株式交換の対価の割当(比率)決定方法および対価についての定めの相当性に関する事項の記載事項

コーポレート・M&A

 株式交換の対価の割当比率はどのような方法で決定すべきでしょうか。また、株式交換の対価の相当性について、事前開示書類においてどのような記載を行うべきでしょうか。

 株式交換の対価の割当比率の決定についての公正を担保するため、当事会社の株式価値について適切な手法により算出された第三者算定機関等による算定結果を取得したうえで、当事会社間で交渉を行うことが望ましいです。


 事前開示書類について、割当対価が完全親会社となる会社の株式の場合、完全親会社となる会社は、①株式の数または算定方法の相当性に関する事項、②株式の割当の相当性に関する事項、③完全親会社の資本金および準備金の額に関する事項の相当性に関する事項を記載する必要があります。

 完全子会社となる会社は、①交換対価の総数または算定方法および割当の相当性に関する事項、②交換対価として当該種類の財産を選択した理由、③完全親会社となる会社と完全子会社となる会社とが共通支配下関係にあるときは、完全子会社となる会社の株主の利益を害さないように留意した事項、④完全親会社の資本金および準備金の額に関する事項の相当性に関する事項、⑤交換対価について参考となるべき事項を記載する必要があります。

解説

目次

  1. 株式交換の対価の割当比率の決定方法
    1. 株式価値算定の具体的手法
    2. 第三者算定機関による算定
  2. 事前開示書類における記載事項

株式交換の対価の割当比率の決定方法

 株式交換の割当比率は、完全親会社となる会社および完全子会社となる会社双方の株主の権利、財産価値に重要な影響を与えるため、その比率は、当事会社の企業価値を反映した公正なものであることが要求されます。

 もっとも、かかる割当比率の具体的な決定方法に関して、会社法は特段の規定を設けておらず、また、会社の企業価値は一義的に決定されるものでもないため、実務上どのように割当比率を決定すべきかが重要な問題となります。

株式価値算定の具体的手法

 株式交換の割当比率を決定するに際しては、完全親会社となる会社および完全子会社となる会社双方の株式価値を算定する必要があります。

 株式価値の算定方法については、マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチの大きく3つの方法に分類されます。

(1)マーケットアプローチ

 マーケットアプローチには、市場における株価を基準とする手法市場株価法)、類似企業の株価を基準とする手法類似会社比較法)、類似企業の実際の取引における価額を基準とする手法類似取引比較法)などがあります。

 上場会社の場合には市場株価が存在することから、市場株価法が採用され、具体的には、一定の基準日を定め、前日終値、1か月間、3か月間、6か月間の終値の平均値を基に株式価値が算定されるケースが多く見受けられます。

(2)インカムアプローチ

 将来期待される利益やキャッシュ・フロー予想に基づいて価値を算定する手法です。代表的なものとして、DCF(Discounted Cash Flow)法があります。DCF法は、企業が将来生み出すと予想されるフリーキャッシュフローを、一定の割引率によって現在価値に割り引いて価値を算定する手法です。

(3)コストアプローチ

 対象企業の貸借対照表の純資産をベースに価値を算定する手法です。資産および負債を時価評価したうえで純資産を算出する時価純資産法と、簿価ベースの純資産を基とする簿価純資産法があります。

 実務上は、これら(1)ないし(3)の手法のうち複数を組み合わせて算定を行うケースが多く見受けられます。

算定方法 手法の例
マーケットアプローチ
  • 市場株価法
  • 類似会社比較法
  • 類似取引比較法
インカムアプローチ
  • DCF(Discounted Cash Flow)法
コストアプローチ
  • 時価純資産法
  • 簿価純資産法

第三者算定機関による算定

 公正な価値算定という観点から、株式価値の評価について専門的な知識および経験を有する第三者算定機関に株式価値を算定させたうえで、前記1-1の各種算定方法により算出された結果に基づき、当事会社間で株式交換の割当比率の交渉を行い、割当比率を決定するケースが多く見受けられます。

 このような第三者算定機関による算定結果は「算定書」という形で取得するケースもあれば、「フェアネス・オピニオン」という形で取得するケースもあります。フェアネス・オピニオンは、第三者算定機関が、組織再編における統合比率等が財務的見地から公正・妥当と判断した旨の意見を表明するものであり、一般的に、算定書よりも踏み込んだ内容の文書であるとされています。

事前開示書類における記載事項

 会社法は、完全親会社となる会社および完全子会社となる会社双方の事前開示書類において株式交換対価の相当性に関する事項を記載することを要求しています。割当対価が完全親会社となる会社の株式の場合、それぞれの会社の事前開示書類における記載事項は以下の通りです。

【完全親会社となる会社の記載事項】

事前開示書類に記載が求められる事項 根拠
① 株式の数または算定方法の相当性に関する事項 会社法794条1項、会社法768条1項2号、3号、会社法施行規則193条1号
② 株式の割当の相当性に関する事項

③ 完全親会社の資本金および準備金の額に関する事項の相当性に関する事項

 このうち、①および②については、完全親会社となる会社、完全子会社となる会社それぞれの企業価値の他、当該企業価値の算定結果が具体的にどのような手法を用いて算出されたものであるか、第三者算定機関の意見を取得した場合には、その第三者算定機関の名称や取得した書類の種類(算定書かフェアネス・オピニオンか)、その後の当事会社間における交渉の状況(交渉の経緯や交渉の際に勘案した事項)を記載することになります。

【完全子会社となる会社の記載事項】

事前開示書類に記載が求められる事項 根拠
交換対価の総数または算定方法および割当の相当性に関する事項 会社法782条1項、会社法施行規則184条1項1号、2号、3項、4項
交換対価として当該種類の財産を選択した理由
完全親会社となる会社と完全子会社となる会社とが共通支配下関係にあるときは、完全子会社となる会社の株主の利益を害さないように留意した事項
完全親会社の資本金および準備金の額に関する事項の相当性に関する事項
交換対価について参考となるべき事項
(ⅰ) 完全親会社の定款の定め
(ⅱ) 交換対価の換価の方法に関する事項(交換対価を取引する市場、交換対価の取引の媒介、取次ぎまたは代理を行う者、交換対価の譲渡その他の処分の制限の内容)
(ⅲ) 交換対価の市場価格に関する事項
(ⅳ) 完全親会社の過去5年間にその末日が到来した各事業年度(最終事業年度を除く。)に係る貸借対照表の内容

 このうち、①については、【完全親会社となる会社の記載事項】の「①株式の数または算定方法の相当性に関する事項」および「②株式の割当の相当性に関する事項」に対応するものであり、同様の記載内容となります。

 ③については、同一の企業グループに属する会社同士の株式交換の場合、親会社の利益を優先して交換対価が少なく設定されるなど、少数株主の利益が害される可能性があるため、利益を害さないように留意した事項の記載を求めているものです。具体的には、完全親会社となる会社と完全子会社となる会社とがそれぞれ独立した第三者算定機関から株交換の割当比率の算定結果を取得したことや、完全親会社となる会社の取締役と完全子会社となる会社の取締役を兼任している者について、完全子会社となる会社の取締役会決議や株式交換にかかる交渉、協議に参加しないものとした旨が記載されるケースが多く見受けられます。

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