労働基準監督署はどのような調査を行うか
人事労務最近、労働基準監督署による調査が多くなっているという話をよく聞きます。どのような調査がされるのか教えてください。
労働基準監督署の調査は、現在、定期監督、申告監督、災害時監督、再監督があり、労働基準法などの違反の有無を調査する目的で事業場等に立ち入り、主に労働条件、労働時間、賃金、年次有給休暇、安全衛生管理、健康管理などの項目について調査が行われます。
解説
目次
大手広告代理店の社員の事件の影響か労働基準監督署による労働関連法令違反、特に「時間外・休日労働に関する協定書違反」の調査に厳しさが増しているようです。
また、厚生労働省は平成27年度からはインターネット上の賃金不払残業などの書き込み等の情報を監視、収集する取り組みを実施しており、労働者からの書き込みを元に労働基準監督署が調査することもあります。
労働人口の減少によって生産力が低下し、現在働いている社員に頼らざるを得ない状況における厳格な取締りは、経営者に生産性向上という試練を課しています。
企業経営者の方々は税務署を身近な存在と感じていますが、労働基準監督署は接点がないと言います。税務署の税務調査とは少し違う労働基準監督署の調査は、現在、定期監督の他3種類があり、労働基準法などの違反の有無を調査する目的で事業場等に立ち入り、主に労働条件、労働時間、賃金、年次有給休暇、安全衛生管理、健康管理などの項目について調査が行われます。
調査の種類
調査(臨検監督)は以下の4種類に区分されます。
定期監督
労基署の調査の多くは、この定期監督に該当します。厚生労働省が毎年「地方労働行政運営方針」に沿って発表された労働基準行政の運営施策を踏まえ地方労働局で重点業種や重点事項を決定し、定期的な計画をもとに実施する臨検監督のことを定期監督と言います。
重点業種などが決められるため業種により定期監督の調査対象となることがあります。
申告監督
従業員や退職者からの申告により行われる臨検監督のことを申告監督と言います。残業代の未払いや解雇等について労働基準監督署に申告があったときに、その内容を調査するために行います。
災害時監督
一定規模以上の労働災害が発生した場合に、災害の実態を確認するために行われる臨検監督であり、災害原因の究明や再発防止の指導が行われます。
再監督
過去に定期監督等で指導を受けた結果、前回の違反がどのように是正されているかを確認するために再度監督が行われます。なお、指定期日までに「是正(改善)報告書」が提出されない場合や、事業所の対応が悪質である場合などに監督が行われています。
【臨検監督の一般的な流れ】
労働基準監督官による確認のための資料
近年、労働基準監督官は、労働者の過労死防止・健康保持のために長時間労働・サービス残業取締りを強化しています。労働基準監督官は定期監督時に主に次の書類を確認します。
- 労働三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)
- 就業規則
- 労働条件通知書
- 時間外労働・休日労働に関する協定届
- 年次有給休暇の管理簿
- 定期健康診断結果個人票
- 衛生委員会の運営状況
- 産業医の選任状況
- 会社の組織図
臨検監督(定期監督)の内容
臨検監督の内、定期監督では次の内容が確認されます。
労働条件
- 労働条件通知書によって賃金や労働時間・休日が正しく示されているか。
- 労働条件通知書と就業規則は合致しているか。
- 従業員数が10人以上の事業所では就業規則が届出られているか。
- 就業規則を従業員がいつでも閲覧出来るか。
労働時間
- タイムカードがあるか、自己申告による時間管理ではないか。
- 時間外労働がタイムカード通りとなっているか。たとえば30分を切り捨てていないか。
- 時間外・休日労働時間・変形労働時間制に関する協定書は締結し届出ているか。
- 協定書内で定めた時間内の残業時間となっているか1。
賃金
- 賃金台帳は作成しているか。
- 賃金台帳に所定労働時間や残業時間が記載されているか。
- 賃金控除に関する協定書は締結しているか。
- 残業時間数に見合った残業代が支払われているか。
- 残業代の計算は適正か。
- 最低賃金を下回る賃金が支払われる従業員やパート・障がい者はいないか。
年次有給休暇
- 年次有給休暇の管理があるか。
- 年次有給休暇の取得状況はどのようになっているか。
安全衛生管理
- 衛生管理者の選任と届出をしているか。
- 産業医の選任と届出をしているか。
- 衛生委員会は毎月開催しているか。
健康管理
- 健康診断は毎年正社員とパートの一部まで実施しているか。
- 50人以上の事業場では健康診断実施状況報告書を提出しているか。
- 過重労働における医師の面接指導の受診指示をしているか。
定期監督の実施結果
労働基準監督官の調査の結果、労働基準法などの法律違反や改善点がある場合、是正勧告および指導が行われます。法令違反の項目については、その違反項目と是正期日が書かれた是正勧告が交付され、法令違反ではないけれども改善点がある場合は、指導票が交付されます。
是正勧告に法的な強制力はありませんが、不誠実な対応や無視、虚偽の報告等をし、悪質と判断された場合は書類送検されることもあるので注意が必要です。
東京労働局の調査実施結果
平成28年度中に東京都内の労働基準監督署でおきた調査結果は以下の通りです。
定期監督の結果
実施件数 | 9,705件 |
違反事業場数 | 7,395件 |
違反率 | 76.2% |
参考:厚生労働省 東京労働局「平成28年の定期監督等の実施結果を公表します」
申告監督受理件数
申告受理件数 | 4,066件 | |
申告事案の内容 | 賃金不払 | 3,330件 |
解雇 | 573件 |
参考:厚生労働省 東京労働局「平成28年申告事案の概要について公表します」
司法処理状況
東京労働局では、平成28年4月から平成29年3月までの1年間に合計50件の司法事件を東京地方検察庁へ送検しました。
主な送検事項は、賃金不払いに関する違反が13件、死亡災害等を契機とした危険防止措置義務違反が12件、労働時間・休日に関する違反が7件となっています。
参考:厚生労働省 東京労働局「平成28年度司法処理状況の概要について」
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労使協定では月に45時間残業をさせることになっていますが、実態は50時間の残業をさせている場合は36条違反となります。↩︎
