少数株主による度重なる株主総会招集請求への対応
コーポレート・M&A当社では、特定の株主からの請求に応じて、過去に何度か株主総会を開催してきましたが、この株主が提案する議案(自らを候補者とする取締役選任議案)が可決されたことはありません。この度、同じ株主がまたしても取締役選任を議題とする株主総会を開催することを求めてきたのですが、当社はどのように対応すべきでしょうか。
総株主の議決権の3%以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主からの請求であれば、貴社が株主総会を招集しない場合には、この株主が裁判所の許可を得て、自ら株主総会を招集する可能性があります。
ただし、株主総会を招集することに実益がないばかりか、かえって有害である場合で、かつ、この株主に害意がある場合には、裁判所の許可を得られませんので、貴社が株主総会を招集する必要はありません。
解説
株主総会招集請求の要件
株主総会の招集を請求することができるのは、総株主の議決権の3%以上となる議決権(議決権数要件)を6か月前から引き続き有する(保有期間要件)株主です。議決権数要件および保有期間要件については、定款で法定の要件を下回る議決権割合・保有期間を定めることも可能です(会社法297条1項)。また、非公開会社では保有期間要件はありません(会社法297条2項)。
議決権数要件は、招集請求の時に充たしている必要があり、裁判所の許可を得て、少数株主が株主総会を招集する場合は、株主総会の終結時まで充たしている必要があると解されています。複数の株主が有する議決権を合算することによって議決権数要件を充たすことも可能です。
保有期間については、招集請求の時からさかのぼって算定されます。
株主総会招集請求の手続
上記1の要件を充たす株主は、取締役に対し、株主総会の議題および招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます(会社法297条1項)。
株主総会の招集請求は少数株主権の行使に該当しますので、上場会社においては、振替機関に対して個別株主通知を行うよう申し出る必要があります(社債、株式等の振替に関する法律154条3項~5項)。株主は、振替機関から会社に対して個別株主通知が行われてから、4週間が経過するまでに株主総会の招集請求を行う必要があります(社債、株式等の振替に関する法律154条2項、社債、株式等の振替に関する法律施行令40条)。
裁判所による株主総会招集の許可
株主は、以下の①または②の場合には、裁判所の許可を得て、自ら株主総会を招集することができます(会社法297条4項)。
- 取締役が株主による株主総会の招集請求後遅滞なく招集の手続を行わなかった場合
- 株主による株主総会の招集請求があった日から8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集通知が発せられない場合
①については、招集通知が発せられているかだけではなく、株主総会の議決権行使の基準日を設定する場合に基準日設定のための公告が行われないなど、必要な手続が段階ごとに遅滞なく行われているかどうかによって判断されます。
裁判所は、株主による株主総会の招集請求が要件を充たしている場合には、申立てを許可しなければなりませんが、申立てが権利濫用と認められる場合には、申立てを却下することができます。
ただし、重要な事項に関する意思決定は株主総会でなされるべきですから、株主総会の招集請求自体が権利濫用であると判断される場合は限定されることとなり、以下の①および②の要件が必要であると解されています。
- 客観的要件:株主総会を招集することに実益がないばかりか、かえって有害である場合
- 主観的要件:申立人に害意(会社の信用を害し、取締役を困惑させることについての故意)がある場合
株主総会を招集することに実益がない場合としては、分配可能額がないことが明白であるにもかかわらず、剰余金配当を議題とする場合があげられます。
なお、裁判例には、少数株主が招集する株主総会において、株主構成に照らして少数株主の期待する決議がなされるかは、申立ての当否を判断するにあたって考慮する必要のない事項であるとしたものがあります。
株主総会を招集することが有害である場合としては、会社の信用を害する場合や経営が混乱に陥る場合等があげられますが、裁判所は株主総会の議題の適否について審査することはできないと解されるため、その認定は慎重に行うべきであるとされています。
質問に対する回答
貴社に対して株主総会の開催を請求してきた株主が、株主総会招集請求の要件と手続を充たしており、かつ、貴社が株主総会招集の手続を行わない場合には、この株主が裁判所の許可を得て、自ら株主総会を招集する可能性があります。
ただし、この株主は、過去にも何度か株主総会の招集を求めてきており、貴社において株主総会を開催したものの、この株主が提案する議案(自らを候補者とする取締役選任議案)が可決されたことはないとのことですので、過去の事実関係や今回の株主総会招集の理由等に照らして、株主総会を招集することに実益がないばかりか、かえって有害であり、かつ、この株主に害意があるといえるようであれば、株主総会を招集することについて裁判所の許可を得られませんので、貴社が株主総会を招集する必要はありません。

祝田法律事務所
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