取引先が民事再生手続を行った場合の初動対応について

事業再生・倒産
大島 義孝弁護士 東京ベイ法律事務所

 取引の相手先が裁判所に民事再生手続を申請したとの情報が入ってきました。これに対する初動として、どのように対応したらよいでしょうか。

 再生債務者からの連絡文書や信用情報会社のウェブサイトなどを通じて、できる限り正確な情報収集に努める必要があります。そして、資金繰りや供給体制などの面で自社の事業活動に影響が生じないか精査する必要があります。

解説

目次

  1. まずは情報収集を
    1. 案内文書での情報収集
    2. 文書が確認できない場合 ウェブサイトでの情報収集
    3. 取引先担当者からの情報収集
    4. 裁判所での情報収集
  2. 事業活動への影響の精査
    1. 自社が再生債権者となる場合
    2. 自社が製品やサービスの販売先である場合
  3. 監督委員による意見聴取手続
  4. まとめ

まずは情報収集を

 取引先が民事再生手続を申し立てたとの第一報に対して、まずは正確な情報収集に努める必要があります。
 情報収集の手段には、以下のようなものがあります。

案内文書での情報収集

 まず、民事再生手続を申し立てた債務者は、申立直後において債権者や主要取引先に対して民事再生手続を申し立てた旨の案内文書を郵便やファクシミリ等で送付し、場合によっては自社ホームページにも掲載する場合が通例で、これによって世間一般に民事再生申立ての事実が知られることになります。
 案内文書には、以下の内容が記載されており、同文書によって民事再生申立てに関する相当程度の情報を得ることができます。

  • 民事再生申立ての事実および保全処分や監督命令の内容
  • 民事再生手続申立てに至った経緯や原因
  • 取引先や債権者に対して迷惑をかけることに対するお詫び
  • 直近で予定している債権者説明会の日時や会場の案内

 そして、同文書にも案内されているとおり、民事再生手続から数日以内に債権者に対する説明会が開催され、説明会において再生債務者から、民事再生手続に至った詳細な経緯、当面の事業運営方針や将来的な事業再建の方向性(自主再建をするかスポンサーの支援を受けるか)が示されます。

文書が確認できない場合 ウェブサイトでの情報収集

 申立直後の時期など上記のような文書を確認することができない場合には、帝国データバンク東京商工リサーチなど信用調査会社が公表している倒産速報のウェブサイトにおいて民事再生申立ての概要が開示され、同ウェブサイトを参照することにより、負債総額、債権者数、倒産原因の概要を確認できる場合があります。
 また、申立代理人弁護士の連絡先が記載されているので、申立代理人の法律事務所に連絡して問い合わせを行うことが考えられます。
 ただし、ウェブサイト上で情報提供がされるまでに時間がかかることもあります。

取引先担当者からの情報収集

 民事再生手続の申立てが確認された場合、自社の担当者から、取引先の担当者に連絡を入れて事実確認することも考えられます。ただし、従業員は法律の専門家ではないため、民事再生手続の詳細について正確な回答を得られることができない点には留意する必要があります。

裁判所での情報収集

 申立直後の時期においては難しい場合もありますが、より詳細な情報を入手することが必要な場合には、申立てのなされた裁判所において事件記録の閲覧謄写を行うことが考えられます。
 利害関係人は事件記録の閲覧謄写が可能であり、債権者や、契約に基づく継続的な取引関係がある者は、その旨を疎明して裁判所において事件記録の閲覧謄写を行うことにより、再生手続申立書や疎明資料などを入手することができます。

事業活動への影響の精査

 取引先が民事再生手続を申し立てた場合、それによって自社の事業活動に影響が生じないかを早急に検討する必要があります。

自社が再生債権者となる場合

 まず、民事再生を申し立てた取引先に製品やサービスを販売している場合には、取引先に対する売掛金について、再生手続に伴う弁済禁止の保全処分に基づき、支払いを受けられなくなります。
 また取引先から受領していた受取手形についても、弁済禁止の保全処分を理由として決済されなくなります。
 したがって、取引先の再生手続申立てが自社の資金繰りに影響しないかについてただちに検討する必要があります。
 仮に売掛金や受取手形の取立不能により自社の資金繰りも窮するような場合には、取引金融機関などに相談する必要があるでしょう。連鎖倒産防止の制度融資を受けられる可能性がありますので、この点についても検討する価値があります。

自社が再生債権者となった場合の影響

自社が再生債権者となった場合の影響

自社が製品やサービスの販売先である場合

 自社が、民事再生を申し立てた取引先から製品やサービスの提供を受けている場合ですが、民事再生手続がなされても製品やサービスの提供について直接的には影響がありません。
 ただし、民事再生手続申立てに伴い、取引先が原材料を仕入れられなくなったり、譲渡担保実行や留置権行使がなされたりすることによって、製品やサービスの供給体制に影響が生じる可能性があります。
 したがって、自社が直接の再生債権者ではない場合であっても、今後の事業継続や商品の安定供給に支障がないか情報を集めながら検証し、サプライチェーンに不安が生じるようであれば、代替業者への変更を検討する必要があるでしょう。

サプライチェーンに影響があれば代替業者に変更を

サプライチェーンに影響があれば代替業者に変更を

監督委員による意見聴取手続

 主要債権者や主要取引先に対しては、裁判所に選任された監督委員から再生手続申立直後に再生手続開始に対する意見を求められることがあります。
 この意見照会に対しては率直な意見を述べればよいですが、主要債権者や主要取引先から特に強固な反対の意見が出されない限りそのまま再生手続が開始されるのが通例です。

まとめ

 取引先が民事再生手続を申し立てた場合、ただちに配布文書や信用調査会社のウェブサイトなどを通じて正確な情報を集めることに努め、集めた情報を分析して自社の事業活動への影響が生じないか早急に検討する必要があります。

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