リスク低減措置としての「疑わしい取引の届出」の対応
ファイナンスマネー・ローンダリング、テロ資金供与対策における、「疑わしい取引の届出」について教えてください。
疑わしい取引の届出は、犯収法に定める法律上の義務です。マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドラインにおいては、疑わしい取引の届出についての「対応が求められる事項」として、7つの事項が掲げられています。
解説
疑わしい取引の届出のリスク低減措置としての意義(AML/CFTガイドラインII-2(3)(v))
疑わしい取引の届出は、犯収法に定める法律上の義務であり、同法の「特定事業者」に該当する金融機関等が、同法に則って、届出等の義務を果たすことは当然です。また、金融機関等にとっても、疑わしい取引の届出の状況等を他の指標等と併せて分析すること等により、自らのマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の強化に有効に活用することができます。
対応が求められる事項
マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(以下、「AML/CFTガイドライン」)においては、疑わしい取引の届出についての「対応が求められる事項」として、以下の①から⑦に掲げる事項が掲げられています。
- 顧客の属性、取引時の状況その他金融機関等の保有している具体的な情報を総合的に勘案した上で、疑わしい取引の該当性について適切な検討・判断が行われる態勢を整備し、法律に基づく義務を履行するほか、届出の状況等を自らのリスク管理態勢の強化にも必要に応じ活用すること
- 金融機関等の業務内容に応じて、IT システムや、マニュアル等も活用しながら、疑わしい顧客や取引等を的確に検知・監視・分析する態勢を構築すること
- 疑わしい取引の該当性について、国によるリスク評価の結果のほか、外国PEPs 該当性、顧客が行っている事業等の顧客属性、取引に係る国・地域、顧客属性に照らした取引金額・回数等の取引態様その他の事情を考慮すること
- 既存顧客との継続取引や一見取引等の取引区分に応じて、疑わしい取引の該当性の確認・判断を適切に行うこと
- 疑わしい取引に該当すると判断した場合には、疑わしい取引の届出を直ちに行う態勢を構築すること
- 実際に疑わしい取引の届出を行った取引についてリスク低減措置の実効性を検証し、必要に応じて同種の類型に適用される低減措置を見直すこと
- 疑わしい取引の届出を複数回行うなど、疑わしい取引を契機にリスクが高いと判断した顧客について、当該リスクに見合った低減措置を適切に実施すること
犯収法・施行規則に規定されている事項に加えて、以下の事項が求められています。
- 疑わしい取引の届出の状況等を自らのリスク管理態勢の強化(上記①)
- ITシステム・マニュアルの活用(上記②)
- 疑わしい取引の届出を直ちに行う態勢の構築(上記⑤)
- 疑わしい取引の届出を行った取引についてのリスク低減措置の実効性の検証・見直し(上記⑥)
- 疑わしい取引を契機にリスクが高いと判断した顧客について、リスクに見合った低減措置を講ずること
上記③の「疑わしい取引の該当性について、国によるリスク評価の結果のほか、外国PEPs 該当性、顧客が行っている事業等の顧客属性、取引に係る国・地域、顧客属性に照らした取引金額・回数等の取引態様その他の事情を考慮すること」および上記④の「既存顧客との継続取引や一見取引等の取引区分に応じて、疑わしい取引の該当性の確認・判断を適切に行うこと」は犯収法8条2項においてすでに求められている事項です。
金融庁が公表している「疑わしい取引の参考事例」は、上記③の「外国PEPs 該当性、顧客が行っている事業等の顧客属性、取引に係る国・地域、顧客属性に照らした取引金額・回数等の取引態様その他の事情を考慮」を判断する際に参考となるものと考えられます。
上記⑤の「疑わしい取引の届出を直ちに行う態勢を構築すること」について、どの程度の期間で届出をするかについては、取引の複雑性等に応じて必要な調査機関も踏まえつつ、個別取引ごとに判断されることになります。もっとも、すでに疑わしい取引に該当すると判断している取引について、たとえば、その判断から届出をするまでに「1か月程度」を要する場合、「直ちに行う態勢を構築」しているとはいえないものと考えられます。
犯収法上の疑わしい取引の判断基準
取引の種類 | 共通判断基準 | 追加的判断基準 |
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新規顧客との特定業務に係る取引 |
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ー |
既存顧客との特定業務に係る取引 |
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高リスク取引
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弁護士法人三宅法律事務所
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