するか
- 会社が締結していた契約・義務を株主が承継するか
- 会社が雇用していた従業員との契約を株主が承継するか
- 会社が所有する特許、商標等の知的財産権について株主が譲り受けるのか、譲り受ける場合にその条件をどうするか
等の事項を定めるケースもあります。
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