株式交換対価の相当性に関する質問に対する説明義務の範囲
コーポレート・M&Aこのたび、当社はA社との間で、当社を完全親会社、A社を完全子会社とする株式交換を実施します。当社は、当該株式交換の承認に係る株主総会を開催する予定ですが、株主総会において株式交換対価の相当性に関する質問があった場合、どの程度説明すればよいのでしょうか。
原則として、説明義務の範囲は、株式交換に係る事前開示書類および株主総会招集通知の参考書類に記載されるべき事項の範囲内にとどまり、これ以上に詳細な説明を行う義務はないと考えられます。
解説
株主への事前開示等
株式交換対価の相当性に関する事項は、完全子会社となる会社の株主にとっては自らに割り当てられる株式等の価値に関する事項であり、完全親会社となる会社の株主にとっても継続して保有する完全親会社株式の価値に影響のある事項です。
そのため、会社法は、事前開示書類において株式交換対価の相当性に関する事項を記載することを要求しています。具体的には、割当対価が完全親会社となる会社の株式の場合、完全親会社となる会社においては、株式の数または算定方法および割当の相当性に関する事項、完全親会社の資本金および準備金の額に関する事項の相当性に関する事項を記載する必要があります(会社法794条1項、768条1項2号、3号、会社法施行規則193条1号)。
さらに完全子会社となる会社においては、交換対価の総数または算定方法および割当の相当性に関する事項、交換対価として当該種類の財産を選択した理由、完全親会社と完全子会社が共通支配関係にあるときは、完全子会社の株主の利益を害さないように留意した事項、完全親会社の資本金および準備金の額に関する事項の相当性に関する事項、交換対価について参考となるべき事項を開示する必要があります(会社法782条1項、会社法施行規則184条1項1号、2号、3項、4項)。
また、株式交換契約の承認にかかる株主総会が開催される場合には、招集通知の参考書類においても、同様に株式交換対価の相当性に関する事項が記載されます(会社法施行規則88条)。
このように、株式交換対価の相当性に関する事項は、事前開示書類により開示され、また、株主総会の招集通知の参考書類にも記載されるため、株主は、株主総会前に事前にその内容を確認し検討することができます。
なお、事前開示書類における株式交換対価の相当性等に関する記載事項の詳細については、「株式交換の対価の割当(比率)決定方法および対価についての定めの相当性に関する事項の記載事項」をご参照ください。
株主総会における説明義務の範囲について
株主総会(定時株主総会)における取締役の説明義務の範囲について、旧商法下の裁判例として、「説明義務の範囲は、商法が一般的に開示を要求している事項を一応の基準と考えることができ」るとした裁判例(広島高裁平成8年9月27日判決)があります。この裁判例は、会社法(当時は商法)および計算書類規則に基づき作成される貸借対照表、損益計算書、営業報告書および附属明細書等の招集通知に添付すべき参考書類に記載されるべき事項が説明義務の範囲を画するものと考えられるとしています。
この考え方は、会社法下における株式交換対価の相当性に関する質問に対する説明義務の考え方にも同様に妥当するものと考えられ、前記のように、事前開示書類等において、株式交換対価の相当性に関する事項の記載が要求され開示されていることからしても、事前開示書類等に記載のない細かな事項や別途調査が必要となる事項について説明する義務はないと解されます。個別具体的な会社の状況により説明義務の範囲は異なりますが、たとえば、以下のような想定問答が考えられます。
相手方当事会社の株式価値の算定について、DCF(Discounted Cash Flow)法を採用したとのことだが、相手方当事会社から提出された事業計画の数値の実現見込みについて、項目別に教えてほしい。
【回答①】
相手方当事会社のこれまでの業績や業界を取り巻く環境等を踏まえ、また、相手方当事会社からもヒアリングの上で検証を行っておりますが、詳細な数値に関する見込み等につきましては一概に単純化してお答えすることができませんので、回答につきましては、控えさせて頂きたく存じます。
株式交換対価の相当性に関して、相手方当事会社と交渉を行ったとのことだが、いつ、誰が、どのような交渉を実施したのか教えてほしい。
【回答②】
事前開示書類および招集通知においてご説明しております通り、独立した第三者算定機関である●●からの算定結果および助言を踏まえて、また、両社の財務状況、業績動向、株価動向等を踏まえて慎重に交渉、協議を重ねて参りましたので、ご理解を賜りますよう、お願い申し上げます。
もっとも、事前開示書類等における株式交換対価の相当性に関する事項の記載に誤りがあったり、株主が合理的判断をするのに客観的に必要な事項を欠くような場合には、事前開示書類等に記載のない事項であっても説明義務を負う場合も考えられますので、留意が必要です。

三宅坂総合法律事務所
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